A cruel and happy world, good morning. Say hello in the future
また遠夜の笑顔が見たい。少し舌っ足らずで幼いような話し方で。懸命に話す遠夜の話を聞きたい。
どんな些細なことでも、聞いていたい。
祈るように海月は、目を閉じた。
※※
「あのね? 俺ね。これが、嘘でもよかったの」
遠夜は、深い底で呟く。
「だって、碧がいたから。偽物の俺でも愛してくれたから」
まるで、誰かに語り掛けるように遠夜は、続ける。
「でも。でもね。俺は、もう無理だったの。俺が一方的に友達と思ってた人に嫌われたから。俺が、全部壊したの。化け物だから」
ふ、と遠夜は悲しそうに笑った。
「昔、ある絵本を読んでもらったの思い出したの。んと、嘘つき狼さんのお話。その狼さんはね。嘘つきなの。でも、それは嫌われるのが怖いからなの。ふふ、おかしいね」
くすくす遠夜は嗤った。
「俺も怖かった。だって、今の幸せがなくなるから。碧は、優しいから化け物にも優しくしてくれるんだ。でも、ね。ぐらぐらなの。足元不安定なんだ」
遠夜はゆっくり歩きだす。一歩、二歩。三歩、四歩――。
五歩目で足を止める。
「ねぇ、十夜はこんな世界嫌い? 憎い? 殺したい? 死にたい?」
十夜は、遠夜の質問に黙る。濡れ羽色の瞳がゆらりと揺れて。一筋の涙が零れ落ちた。
「わ、れは」
「うん」
「別段嫌いでは、なかった。志知瀬が、いたから。あやつが、いたから。我は幸せだった。けど、」
「怖かったんだよね。今まで信じて歩んだ自分の道を逸れて歩くのが」
こくり、と十夜は頷いた。怖かった。信じていたものが、今までそれを信じて歩んでいた道がなくなるのが。
だから、おまじないを呪いに変えた。志知瀬の言葉も信じた。
けれど、残ったのは激しい後悔と哀しみだった。
当てつけの様に、子孫を残した。今、それが、目の前の彼に深く移ってしまった。
遠夜の命の灯は消えそうなぐらい弱かった。それは、軸である十夜が思い悩んでいるからだ。
「十夜は、どうしたい? この世界を愛したい? 慈しみたい? 護りたい? それとも、俺と一緒に生きる?」
「い、いいのか。我は、貴様から家族を奪った。これから、も。後悔をするぞ」
「何言ってんの。元はこの身体十夜のでしょ。それに、ね。後悔した分、幸せが来るんだよ? だから、帰ろう。俺達の世界《家》に」
「う、んっ」
十夜は、遠夜の手を取った。混ざる、交ざり合う。
十夜の感情、記憶。
遠夜の記憶、感情。
おかえり、兄弟。
……ただいま、片割れ。
※※
遠夜が目覚めて一週間。未だに九重と遠夜の関係はぎこちない。
それでも、前よりは大分マシになった。
「遠夜はんー。洗濯もん取り込んだで」
「有難う」
九重から渡された洗濯籠の中の洗濯物を取り出したたむ。
あの事件から、遠夜の表面意識は十夜が主になった。
十夜の時は、無口で無表情だ。最初二人は戸惑いながらも、受け入れていくと決めていた。
それは、同情からでも憐みからでもない。
遠夜が十夜でも。それ以外の何物でもないのだから。
「……九重君。あのね」
完




