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第百四話 冒険者たち

「なんだこれ……」


 ベータスは茫然となった。トナコツ王国の冒険者ギルドには大勢の冒険者が集まってきたのだ。

 集まってきたのはむさ苦しい男たちであった。女性の数は少ない。

 ほとんどが半裸で鎧を身に付けているのは少数である。


 ベータスはへそ出しのシャツとぴっちりした黒色のスパッツを履いていた。お尻の形がくっきりと浮かび、股間も盛り上がっている。

 ガムチチはいつも通りのパンツ一丁で、しきりにベータスの尻を撫でていた。


「おまっ!! 人の尻を撫でてんじゃねーよ!! しかも男の尻を触って楽しいのかよ!!」


「楽しいよ。でもお前は男じゃない、女だ。股間に膨らみはあっても女だよ」


 ガムチチがどや顔でほほ笑む。彼はベータスをゲディスの弟ではなく、妹として扱うことにした。

 ギメチカは娘のコンレの面倒を見ている。なので戦いには不参加とし、相談役になった。


「というか、あいつらはなんなんだ? 変態の集まりじゃないのか?」


「いいや、あれは冒険者たちだな。しかもパトルびら級とフラワー級がほとんどだ。カホンワ王国で見たことがあるぜ」


 ベータスの問いにガムチチが答えた。彼は貴族として勉強の真っ最中だが、冒険者たちとの顔合わせもしていた。領地を護るのはその土地を護る貴族の仕事である。領軍の運営も貴族の当主として避けられない仕事だ。

 だが軍隊というものは規則に縛られている。時には人を殺めたりするのだ。人を殺すだけなら盗賊でも十分だが、規則正しくすることで、軍というものは正当性を保てるのである。

 緊急事態では軍を動かすことが難しい。なので冒険者を雇った方が迅速に動かせるのだ。ガムチチは花びら級や花級の冒険者をよく招き、彼等から情報を得ていたのである。


「おお、あなたはガムチチ殿ではありませぬか!! お久しぶりですぞ!!」


 声をかけたのは熊のような大男だ。髪の毛が肩までワカメのように伸びている。無精ひげを生やしており、腹も樽のように出っ張っていた。

 しかも身に付けているのはふんどしと草鞋だけである。それが三人も並んでいるのだ。

 ちなみに声をかけたのは紅いふんどしで、他は青と黄色のふんどしを引き締めていた。


「「「それ、ふんどしきゅっきゅ、きゅっきゅきゅー!!」


 三人は両手でふんどしを引っ張る。股間と尻が引き締まり、身体から湯気が出てきた。


「うむ。あなたたちはスキスノ聖国を中心に活躍する花級のシフンドさん兄弟ですな。おひさしぶりです。あなたたちに来てもらえるとは嬉しいですな」


「がっはっは!! 我らシフンド兄弟は面白そうなクエストには敏感……、といいたいところですが、今回はヤコンマン台下からの直接の依頼なのですよ」


 青ふんどしが言った。ヤコンマン台下とはイターリ・ヤコンマンのことだ。ガムチチと冒険を共にした仲間である。見た目は美少女だが、中身は男という、男の娘であった。


「さよう、ヤコンマン台下は個人で冒険者ギルドに名指しの依頼をしたのです。ガムチチ殿たちの危機を救ってほしいと。なのでガムチチ殿を狙う不逞の輩を打ちのめしておりましたな」


 黄色ふんどしが胸を張って言った。彼等は知らない間にガムチチたちの補佐をしてくれたようだ。


「というかふんどし一丁で戦えるのかよ。ただの変態じゃないか?」


「ほっほっほ、貴殿がゲディス陛下の双子の弟君ですな? 確かに顔かたちはゲディス殿そっくりだが、性格はあまりよくないようですな」


「ゲディス殿は年が若くともどっしりとした気品の持ち主でございましたな」


「それに剣と魔法の腕も冴えておりました。弟君はどこまでできますかな?」


 シフンド兄弟はベータスを見て嗤った。彼等はゲディスと面識があり、彼からは王の器を感じ取っていた。しかし目の前のベータスはタダの生意気が餓鬼であった。ゲディスの弟とはいえ、敬意を払わないわけではない。ちょっとした挑発をしてみただけだ。


「なんだとてめぇら!! 俺とゲディスを比べんじゃねぇ!! 俺は俺、ゲディスはゲディスだ!! あいつを馬鹿にするのは許さないぞ!!」


 ベータスは激昂した。それを見てシフンド兄弟は、この少年はまだまだ青いと思った。そもそもゲディスではなくベータスを馬鹿にしたのだが、彼はゲディスと決めつけていた。無意識のうちにゲディスを下に見ているのかもしれない。

 赤ふんどしはガムチチの方に視線を向ける。ガムチチ自身もその意図を察し、うなづいただけだった。


「あ~ら、ガムチチちゃんじゃないの。お・ひ・さ・し・ぶりりりり!!」


 甘ったるい声色だがどこか野太い声であった。ふりむくとそこには筋肉隆々の男が立っていた。

 肌は岩のように焼けており、股間には黒いパンツを紐で肩まで釣っていた。

 黒革の手袋に太ももまで伸びた黒い靴を履いている。

 ピンク色の口紅を塗っており、髪の毛は虹のような色彩で染めていた。


 足元には灰色の狼の魔獣がいた。本来魔獣が町に入り込めば騒ぎになるはずだが、誰も指摘しない。許可をもらえたら魔獣を町に入れてもいいのだ。


「あなたは花びら級の魔獣使いのサリョド殿ではありませんか。貴殿も来てくださったのですね」


「もちろんよ~。アタシの従弟のピンチを駆けつけないなんて、ありえないわ~♪」


 そういってサリョドはガムチチに抱きついた。ガムチチもまんざらではない表情である。だがベータスは奇怪な生き物だと思っていた。


「誰だよ、こいつ?」


「あら、あなたがゲディスちゃんの双子の弟ちゃんね~? アタシはサリョド。サマドゾ王国の国王、マヨゾリ・サマドゾの弟よ~ん。家を出て冒険者として活躍しているの。この狼の魔獣はアルジサマよ」


主様あるじさま?」


「ノンノン、アルジサマよ。この子はアタシの忠実なるしもべなの。ほれ!!」


 サリョドは鞭を取り出し、アルジサマを叩いた。凶暴な面構えの魔獣だが、反撃する気はないのか、びくびくと震えている。

 何度も叩くとサリョドは額の汗をぬぐい、満足そうであった。


「ふぅ、気持ちいいわ~。あら、あなた羨ましいのかしら? でもだめよ。アタシはお兄ちゃんと違ってサドなのよ。鞭で叩かれたくないわね。それにアルジサマのご主人様はアタシだから、アタシ以外の人にアルジサマを叩くことは許さないわ」


 サリョドはそう言った。ベータスは叩く気など一切ない。


「あなたはゲディスちゃんと違って、世間知らずっぽいわね~。もうちょっとゲディスちゃんみたいに世間を知らないところっと騙されちゃうわよ~。ガムチチちゃんの愛人になったみたいだけど、甘えてばかりじゃ駄目よ」


「なっ、なんで俺とガムチチの間に子供がいるとばれたんだ!!」


 それを聞いたサリョドは目を丸くしたが、すぐため息をついた。


「やれやれ、ちょっとかまをかけただけなのに、べらべらとしゃべるなんて、なってないわね。ところでこの子とガムチチちゃんの愛の結晶はどこにいるのかしら。挨拶したいわね」


「コンレはギメチカに預けてある。見に行ってやってくれ」


 サリョドはガムチチに挨拶をすると、その場を立ち去った。ベータスはぐったりしている。


「なんなんだよ、あいつらは……。俺の事を馬鹿にしやがって……」


「誰もお前を馬鹿にしていないぞ。ほんの冗談だ。お前はすぐ真に受けるのが悪い」


「なんだとてめぇ!! そもそもお前が俺を無理やり孕ませたから悪いんじゃないか!!」


 ベータスは何かと腹を立ててばかりだ。ゴマウン帝国初代皇帝であるゴロスリの元で英才教育を受けたのに、なぜこんな風になったのだろう。

 それはゴロスリは道徳の事を知らないからだ。あくまで王族として育てられた彼女は庶民のことは詳しくなかった。

 ベータスはアマゾオにある集落で一般女性の元で暮らしてきたのだ。そのため彼の感覚は庶民であり、腕の立つ冒険者でもあった。

 魔獣やモンスター娘と戦うことに関しては一人前だが、こうした冒険者たちとの関りはまったく皆無なのである。


「よろしいですかな?」


 声をかけられた。相手は赤銅色の男だ。真っ赤なとさかのような髪型に岩のような筋肉、その上に黒い太陽の形をした刺青が施されていた。

 身に付けているのは股間を覆うケースのみである。


「自分たちは、カハワギ王国から来たレッドモヒカンチームだ。代表のフチルンである。よろしく」


 フチルンはガムチチに右手を差し出した。ガムチチは彼と握手する。


「おお、噂のレッドモヒカンチームですか。こうして直に話をするのは初めてですね。私はガムチチです」


「そうですね。ガムチチ殿と話をするのは今日が初めてだ。だがあなたのことはゲディス殿から聞いておりました」


「? どういうことですか?」


「実はゲディス殿とご息女たちは我々が保護していたのですよ」


 衝撃の事実であった。なんでもゲディスがブカッタ神の姿に変えられ、双子のウッドエルフの娘であるブッラとクーパルが姿を消して、四日ほど経った日のことだ。

 レッドモヒカンはゴスミテ王国にいた。そこでゲディスたちを保護したという。


「途中で小銭目当てのチンピラに売られそうになったり、反ブカッタ派の人間に殺されそうになったりと大忙しでした」


 なんとかキャコタ王国に入り、アブミラにゲディスたちを引き渡したという。お礼に金貨を一袋貰ったが、必要な経費のみ取り出して残りは教会に寄付したそうだ。


「そうだったのか。あんたらがゲディスたちを守ってくれたんだな。ありがとう」


「どういたしまして。しかしクーデターを起こしたのがキョヤス王子とは信じられないな。なぜなら彼は暴徒に襲われたゲディス殿を助けたのだぞ」


 なんでも金目当ての冒険者たちだったが、キョヤスの剣で倒されたという。護衛をしたのも彼であった。


 一体キョヤス王子とは何者だろうか。ガムチチは首を傾げるのであった。


 他にもドジョウひげを生やした禿げ頭の肥満体に、河童ハゲで顔中ほくろだらけの中年男、黒くて毛深い男がゴリラのように胸を叩いたりしていた。

 さらにアフロのマッチョや禿げのマッチョ、ハゲの肥満体が素っ裸でおならを放りだしている。


「なんなんだ、あいつら。冒険者というより変態の集まりじゃないか」


 ベータスは悪態をついた。しかしガムチチは否定する。


「お前は花級や花びら級の冒険者を知らないんだ。彼等の実力は実際に見た人間でなければ理解できないぜ」

 なんとなく冒険者に任せてみる展開にしてみました。

 そもそもギルドを出したのだから、他の冒険者も出そうと思ったのです。

 レッドモヒカンたちとゲディスが出会っていたのは、最初から考えており、ここで回収できてよかったです。

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[一言] ベータスの知らない強者冒険者たちの美学があるのでしょうか。
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