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ちょこっとあめー  作者: 星
6/13

2-1

「これから、長いひとりごとを話します。」


 勇気を出して切り出すと、空には明るい星とその隣に刺さりそうなほど鋭い月が光っていた。


 ☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆


 そう言い出したものの、どこから始めようか迷う。


 「私は失恋したのだと思います。…多分」


 どうしても、曖昧な言い方になってしまう。


 当時を思い出しながら語る。


 中学校を卒業する少し前、レンにどう思っているのかと聞かれたのだった。

 それは、ちょうど、バレンタインデーの少し前だった。

 恋愛的な意味だと思い、私は「もう少し待って」と答えた。

 

 想いを込めて手紙を書いて、バレンタインデーの当日、チョコと一緒にかわいい手提げ袋に入れて、贈った。


「直接渡したの?」


 先輩の言葉に首を横に振り

 

「少し、照れくさかったのと、ちょっと勇気が足りなくて」


 よく言ってた家なのに、ピンポン押す勇気がでなくて、ものすごく悩んで、帰っちゃおうか迷って、結局玄関の取っ手にかけて帰ったのだった…。


 バレンタインデーの後も試験勉強をしていて、卒業式終わった後くらいまで試験が続いていた。


 色々終わって、高校に入ってしばらくしてから、ふと気が付く。

 

「そういえば、返事もらってないなって。」


 4月頃は、レンもあと友達のユカと3人一緒の高校だったから、一緒に通っていた。

 

 普通だと思っていたけど、たまに、じーっと何か言いたそうに見られている気がして、でも、聞いても、そっけない感じで……。

 何でだろうって考えて、いっぱい色々と考えて、そして、気が付いた。


「もしかしたら、この想いが迷惑だったのかなと」


 そう考えると色々気が付くことがあった。

 ずっと仲がいいと思っていたけれど、仲が良いのは、ユカとレンだったのかもしれないと。

 そういえば、ユカはずっと前にレンのことを好きって言っていたなと。

 

「ある日、勇気を出して、ユカに聞いたら『付き合っている』と言っていました。」


 その時に、ああ、振られていたんだなと気が付いた。

 そうなんだろうなと思ってたけど、改めて事実を知るとダメージが大きかった。

 

「私は、レンのおばさんに、『アイちゃん娘になって欲しい』とよく言われていて、大人の冗談だったのだけど、間に受けてしまっていたのでした。」

 誰も否定しなかったし… レンも一度も止めたり否定したりすることがなかった。

「だから助長してしまったのだなと。」


 ココアはもう、ホッカイロの役割を果たせないくらい冷たくなっていた。


 もう、諦めようと思っていたのに、なんとなく、諦めきれず、


「生徒会も、本当は、レンがいるって知っていた。少しでも、レンと一緒にいられる時間が欲しかった。そしたら、気がついたら、レンから避けられてしまって…… いない方がいいなら、今日は行かないからって言おうと思ったのに、”羽宮がやるんだろ”ってレンが言うから…」


 そんな風にレンが、私を真面目な羽宮にしてくれているから、


「先輩がいて良かったと言ってもらえたなら、レンのおかげなんです。」


 長いひとりごとを終える。


 ココアを開けようと思って、躊躇う。そういえば、お礼言うの忘れていたことに気が付く。


 先輩はぼつりと

「君がそういうならそうなんだろうね。」いつもの感じで少しほっとする。無感情無味無臭、少し怒ってると思うくらい温度のない声だった。いつのまにか先輩は手にしていたコーヒーを一口飲みながら、「でも、さっき、僕が言ったのはレンにではなく、君に対して、だよ。」

「他の誰かや生徒会にとっては、どうであったとしても関係ない。僕にとっては」

少し言葉を切る「僕にとっては、君がいないとものすごく困る。」

 あれ? 何だか告白めいたことを言われてしまった、気がする。いやいや、うそうそ、今のは冗談。顔が赤いのは恥ずかしい別な意味の告白をしてしまっただけで! えっと、その。

 俯いて、1人であわあわしていると、先輩がそっと離れる気配を感じる。カランと遠くでゴミの音がする。

 カンカン…と踏切の音がなっている。乗る電車が来るという駅のアナウンスが流れた。


 ガタガタシューと大きな音を立てながら、電車がホームに入ってくる。

「レンが、来ないって言わなくても、今日は行くつもりだったんだよ」

 君に会いに。

 と、ガタガタ煩いのに、他の音全ての音が一瞬消えて、ちゃんと聞き取れてしまう自分の耳が憎い…。

 

 電車の扉が開き、暖かい空気が出迎える。

 ほどほどに混んでいた。それなのに、気がついたら、居心地の悪くない場所にいた。そういえば、さっき歩いてた時もさりげなく、先輩は車道側にいた! すごい! 紳士! レンだったら… ああ、そんな風になったことがなかったのは、窓ガラスに映る自分の横顔を眺めながら、レンといる時、この位置にいたのはユカだったからだ。

 と、それにつられて、色々と思い出してしまう。

 小さい頃のことだった。

「男は車道側で守るものなの!」ってユカがレンを引っ張っていた。それから、なんとなく、2人といる時も、遠くから2人を見ている時も、自然とレンは車道側にいてユカが歩道側にいたことを。


 あとは、こんなこともあったっけ。

 こんな風に色々と考え込むのをユカは「もー、一人で考え込まないで言ってよ!」って笑いながら怒る。

 私も笑っちゃって、思考が途切れて浮上できるのだった。

 

 目の前を見ると、もう少し背の高い人がいる。そういえば、先輩いたんだった。

「そういえば、先輩何駅ですか。」

 さっき、こっそり定期見とけばよかった。

 そういえば今どこだろう。次駅ついたら、確かめよう。

「送るよ。」

と微笑む。

 え、いやいやいやいいですいいです、別に。駅から近いし、大通りだし、慣れてるし、と色んな言い訳を並べたけれど、微笑みの壁に阻まれ、駅に着いてしまって、結局押し切られた。どうせ最寄駅という個人情報はレンから漏れてるのだ…。


 電車を降りて、駅を出る。


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