一人で寝れば悪夢がやってくる……
「遠夜、泣かないで。私達は、大丈夫だから」
黒髪の女性は泣きながら、『俺』に語り掛ける。
大丈夫。大丈夫とうわ言の様に繰り返されるそれは、パタリと閉じた。
真っ赤に染まっている両手。ああ、赤い。紅い。朱い。
そこで、『俺』の意識は途切れた。
※ ※
目を覚ませば、いつもの自室だった。床が赤くもなければ、両手が朱く染まっているわけでもない。
ただ。
「う、ぇ……っ」
酷く吐き気を覚えた。布団に吐き出される胃液。空っぽの胃がぐるぐる回る。視界も回る。廻る。
胃液をどれだけ吐いても、吐いても。吐き気は収まらなかった。胃が口から出るのでは。なんて、馬鹿げたことを考えていた。
どれだけ、胃液を吐いていたのだろうか。ようやく収まった吐き気。
時計を見れば朝の六時を過ぎようとしていた。
一人で寝るとこうだ。恋人と寝た方がマシだったかもしれない。
胃液まみれのシーツをはがして、階下に降りる。軽くシャワーを浴びながら、シーツを手洗いする。
洗濯機に放り込んで、朝食の用意を始めた。
食事を作るのは、好きだ。食べるのは嫌いだけど、食べている人の喜んだ顔。美味しそうに食べる顔。
それらを見るのが、好きだった。
味見をしようにも、口の中がすっぱい。やむを得ず味見を諦めた。二人には悪いが、味付けにムラがあっても怒らないでほしい。
今日は焼き鮭と、合わせ味噌汁。白米に、ほうれん草のおひたし。
どれも、美味しそうに見える。食べてないので、美味しいか分からないが。
一度幼馴染に言われたことを遠夜は、思い出した。
「こんなに美味しいのに、食べれない遠夜が可哀相」
同情とかではなく、本心で思ったことを彼は口にしただけだろう。
ただ、その言葉が酷く心に刺さった。確かに、自分の作った食事を含め食事を摂れないのは、可哀相になるのだろう。
だが、何故か、食事をする行為が嫌いだった。今は軽いものなら食べれるようになったが、人目のある場所では少し遠慮したい。
エプロンを脱いで、遠夜は時計を確認した。七時前。もうじき二人が起きてくるだろう。
その前にと遠夜は、栄養ドリンクを飲み始めた。




