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if√if  作者: 北口
【IF世界編】Fork Of The One
21/21

END1 Silence of the Dead

ーーー


「…ただいま」


千切れた指は、元に戻らなかった。

なんでか?それはきっと…あの世界が本筋だから。

指輪は左手の中指にはめた。


あそこは“次の枝分かれ”よりも前の部分。つまり根源、原点、オリジナル。

そしてここは…幾つも在るうちのひとつ。


本筋からしたらどうでもいい…もしものもしものさらにもしも。

本筋からは近いけれど、遠すぎて…本来視えない世界。

ここから先の枝分かれは無い、終点…エンディング、なのだから。


闇の世界で独り立つ。

眠ったフィーリアに視線が行った。


…もう、動いてはくれない。


でも何故か…穏やかな寝顔を浮かべているように見えた。


…フィーリアの頬に触れる。

彼女が最期にしてくれたように優しく撫で…そしてーー思い出した。


…頬についた彼女の血が落ちなかったのは…傘を、さしてくれたからだ。



家を飛び出す。

雨の世界は終わりを告げていて…幾つか、大きな足跡のような水溜りが出来ていた。


「裏神!」


小走りで追うと、1分足らずで追いついた。

目の前にあるのは小さな背中。

雨が止んだことに気づいていないのか、傘を差したままの少女は名前を呼ばれて振り返る。


「北神さん?…大丈夫、なんですか?」


声の主に驚き、一歩踏み出すと、顔を見据え…雨が降っていないことに気づいたのか、傘の外に手を出し確認し傘を閉じる。


…戦闘の後、様子を見に戻ってきた裏神が、小さい体でも懸命に傘をさしてくれていたから…彼とフィーリアはさして濡れずに済んだのだ。

…代わりに、彼女の体は雨で濡れてしまっていたが。


「…ああ。…家まで送る。遅い時間だ」


「…いいんですか?」


ーーーーーーーーーーーー


並びながらに歩く。

水溜りだろうと構わず進み、ポチャリという音と共に、水面から水が飛ぶ。


「…あの人は…大切な人だったのですか?」


「…ああ。……大切だ。今までも、これから先も、ずっと」


顔を覗き込むようにしてきた裏神に笑顔を見せる。


「っ…!ごめん、なさい…私が今日のことを貴方にお願いしたから…!」


見たことのない種類の顔に息を呑む。

そして立ち止まり、横を歩く彼に頭をさげる。


「いや、いい。選んだのは俺で、そしてあいつでもある。可能性の話は、やめておこう。…それと、傘、ありがとな」


顔を上げた裏神は、彼の瞳を直視する。

普段絶対に言わないであろう直球の感謝の言葉に、一瞬だけ裏神は固まった。

そして…悟ったような、何故だろう…辛いはずなのに辛くなさそうな瞳に、裏神は疑問符を浮かべる。


「…悲しそうじゃない、と?…悲しいさ。だが…良いことがあったら、悲しい時でも人間は、笑うだろ?」


「…???」


はは…と小さく笑いながら、左手を裏神へ見せびらかす。

無い人差し指と、在る中指の指輪。


「そ、その指…!」


治療を施してみたが、指は生えてきやしない。傷口を塞いだだけだ。

接着剤のようにくっつけることも叶わないだろう。


「ああ…これは、このままでいいんだ」


もしかしたら天使の手にかかれば治るかもしれないが…やめておくことにした。


名前を新たに付けられて、その名で呼ばれるたびに嬉しくなるように…この無くなった、本来あるはずの人差し指を見るたびに、“彼女”と“願い”を思い出せる。


「あいつ…フィーリアに、託されたものがある。助けられなかったのは…苦しい。、、、辛い。…でも、なんでか…今は笑いたい気分なんだ」


そんな話をしていると、裏神の家に着いた。

少し大きめな家の灯りはついている。両親は起きているらしい。


「それでは…また、明日」


「ああ。…じゃあな」


家の小さな門を開け、扉に手をかける。何かに戸惑っているのか、そこで少し立ち止まり…やがてドアノブに手をかけ、扉を開けた。


「あ、あの…っ!」


「?」


「明日…ちゃんと、会えますよね?」


どうしてか不安を覚えたらしい、家に入り扉を閉める直前、そんなことを確認してきた。


「ああ。…おつかれ」


裏神に背を向け…独り、夜の世界を歩き帰った。


ーーーーーーーーーーーー


空を見上げる。雲は去り、都会だというのに今日に限っては、月と星がよく見える。


「…生きてやる。それがあいつの…願いなら」


何の変哲もない道路の中央。立ち止まり…1度瞳を閉じ、そして開く。


想いを形に。…彼の影は“影”を超える。

辿り着いた世界で彼は、“怒り”を具現化した。

そしてそれは…その想いは、彼女の願いを引き受け、形を変える。


生み出されたのは西洋風な白い長剣。散りばめられた黒とのコントラストがよく噛み合うその姿は、彼の心象風景を映す鏡かのようだった。

光と闇、白と黒、愛と愛…それらが混ざり合ったその剣に、一筋の赤い線が伝う。


…彼女の首輪や、彼の指輪に伸びるその赤い線。剣にも新たに伸びたその赤い線は、これから先、二度と切れることの無い新たな繋がり。

ーー2人を結ぶその一本線は糸のように細い。しかし決して…それが切れることはない。



…その髪が黒に戻ることは、これから先2度と無い。



空いた心は決して埋まらない。



静かな心はまるで、死んでいるかのよう。



しかし、その心は決して冷たくない。


ーー涼しい。肌に触れる風ひとつひとつをしっかりと認識できる。



まだ…手は動く。頭は働く。そして…歩ける。なら…まだ。俺は…戦おう。

メイドの願いを叶えてこそ、真に主人(マスター)と呼ばれるべき存在だ。

もう、彼女にそう呼ばれることはないけれど。


ならばせめて、他の世界のフィーリアが不幸に落ちないよう…この世界の“裏世界”が、もしもを操る力を手に入れるのを防ごう。



ーー死者の静けさは穏やかに、彼を包み込む。



…どうしてか、彼はもう一度、最期に頬に触れてくれた彼女の手の感触を思い出した。


新たな目標を見出し、彼は自分の、そして彼女の投影(想い)を握り締め…独り、夜の街を再び歩き始めた。


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