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ちょこっとあめー  作者: 星
8/13

3-1

 レンとユカが立っていた。


 よく考えれば、別に何も悪いことをしていないはずだ。

 なのに、レンの咎めるような視線を感じ、暖かい手がそっと離れていく。

 寒さを一層感じる。

 夜空には、3つの星が一際明るく光っている。あ、冬の大三角形だ…。

 一瞬現実逃避をしていた。

 この状況、どう切り抜けるべきか、考えていると、


「てか、寒いから家の中に入ろうか?」

「そうだね…」

 とユカの常識的な提案に頷いたものの、ん?と違和感がある、ここ私のうちー! 

 でも、外で色々話すよりは、確かに良いけれどー!

 という葛藤を一瞬で終わらせて、鍵を開けて家の中へ招く。

 久しぶりだけど、割とよくあることだ。レンとユカが急に遊びに来ることは。


 なので、玄関からリビングにかけて、それほど散らかってない。

 けど、一応先に入って見られちゃ困るものは特になさそうかなと、ざっと確認する。


 「おっじゃましまーす」

 重苦しい雰囲気を切り裂くような明るい声でユカは言った。

 その後、ユカは、勝手知ったるなんとやらで、「お菓子もらっていいー?」だの「お湯沸かすねー」だの言っている。家主に断るていをとっているが行動に移してから言っている。相変わらずフリーダムだった。ダメなことはしないからその点は安心している。

 ユカを手伝って、というのも何だか不思議な感じがするが、お茶を入れて4人の前に置く。


 というか先輩、何だか巻き込んでしまってごめんなさい、と心の中で謝る。この状況、どう思っているのだろうと、気付かれないように様子を伺うが、特に困っている様子ではなかった。もちろん、そんな私の様子はばっちりとバレているようであった、全員に。わかりやすいとはこういうことかと思う。

 

 レンは何だか先輩に対して怒っているようで、鋭い視線で見ている。先輩は少し困っている風にも見える。

 ユカは割といつも通りで、お茶おいしー お菓子コレ好きー って普通に楽しんでいるようにも見える。でも、普通に見えるのが、この状況では不自然な気がする。

 

 さて… 進路を問われる三者面談よりも緊迫したこの状況… どうしたものだろう。

 最初に口火を切ったのは意外にもレンだった。

「アイ、何やってんだよ…。」

久しぶりに、名前で呼ばれた! と少し驚くが、そんな状況じゃなかった。あれ? 今ってどんな状況なんだろう。それから、レンが怒っているのは私に対してなんだな、と一瞬のうちに考えて

「生徒会行って、その帰りだけど…。」

それ以上に言うことはあっただろうか、と思いながら、私が答える。続けて、キョウ先輩が補足するように言う。

「こっちは、ちゃんと真面目にやってきたんだけどな…。責められることだろうか、少なくともレンには。」

なんだか室温が下がった気がする。あ、暖房つけるの忘れてた、と気がついたけれど、この状況でつけに行く勇気はない。「さっきの質問を返していいかな。」

ああ、聞いてしまうんだ…。と心の中で思う。

「レンは今日何してたんだ?」

生徒会をサボって、とは言わなかったけれど、キョウ先輩が怒っている感じがしたのはそれかなと思う。

考える余裕があるほど、重く冷たい沈黙が続く。

助け舟を出そうとしたわけではないけれどふと思いついた疑問を口に出す。

「ユカとデートだったの?」

「そうだよ」というユカの声に「違う」というレンの声が被さる。

気まずい雰囲気が広がり、断ち切りたくて、小さく呟く。

「別にどっちでもいいけど…。」

自分の声に冷たさが混じっている気がした。

レンの目がさらに険しくなる。何だか状況が悪化したような気がする。


「今日、花咲さんといたのはなんでだろう。」

これこそ、本当の助け舟というやつなのだろう。見かねたように先輩が切り出す。「ホワイトデーにと言った方がいいかな?」


ああ…そうだった… 今日は…ホワイトデーだ…。

振られた人間にとっては全く関係のないどころか、むしろわざわざ思い出したくなかったのに…。

そういえば、バレンタインデーも気がついたら終わっていた…。あれ、もしかして私の青春終わってる!?

そんなことを考えている間にも、緊迫感のある空気は続いていた。


やがて観念したように、レンは言う。

「ユカに誘われて」

と自供をはじめる。どうやら、お礼は物じゃなくて、一緒に出かけたい場所があると誘われて、甘い食べ物を売る店に行ってきたらしい。

 それをカップルで行うことを一般的にデートと呼ぶのではないだろうか。と考えていると、

「これこれ」

 と、ユカがスマホをとりだして撮った画像を見せる。

 正直どうでもよかったけど、「わー」「へー」と一応リアクションを返しておく。「おいしかったよー 今度行こうねー」って言われても、直接的には否定ではない肯定に見える消極的な意見のような、何となく曖昧な返事しかできなかった。

「つまり、これがバレンタインデーのお返しということかな。」

(それは、今更確認すべき点なのだろうか。)

私は思った。

先輩の言葉にレンは頷き、。

「もらったから、返しただけだ、あくまで。」

と私の方を見て念を押すようにレンは言った。

別に今更特に思うことはないけれど…。疎外感は少しあるのかなぁ…。でも不思議とあまり寂しかったり、悲しかったり感じなかった。

(そうか、3人じゃないからだ…。)

と気が付く。

 もし、これを3人で話していたらどうなっていただろう。想像でしかないけれど、あまり良い想いはしなっかっただろうと考える。

 だから、先輩は居てくれたのかとも思った。勘違いかもしれないけれども。


「レンは、もらったら返すのかな、誰にでも」

気持ちがあっても、なくても、ということだろうか。レンは訝しげに答える。

「今まで、()()()()()もらったことねーけど…」

「……嘘だ」

言葉が勝手に口から飛び出ていた。全員の驚いたような目がこっちに集まる。少し怯んでしまう。

「嘘じゃねーよ…」

小さい声でレンが言う。何でそんな嘘つかなきゃいけねーんだよ、という声が聞こえる。

「だって、私あげたもん…… 去年……」

「嘘だ!」

レンが、言い終わる前に被せてくる。「去年、ずっと待ってたのに、返事待ってたのに、ずっと言わなかったのそっちだろ!」

えっ、とレンの顔を見てしまう。

「手紙に書いたもん、ちゃんと書いたよ! 返事くれなかったのは…」

「嘘だろ! もらってたら! オレは!」

その先を遮るかのように、ユカが

「捨てちゃった。」ごめんね、と軽い感じで言う。

「えっ」

一瞬思考が止まる。捨てたって…言葉を時間をかけて理解する。去年の、私の想いはレンに伝わっていなかったということ、だろうか。

 その瞬間、オセロの白が黒へとパタパタと変わっていくように理解していった。

 でも……

「なんで…。」

と漏れた声は弱々しくて、自分の声だと思ったけど、レンの声だった。

「だって… 欲しかったんだもん。レンの愛が。」

ドキッとする。バレちゃったかー という感じの口調であったが、ユカは、見たことのない表情をしていた。

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