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第百十九話 宴

 授与式が終わると次はパーティだ。冒険者たちだけでなく、キャコタの貴族たちも混じる。

 冒険者と貴族は関わりないと思われがちだが、闇の仕事を頼みには適しているのだ。もちろん犯罪行為ではなく、緊急の事態に対してだが。


 貴族たちはこぞって各地の冒険者たちに話しかけている。彼等と繋がりを持つのはある意味貴重な財宝を得るのと同じなのだ。


「シフンド殿。確かスキスノ聖国では漁業が盛んでしたな。寒い冬の海で育った牡蠣かきや蟹は絶品と聞きましたぞ」


「そうですね。我々の住むところではにしん漁も盛んでして、数の子やニシンの漬物など様々です。それにスキスノ大球と呼ばれる巨大なキャベツも名産ですね。今回の報酬金で新しい船を購入したいですな」


「そうですか。なら我がゾウンセ領の船を購入してはいかがですかな?」


「いやいや、スキスノとキャコタでは季節が違います。あそこは寒い冬が長い。船が壊れては問題がありますぞ」


「それなら私の職人を派遣いたしましょう。スキスノの地でも頑丈な船を作って見せます」


 シフンド三兄弟の長男アフカンが、こじんまりした中年貴族と話をしている。彼はゾウンセ子爵といい、造船に係わる貴族だ。

 アフカンが二つ返事で承諾しないのは、キャコタの造船技術をスキスノに招きたいからである。シフンドも船を作っているが、精々漁船程度だ。本格的な船を作るためにはキャコタの技術者を招きたいのである。

 それにゾウンセ子爵も船を作る木材がほしい。スキスノ聖国は森が豊かで造船に必要な竜骨に相応しい木が生えている。今回の件で繋がりを作ることができたのだ。


「おお、貴殿はエスロギ嬢ですな。私はカシラ男爵と申します。貴殿はモコロシ王国第7王女であらせるとか」


「確かにそうですガ、所詮は気ままな身分デス。お供のパンダ三人と旅をしている最中でございますワ」


「はっはっは、ご謙遜を。それにあと一年も経てば貴殿の弟君が、キャコタ王国学園に入学するとか。でしたら弟君の住まいを提供したいと存じますな」


「そうでございますわネ。弟は政権とは縁が遠いデス。カシラ様が面倒を見てくださるなら心強い者はありませんワ」


「そうですか!! では世話役は私の娘に任せましょう!! 一年後が楽しみですな!!」


 今度はエスロギが話しかけられた。カシラ男爵は恰幅の良い貴族だ。初対面に人間に家族の面倒を見るなど軽率に思えるだろうが、実際は以前から決まっていたことなのだ。

 カシラ男爵はモコロシ王国の外交を担当している。今は息子がモコロシ王国に出張中だ。そしてカシラ男爵の世話する家では、自分の娘を世話役として置く。それは娘をモコロシ王国に嫁がせるという意味だ。

 貴族の結婚は政略結婚だ。本人の意思より当主の意思が強い。とはいえ見知らぬ土地に放り出されるより、婚約者と数年過ごして言葉と文化を理解させる時間を作るのも、親としての役目だ。


 サリョドはサマドゾ王国と繋がりを持ちたい貴族に囲まれている。領内で採れる魔獣の素材は他国より上質だからだ。

 レッドモヒカンのチームはキャコタの魔術師たちが、彼等の使う精霊魔法に対して質問をしていた。

 ヘダオスは昔の仲間だった貴族たちの謝罪を受けていた。ヘダオスは笑って許している。それ以前にゴキョインの命令で冒険者となり、世界各国を回っていたことも明かしていた。

 シジョフ姉妹はヨバクリ王国の名産品をアピールしていた。王国では珍しいキノコやタケノコが採れるのである。さらに竹で作られた尺八もある。

 荷庫小芥子にく こけしはシグマニ王国の話を貴族たちにしている。祖国にある万華鏡などの名産品の話をしていた。


「一体あいつらは何をしているんだよ……」


 その様子をベータスは呆れながら見ていた。冒険者たちは料理に舌鼓を打っているが、羽目を外していない。もっと豪快に酒を飲み、銅鑼の様な声で叫んで暴れると思っていたから拍子抜けだ。


フラワー級やパドルびら級だとそういうものさ。彼等は力だけで階級を上げたわけじゃない。品格と教養を兼ね備えているからなんだよ」


 ゲディスが言った。


「ちっ、わけがわからねぇ。冒険者は自由がほしくて冒険者になったんじゃねぇのかよ。貴族相手にへこへこしやがって。そんなんじゃ自由とは言えないぜ」


 ベータスは悪態をついていた。彼にとって自由とは誰にも束縛されないことだ。そして自分のやりたいように振る舞うのが一番だと思っている。もちろん師匠であるゴロスリに修行を命じられるが、それは仕方がないと考えていた。唯一逆らえないのがゴロスリだけだからだ。


「それは俺も思っていたよ。冒険者なのに面倒事に巻き込まれるなんて御免だってな」


 そこにガムチチが二人の間に入った。両手で右はゲディス、左はベータスの肩を掴む。


「だが冒険をしていくうちに、考えが変わったよ。冒険は自由だが、生死は自己責任だ。責任が取れない奴は死んでいくんだよ。彼等もそうさ、自分に責任を持つから生き残れたし、強くなったんだ」


「ガムチチさん、変わったね。良い方に」


「お前と一緒になるんだ。いくらだって変わってやるさ」


 そう言ってガムチチはゲディスの左頬にキスをした。頬を赤く染めるゲディス。


「なっ、人前で、きっ、キスなんかするなよな!!」


「なんだベータス。お前妬いているのか?」


「妬いてない!!」


 ベータスが怒ると、今度はベータスの右頬にキスをした。


「ほらおあいこだな」


「よかったねベータス」


「よくねぇよ!! ゲディス!! お前は何で浮気されて怒らないんだよ!!」


 喜ぶゲディスに対して、ベータスは怒鳴った。だが本人はけろりとしたままだ。


「知らない人なら怒るけど、相手は君だからね。それに君はガムチチの子供を産んだんでしょ? それなら僕らは愛人同士じゃないか。しかも生き別れの弟だし、問題はないよ」


「おいおいゲディス。愛人はお前じゃなくて俺だぜ。間違えるなよ」


「あっ、ごめんねガムチチ」


 二人はイチャイチャし始めた。あまりな会話にベータスはついていけなくなった。

 離れようとするがガムチチの手が強くて離せない。


「ひさしぶりに一緒になれたんだ。もう少し楽しもうぜ」


「そうだね。僕としては4年ぶりだから、思いっきり羽目を外したいな。ベータスも一緒にやろうよ」


「やらねぇよ!! 大体お前にはマッカって女がいるだろうが!! そいつはいいのかよ!!」


「マッカはカホンワ王国に帰った後でいいんだよ。今は嫁入りの準備で忙しいからね。僕が手伝えることはないんだ」


 そう言ってベータスはガムチチに引きずられる。離れようとしてもスッポンが喰らいついたように離れない。ガムチチたちは客が使う部屋へ消えていった。


その様子をキョヤス王子ことラボンクが微笑ましく眺めていた。横には執事姿のギメチカが立っている。


「ふむ。ゲディスはいい人を見つけたね。数年前にキャコタへゲディスが来たときにちらっと見たけど、陰りがあったからね」


「さようでございますね。私ですらそれを取り除けなかったのですから、ガムチチ殿は大したものです」


 ラボンクとギメチカは顔見知りだ。母親のメイドを務めており、互いに面識はある。もっとも自己暗示魔法がかかったキョヤス王子は見抜けなかった。


「君のおかげで性癖がねじ曲がったのかな?」


「どうでしょうか。私は女の身体でも体験させましたが、男の身体でも乗り気はしませんでした。多分たまたま愛した人がガムチチ殿だったのでしょう」


 ギメチカはそう結論を付けた。ゲディスはカホンワ領でも性に淡泊であった。若い女には興味がなく、さりとて若い男にも見向きもしなかった。

 マッカが婚約者になったが、あくまで貴族の婚礼として受け入れていた。そこから愛を育めばいいと思ったからだ。


「しかしベータス様は平民です。これから貴族の養子となれば、問題はないのですが、本人のやる気がないのが難点ですね」


「そうだな。そこは母上に任せるしかないだろう」


 ベータスは知らないが、彼はブカッタ教団の最高指導者アブミラの元で修行をすることになった。ただし本人には内緒で。キャコタ王国の男爵家の養子にして、ある程度教育を終えたらカホンワ王国のガムチチと婚約させるのだ。

 男同士で結婚などできるわけないと思うだろうが、彼はカホンワ王家の血筋だ。男でも子供が埋める体質を持っている。すでにコンレという子供が生まれているのだ。


 ベータスをガムチチの部下として配置する。それが妥当と思われた。だが数年はかかるだろう。何しろベータスは自由を愛し、束縛を嫌うからだ。


「どうなるかは母上次第だな。何故なら生まれてこの方ベータスを放置し続けたのだ。贖罪の意味もあるだろう」


「さようでございますな」


 ラボンクとギメチカはそうつぶやくのであった。

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[一言] 多くの者が次を見据えてきている感があります。
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