第百五話 ヒシロマの冒険者たち
「皆さん、ようこそ、おいでくださいました。私が、ゴロスリです……」
トナコツ王国のナサガキにある港に、ゴロスリがいた。ピンク色のスライムの身体に、足元には壺が置いてある。彼女の前には50人近い冒険者たちが集まっていた。
青く澄んだ空に、エメラルドのような海が広がっている。白い砂浜にヤシの木が生えていた。
ガムチチをはじめ、ベータスと、赤ちゃんを抱くギメチカもいる。マッカは白いドレスを着ている。
「あれが伝説のスライム、ゴロスリか。初めて見たぜ」
「まさか、ゴマウン帝国初代皇帝だったとはな。さすが魔女はスケールが違う」
「スライムの身体だが威圧感が半端じゃないな。立っているだけで寒気がしてくる」
冒険者たちは彼女を見て、様々な感想を言い合った。ここに集まっている冒険者は花びら級と花級だけである。
シフンド三兄弟にサリョド、レッドモヒカンチームもゴロスリにはただならぬ気配を感じていた。
「では、集まってきてくれた、皆さん。今回の依頼は、キャコタ王国の、クーデターに、関わる話だよ」
ゴロスリが説明した。本来、外国のもめごとに首を突っ込むべきではない。本来冒険者たちが関わる話ではないのだ。
「今回の依頼は、ここにいるガムチチの旦那である、ゲディスを助ける案件だよ」
それを聞いた冒険者たちの顔が険しくなった。
「さらに、キャコタにはガムチチとゲディスの娘、ブッラとクーパルもいる。二人はとある事情で、成人に成長したけど、まだ、経験が浅い。なんとかして、助けてあげたいのです。お礼は、これを……」
そういうとゴロスリはスライムの身体から何かを取り出した。それは彼女の体積に収まっていたとは思えないほどの黄金であった。
空飛ぶ城より若干小さいが、小国なら買えそうな黄金に、ガムチチたちは圧倒された。
「おいおい、ゴロスリさん。そういう事情なら喜んで手を貸すぜ」
シフンド兄弟の赤ふんが答えた。
「そうとも。愛する家族を助けるのに、理由はいらないだろう」
「まったくだ。それに図に乗るキョヤス王子をこらしめたいしな」
青ふんと黄ふんもにこやかに答えた。三人は乗り気のようである。
「お~っほっほっほ!! アタシたちは正義なんかでは動かないわ! 大事なのは愛よ、愛なのよ!!」
サリョドも同意する。他の冒険者たちも賛同していた。反対している人間は一人もいない。
「なんだよこりゃ……。なんでこいつらはあんなめちゃくちゃなクエストに参加できるんだよ……」
ベータスが不機嫌になった。これから戦争をするのに、反対しない人間がいるからだ。
彼は戦争が嫌いだ。書物の影響で戦争は悪だと思っている。実際に戦争はよくないことだとわかっている。
「冒険者ってのは損得勘定で動くが、最も大きいのは他人が経験したことのない冒険をしたいんだよ」
ガムチチが言った。彼は自身も冒険者として、サマドゾ王国でゲディスと共に冒険をしてきた。金稼ぎだけではなく、未知の出会いがたまらなく好きであった。
「というか、これほどの黄金見ると拍子抜けやわ。嫉妬とか盗むとか頭からふっとぶわな」
マッカはゴロスリの黄金を見上げながら言った。金貨の入った袋は好きだが、けた外れの黄金は妬みなど持たなくなるものである。
「足りなければ、銀や銅もあるよ。クエストが終了したら、褒賞として渡すよ」
どうやらゴロスリの身体には豊富な鉱石を有しているようだ。だが冒険者たちには関係ない。
「だがここにいるのは五十人ほどだ。とても足りない。まだ我々の知らない戦力があるのか?」
レッドモヒカンチームのリーダー、フチルンが手を上げて質問した。
「モロチン。ゴスミテ王国では、クロケットが、他の冒険者を、集めているよ。私の船も、持ってる……」
☆
ここはゴスミテ王国の南方にあるヒシロマだ。石造りの港町は無機質な空気を生んでいる。
波止場には一人のウッドエルフが立っていた。彼女はクロケットだ。黒いぴっちりしたドレスを着ている。さらに目の前には五十人ほどの冒険者が待機していた。
ほとんどが女性である。たまたま腕の立つ者が女性だっただけだ。
「よく集まってきてくれました。冒険者の皆様。私はクロケット、今回のクエストの代理人でございます」
「詳しい話は、冒険者ギルドで聞いたけど、あんたの口から話を聞きたいわね」
クロケットに話しかけたのは、黒髪の美女だ。アジサイの刺繍がされた紫色の身体がぴっちりとしたドレスを着ており、ドレスに切れ目があり生足を晒している。半月刀を腰に刺していた。
彼女はモコロシ王国出身の冒険者で、エスロギだ。彼女の後ろには三匹のパンダが二本足で立っていた。胸当てに巨大な金づちを背負っている。
「今回のクエストはクーデターが起きたキャコタ王国で、ゲディスとその娘ブッラとクーパルの救出です。キョヤス王子はあくまでおまけですね」
そう言ってクロケットは自分の胸元から紙を取り出した。
その紙から煙が上がる。そこから山のような黄金が出てきた。
「報酬はこれです。働き次第では追加の褒賞がございます」
「ぐふふ……、ゲディスとガムチチ、愛する二人が引き裂かれてる……、なんてロマンチック……」
小柄の少女が危ない笑顔を浮かべている。彼女はヨバクリ王国出身でピンク色の髪にツインテール、白と黒のゴスロリドレスを着ていた。名前はシジョフという冒険者だ。
他にはシジョフと同じゴスロリを着た、ピンク色の髪で三つ編みの少女は妹のシジョムで、ピンク色のアフロに白と黒のビキニを着ている筋肉隆々の女は末っ子のシジョルだ。
「これは引き裂かれた二人のための、戦いだわ。私は参加する、そして愛する二人を見てみたい!!」
シジョフは鼻血を出しながら言った。彼女は腐女子で男同士の恋愛が好きなのだ。
ここに集まっているのは花びら級と花級の冒険者たちばかりである。ナサガキにいる冒険者たちと同じで金では動かないタイプがほとんどだ。
そこに黒いハーピィが下りてきた。彼女はヒアル。男と交わったモンスター娘だ。
「報告します。キャコタ王国の海域ではキャコタ海軍が巡回しております。防空もしっかりしており、下手に近づくと撃ち落されそうになりました」
「そうか……。手紙のやり取りができるのは大きいけど、実際に確認するのは大事だからね」
クロケットは報告を聞いて頷いた。ここでの責任者は彼女だ。バガニルから英才教育を受けているが、こうした指揮は初めてであった。
かと言ってゴスミテ王国が関わるわけにはいかない。下手に軍隊を動かすとのちにキャコタ王国に遺恨を残してしまう。
この件は無国籍の集団でなくてはならないのだ。もっとも冒険者ギルドでは記録は残るだろうが、あくまで義勇として冒険者を集ったと言えばなんとかなる。
「ふふん。伝説の魔女ゴロスリが関わっているとはいえ、命を落とすかもしれない……。うふふふふ、生と死の隣り合わせ……、ああ、胸の高鳴りが止まらないわ……」
エスロギは悶えていた。目はとろんとしており、よだれをたらしている。発情期の雌犬の様だ。
彼女は危険なことが好きなのだ。特にゴブリンの巣に潜って、乱暴にされたいと思っているが、彼女自身強いため願いはかなわない。
ちなみにゴブリンは猿の魔獣である。モンスター娘にゴブリンはいない。
「えっと、あなたは今回の作戦に賛成なわけね」
「もちろんよ!! 私がお金を払いたいくらいだわ!! むしろ私の身体をめちゃくちゃにしてほしいわ!!」
あまりの勢いにクロケットはドン引きした。
「ゲディス様とは恩があります。義によって助太刀いたしますわ」
こちらは黒い長髪の女だ。人形のように整った顔をしている。銀のハチマキを巻き、白い装束と赤い袴を身に付けていた。
手には長刀を持っている。両手には赤い手甲を身に付けていた。
「おお、コケシ殿。半年ぶりですね」
「はい、クロケット殿も何よりです」
彼女の名前は荷庫小芥子という。遠いモコロシ王国より東にある島国シグマニ出身の女性だ。代々伝わる荷庫神社の巫女だという。旅人や商人の荷を倉庫で保管する商売をしており、荷庫という名字を付けたそうだ。
武者修行として一年前からカホンワ王国に来ている。ゲディスとは冒険者ギルドで顔を合わせていた。まっすぐな性格で猪突猛進なため、簡単な罠にすぐに引っかかる。なので正々堂々と罠や策を乗り越える方法を教えたのだ。
それ故にコケシはゲディスを心酔している。ガムチチの間柄は理解しており、ほほえましいと思っていた。
「ところで船はどこにあるのでしょうか?」
コケシが訊ねた。港には船が泊まっているが、商人の船がほとんどだ。軍艦は軍港の方に泊まっているので見えない。
するとクロケットは胸元から笛を取り出した。笛を吹くと海面に湯気が発生する。
やがて湯気の量は増え、周りが見えなくなった。視界が晴れると海には白いクジラが現れた。
「こいつは霧のクジラだよ。普段は海に同化しているけど、笛を吹くことで実体化するみたい。ガムチチたちもこの霧のクジラに乗っていくんだ。行くときは霧を発生させることで、キャコタ海軍を誤魔化すのさ」
クロケットの説明に、冒険者たちは感心していた。彼女たちはやる気満々であった。
「でも皆さん、慎ましい衣装になりましたね。去年はビキニアーマーとかハイレグレオタードの方がおりましたのに」
肌の露出を嫌うコケシは、冒険者たちを見て漏らした。以前は胸や尻を強調する衣装を着ており、品がないと思っていた。クロケットも肌をやたらと露出した衣装だった。もちろんウッドエルフとして肌の露出は必要なのだが。
「ここ最近、女性の肌の露出は抑えられているのよ。娼婦なら文句は言われないけどね」
「でも男ならパンツ一丁でも文句は言われないのです!! なんと素晴らしいことでしょう!!」
エスロギとシジョフが言った。コケシは顔を露骨にしかめた。
今回新キャラをたくさん出しました。女性陣の肌の露出が少ないのは、なんとなくです。
女性の場合はうるさいけど、男の裸は文句言われないよね。




