2-1
「これから、長いひとりごとを話します。」
勇気を出して切り出すと、空には明るい星とその隣に刺さりそうなほど鋭い月が光っていた。
☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆
そう言い出したものの、どこから始めようか迷う。
「私は失恋したのだと思います。…多分」
どうしても、曖昧な言い方になってしまう。
当時を思い出しながら語る。
中学校を卒業する少し前、レンにどう思っているのかと聞かれたのだった。
それは、ちょうど、バレンタインデーの少し前だった。
恋愛的な意味だと思い、私は「もう少し待って」と答えた。
想いを込めて手紙を書いて、バレンタインデーの当日、チョコと一緒にかわいい手提げ袋に入れて、贈った。
「直接渡したの?」
先輩の言葉に首を横に振り
「少し、照れくさかったのと、ちょっと勇気が足りなくて」
よく言ってた家なのに、ピンポン押す勇気がでなくて、ものすごく悩んで、帰っちゃおうか迷って、結局玄関の取っ手にかけて帰ったのだった…。
バレンタインデーの後も試験勉強をしていて、卒業式終わった後くらいまで試験が続いていた。
色々終わって、高校に入ってしばらくしてから、ふと気が付く。
「そういえば、返事もらってないなって。」
4月頃は、レンもあと友達のユカと3人一緒の高校だったから、一緒に通っていた。
普通だと思っていたけど、たまに、じーっと何か言いたそうに見られている気がして、でも、聞いても、そっけない感じで……。
何でだろうって考えて、いっぱい色々と考えて、そして、気が付いた。
「もしかしたら、この想いが迷惑だったのかなと」
そう考えると色々気が付くことがあった。
ずっと仲がいいと思っていたけれど、仲が良いのは、ユカとレンだったのかもしれないと。
そういえば、ユカはずっと前にレンのことを好きって言っていたなと。
「ある日、勇気を出して、ユカに聞いたら『付き合っている』と言っていました。」
その時に、ああ、振られていたんだなと気が付いた。
そうなんだろうなと思ってたけど、改めて事実を知るとダメージが大きかった。
「私は、レンのおばさんに、『アイちゃん娘になって欲しい』とよく言われていて、大人の冗談だったのだけど、間に受けてしまっていたのでした。」
誰も否定しなかったし… レンも一度も止めたり否定したりすることがなかった。
「だから助長してしまったのだなと。」
ココアはもう、ホッカイロの役割を果たせないくらい冷たくなっていた。
もう、諦めようと思っていたのに、なんとなく、諦めきれず、
「生徒会も、本当は、レンがいるって知っていた。少しでも、レンと一緒にいられる時間が欲しかった。そしたら、気がついたら、レンから避けられてしまって…… いない方がいいなら、今日は行かないからって言おうと思ったのに、”羽宮がやるんだろ”ってレンが言うから…」
そんな風にレンが、私を真面目な羽宮にしてくれているから、
「先輩がいて良かったと言ってもらえたなら、レンのおかげなんです。」
長いひとりごとを終える。
ココアを開けようと思って、躊躇う。そういえば、お礼言うの忘れていたことに気が付く。
先輩はぼつりと
「君がそういうならそうなんだろうね。」いつもの感じで少しほっとする。無感情無味無臭、少し怒ってると思うくらい温度のない声だった。いつのまにか先輩は手にしていたコーヒーを一口飲みながら、「でも、さっき、僕が言ったのはレンにではなく、君に対して、だよ。」
「他の誰かや生徒会にとっては、どうであったとしても関係ない。僕にとっては」
少し言葉を切る「僕にとっては、君がいないとものすごく困る。」
あれ? 何だか告白めいたことを言われてしまった、気がする。いやいや、うそうそ、今のは冗談。顔が赤いのは恥ずかしい別な意味の告白をしてしまっただけで! えっと、その。
俯いて、1人であわあわしていると、先輩がそっと離れる気配を感じる。カランと遠くでゴミの音がする。
カンカン…と踏切の音がなっている。乗る電車が来るという駅のアナウンスが流れた。
ガタガタシューと大きな音を立てながら、電車がホームに入ってくる。
「レンが、来ないって言わなくても、今日は行くつもりだったんだよ」
君に会いに。
と、ガタガタ煩いのに、他の音全ての音が一瞬消えて、ちゃんと聞き取れてしまう自分の耳が憎い…。
電車の扉が開き、暖かい空気が出迎える。
ほどほどに混んでいた。それなのに、気がついたら、居心地の悪くない場所にいた。そういえば、さっき歩いてた時もさりげなく、先輩は車道側にいた! すごい! 紳士! レンだったら… ああ、そんな風になったことがなかったのは、窓ガラスに映る自分の横顔を眺めながら、レンといる時、この位置にいたのはユカだったからだ。
と、それにつられて、色々と思い出してしまう。
小さい頃のことだった。
「男は車道側で守るものなの!」ってユカがレンを引っ張っていた。それから、なんとなく、2人といる時も、遠くから2人を見ている時も、自然とレンは車道側にいてユカが歩道側にいたことを。
あとは、こんなこともあったっけ。
こんな風に色々と考え込むのをユカは「もー、一人で考え込まないで言ってよ!」って笑いながら怒る。
私も笑っちゃって、思考が途切れて浮上できるのだった。
目の前を見ると、もう少し背の高い人がいる。そういえば、先輩いたんだった。
「そういえば、先輩何駅ですか。」
さっき、こっそり定期見とけばよかった。
そういえば今どこだろう。次駅ついたら、確かめよう。
「送るよ。」
と微笑む。
え、いやいやいやいいですいいです、別に。駅から近いし、大通りだし、慣れてるし、と色んな言い訳を並べたけれど、微笑みの壁に阻まれ、駅に着いてしまって、結局押し切られた。どうせ最寄駅という個人情報はレンから漏れてるのだ…。
電車を降りて、駅を出る。