世界から左様なら出来たら、どれだけ楽なんだろうね?
※※
今のシェアハウスの空気と言ったら過ごしにくい空気が流れている。九重は遠夜を避ける。
そりゃ、人肉食者なんて告白されれば、今まで築いていた信頼とか脆く儚く崩れ行く。
だから、か。遠夜は九重の心の傷だと言い訳してリストカットを繰り返していた。
左腕におびただしい痕を残して。本音は、今の現実から逃れたい一心でやっていた。
自分を傷付ければ少しは楽になる。
だが、こんなことをしていても、解決するわけではない。九重と話し合わない限り二人の溝は埋まらないのだ。
今日も九重に無視され、遠夜は哀しみを自分の腕にぶつける。カッターナイフで、腕を切れば紅い雫が零れ落ちる。
「あはは……」
既に遠夜の心は限界だった。海月の前ではなんとか平静を装っていた。
混ざる十夜の記憶に感情。気に食わないなら、食べてしまえと十夜が囁く。
そんなことしたくない。父さんと母さんみたいなことにはもうなりたくない。
どうせ、後10年生きれるか分からない身体だ。このまま嫌われた方がいいのかもしれない。
いや……。
「いっそのこと俺が死ねば解決するよね」
出来るはずないことを口から零しては自嘲的な笑みが零れ落ちた――。
あの日から、遠夜は部屋に籠りがちになった。何も口にしなくなった遠夜。
海月は恋人の身を案じていた。
シェアハウスのことを今は、海月が何とか頑張ってやっていた。けど、遠夜のように完璧に掃除もできない。
洗濯も料理も。
以前出ていくと言っていた九重は海月の説得のおかげで何とかこのシェアハウスに残っている。
それでも、遠夜と顔を合わせるのは嫌なのか、朝早くに出かけては夜遅くに帰ってくる。
食事は海月が作ったものしか口にしなかった。
九重曰く
「人肉食者の飯なんて食えへんわ」
だそうだ。
徹底的に遠夜を避けていた。海月は一時怒った。
遠夜を悪く言わないでと。でも、九重は頑なに態度を変えなかった。
それから、遠夜は部屋から出てこなくなった。
物音も何もしない遠夜の部屋。不安が募る。
だが、入るのも何故か憚れた。




