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ちょこっとあめー  作者: 星
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 「羽宮ちょっといいか」


 と昼休みに入るチャイムと同時に、先生から呼び出された。長々とした前振りと婉曲的表現を取り除いて、端的に言うと「放課後、雑用してください」という依頼だった。

 というのも11月から生徒会に入ってしまったのだ。しかも、自分でも呆れるくらい不純な動機で。レンも生徒会に入るということを知っていた。少しでも、レンとの接点が欲しいと思い……。まあ、結局のところ全て自業自得なのだ。

 一応、依頼という形をとっているが、放課後に、部活や委員会など、回避できるような予定が一切ない私の答えの選択肢は、「はい」or「わかりました」だ。もちろん、今日もどっちも選択して決定する。


(ご飯食べる時間あるかなー)


 時計を見てため息をつく。放課後までもてばよいのだ。少しだけ食べてあとはー…。食べかけのを放課後に食べるのはなー…。帰ってから考える事にする。

 窓を見ると雲が出てきた。雨は降らないで欲しい。雪ならちょっと嬉しい…いや、寒いのはちょっと嫌かな…。

 席に戻ると友達がニコニコしていた。何だろう。

 先生に呼び出されたー、放課後雑用しなきゃなんだよー って愚痴るとあからさまに友達はがっかりしていた。


 ☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆


 放課後になる。


 うん、誰もいない。しかし、仕事は山のようにある。比喩ではなく、書類の山が見える。人手不足なのだ。ポストイットに締め日と指示内容が書いてある。見えない。見たくない。

 

 目をそらす。絶対倒れないように立てて置いてあるカバンの中から<12個入っているという名称>のチョコレートを取り出す。終わったら食べるのだ。これを、馬の鼻先にぶら下げた人参のようにして頑張ることにする。


 幸い今すぐやらなきゃで私1人でも出来そうな作業はこの羽宮愛が最も得意とする判子ぺったんだった。熟練の技(数ヶ月)をとくとご覧あれ! 誰もいないけど!

 

 スタンプに数回押して、タンと書類に押す。ペ、ペ、タン、ペ、ペ、タン…と単調なリズムを繰り返していく。

 

 生徒会は私を含めて1年生3人の2年生3人の計6人いる。役職はない。部活からや先生からの推薦よってほとんど内定している。選挙は一応するが、他に立候補者がいても、実質ほぼ当確だ。


 だが、生徒会に推薦されるほどの方々ともなるとお忙しいらしい。部活のエースとか、真面目に活動している委員会とか、あとは、デートとか…。最後のはさておき、校内の用事であれば、終わってから来ることもあるけど… 今は卒業前で忙しい… のかなぁ……。


 今日は特にみんな忙しそうで、放課後も何だか廊下でもみんな帰らずにざわざわしている。生徒会室は静かでいいなー ペペタン、ペペタン…とテンポよく作業していく。


 などととりとめのないことを考えつつも、集中して作業をする。


 最後一枚に判子をタンと押す。

「よしっ、おわったー!」

 と叫んでガッツポーズした瞬間、ガタっと音がする。びっくりして音の方を見に行く。書類の山の向こうには先輩がいたのだった…。

(やってしまったー!!!)

 心の中で絶叫する。部屋に入ってからの自分の行動を振り返る。変なことを言ったり叫んだりしてなかっただろうか…。

 しかも。生徒会に所属する2年生の先輩、神石京だ。ちょーすごい人! らしい…。友達が、ものすごくよく知っていて、生徒会に入る前に聞いたら、先輩の容姿や偉業を、華麗な表現を駆使して熱弁していた。若干引きつつ「へー そうなんだー」と答えておいた。


 でも、今日は、少しぼーっとしている感じに見える。

 眼鏡もしてない…。


「先輩、お疲れですか?」


 とりあえず探るように聞いてみると、


「そう見える?」


 ぐーっと伸びをしている。

「あ、寝てたの内緒ね」と少し笑って言う。

やはり寝てたらしい。2年生って大変なんだなー… と思いながら、


「じゃあ、コレもご内密にお願いします。」


と言ってチョコの箱を持ってきて、差し出してみる。

先輩は笑って「ありがとう」手を伸ばして1つ取ってから、「あー…チョコかー…」と呟く。

あれ、キョウ先輩、甘いもの苦手だったんだー。たまにこうして、こっそりみんなでお菓子分け合ってたけど気付かなかった!


「でも、甘いもの食べると疲れ取れるらしいですよ」と言ってみる。「甘いもの苦手でも、疲れてる時は美味しいって感じるって聞いたことがあります。」


「いや、苦手ってわけじゃないんだ。ありがとう。」


と笑って、口に放り込む。

 先輩は少し考えながら、


「羽宮さんは、好きなの?」


 と聞かれる。


「はい! すごく好きです。」


 私は頷いて、あ、と今朝の出来事を思い出す。「でも、最近太っちゃったのかもしれなくて」

 ふと思いついて口に出してしまった。先輩は一瞬ものすごく驚いたような表情をして考え込んでいる。そのあと不思議そうに、


「そうは見えないけれど…」


 首をかしげつつ言う。唐突だったのかもしれない。でも、話し始めちゃったので、


「そうなのかな……でも、レンが言ってたから… あれ言ってなかったかな…」


 悩みながら言うと、


「……レンって、龍谷かな?」


 先輩は少し考えるようにして言う。


「はい…朝…」


 朝、コンビニ前での謎のできごとを思い出しながら話した。

 聞き終えると先輩は少し面白そうに笑って、


「ふうん…。それは…」少し迷ってから「多分、太ったって意味じゃないんだと思うから大丈夫だよ。」

 と言ってくれる。答えを聞いて、ああ、そうか。と少し納得をした。多分、私は、きっと、誰かに、そう言って欲しかったのだと思う。安心した途端、遠くの方でゴロゴロと言い出す。


「あ、雷かな、珍しいね。」


「ええー、傘あったかな。ちょっと教室見てきます。」


「ああ、僕は折りたたみあるから。残りやっとく。帰って大丈夫だよ。いつもありがとうね、あとチョコも…」


 先輩の言葉に頷き、お言葉に甘えて急いで帰ることにした。


 この時、私は、レンの行動の真意を聞くのを忘れていた。否、わざと、聞かなかったのかもしれない。後から思うとどうにかできたのかもしれないと悩むのだけど、どちらでも同じことで、どちらにしろ同じことだった。


 家に入るちょこっと前に雨が降り始め、ちょこっとだけ濡れてしまった。

 雨なので、空には星は見えない。

糖度上がって参りました。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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