第五十九話 魔導船。
「猫達が一番前で魔法を使うから、全力で」
全力、の所を強調した私の言葉を聞いてサナ達はにやりと笑った。
「あたしらは、討ちもらした魔物を始末すればいいってことだね」
「分かった」
「兄貴、猫に見とれて不覚を取らないでよ」
サナがからからと笑う。
ナルシはこっくりと頷いた。
「善処する」
善処かよ!
まぁ、実際に始まればサナ達の戦いぶりはほかの冒険者達より数段上なのは確かだが。
「……ん?」
風が出てきたな。
せりが耳の後ろを激しくかいた。
ほかの猫達もやたらとひげの手入れをしたり、しっぽをなめていたりする。
通常モードなのは福助だけだ。
おいおい、嘘だろ……。
「つかさ。精霊達が騒いでいる」
エルフが顔をしかめて告げた。
やっぱりか!
「どうしたんだい?」
サナが首を傾げた。
「今から天気が崩れる」
「は?」
うちの猫達は台風がくる前になるとそわそわして落ち着かなくなるのだ。……福助以外は。
あっという間に空は厚い雲でおおわれ、強い風が吹いてきた。
海の色は暗くなり、波が高くなる。
まずい、この天気では……。
「つかさ、変だ」
ナルシの声に振り向くと、雲におおわれているのは真珠国の周辺だけのようだった。
……運命神の仕業か!?
嵐が起こるタイミングで黒い霧を発生させたのか、それとも嵐が起こるように《ことわり》を書きかえたのか。
どちらにせよ、嵐の中魔物が襲ってきたら対応が難しい。
……いや、方法はある。
「船を出す」
「こんな嵐の中を?」
私の言葉にサナ達もエルフ達もいい顔をしなかった。
「大丈夫」
以前、海神様にもらった加護がある。
私が海に出れば絶対に荒れない。
「船はどうする?」
「ここに停泊しているのは商船だろ? 戦いには向いてないよ」
船もある。
魔導で造られた船だ。
遠い遠い、異なる世界に渡るための船が。
だが。
船の動力は猫の魔力だ。
海上の戦闘に参加する猫達の魔力は使えない。
「…………」
よつば、おこん、キングの魔力に頼るしかない。
担当する魔力を三等分すれば、短時間なら大丈夫だろうか……。
ほかに方法はない。
「よつば、おこん、キング。お願い、力を貸して……」
「にあん!」
よつばが、誇らしげに胸を張った。
「にゃん!」
おこんの目が、イタズラをする時のように輝いた。
「にゃう……」
キングは、私の足に頭をこすりつけてナデナデを要求した。
「短時間ならいける」
キングの頭を撫でながら私は言った。
「つまり、一気にかたをつけるって事だね」
ひゅんっとサナが槍を振った。
「…………」
ナルシは無言で大剣を握った。
「絶対にここは通さない」
エルフ達が弓を鳴らす。
私は無限収納から船を取り出し港に浮かべた。
「出航!」
巨大な魔導船が滑るように海上を進み出した。
それと同時に空が晴れ、風も止み、海は凪いだ。
船は、現在の持ち主である私の意思に従って動く。
「りゅうたろう、ドラゴンちゃんと空から攻撃」
大きくなったりゅうたろうが、ひらりとドラゴンちゃんの背中に飛び乗った。
「福助、チャビ、くぅ。魔法で攻撃」
それぞれ、船の上で配置につく。
「せり、クラーケンを〈召喚〉」
「にゃあ!」
せりが大きな声で鳴くと、しゅわわと煙があがってクラーケンが姿を現した。
「よつば、おこん、キング。大丈夫……、ん?」
よつばは船首で海風を受けてふわふわの毛をなびかせている。
おこんは縦横無尽にマストをかけ上っていた。
キングはふんふんと鼻を鳴らしながら潮の香りをかいでいる。
「…………」
なんともないのかよ!
魔力を船の動力に使っているはずなのに、よつば達はけろりとしていた。
いや、うちの猫達を侮っていたな……。
「にゃあ!」
せりがイカミミ状態で鳴いた。
来たか。
空の向こうから黒い固まりのようなものが近付いてくる。
波が盛り上がり、魔物達が姿を現した。
「りゅうたろう、福助、チャビは、空からくる魔物をやっつけて!」
「……!」
りゅうたろうを背中に乗せたドラゴンちゃんが、空へと舞い上がる。
「にゃ!」
福助の回りをきらきらしたものが踊るように跳ね回った。
「にゃーお」
何故か、チャビはまったりとくつろぎながら返事をした。
……まさか、波に揺られて眠くなってないでしょうね?
「くぅとせりは、海の魔物をお願い」
「にゃお」
「……にあん」
くぅに船首を奪われたよつばが、不満そうに小さく鳴いた。
「にゃあ、にゃあ!」
せりは一生懸命にクラーケンに話しかけているようだ。
さて、行くか!
船は私の意思に従い、魔物達の中へと突っ込んでいく。
福助の〈風魔法〉とチャビの〈雷魔法〉に、魔物達がばたばたと海面へと落ちていった。
りゅうたろうとドラゴンちゃんは福助達の魔法を避けながら、残った魔物を始末している。
くぅは〈土魔法〉で大岩を落とし、せりの指示をうけながらクラーケンが海中の魔物達を倒していた。
そして。
マストの上でおこんは魔物を引っ掻いて回り、キングは〈影魔法〉で船上を飛ぶ魔物達を拘束していた。
よつばは、角の生えた巨大なトビウオのような魔物をくわえて満足そうな表情を浮かべている。
そうか。それ、食べられるんだ……。
というか、あんた達、普通に戦闘にも参加するの!?
私の悲壮な決意を返せ!
いや、うん。無事でなによりです……。
いつも通りの猫達の無双ぶりにより、魔物達の数が減ってきた。
「みんな、もう少しだよ!」
「にゃあ!」
せりが私を振り返って鳴いた。
「!」
大きな波が船を揺らした。
……海神様にもらった加護があるから、海は荒れないはずだが。
沖を見ると波が大きく盛り上がっている。
海が割れ、巨大な影が海面へと浮かび上がってくる。
鯨に似た、緑色をした巨大な魔物だ。
体の左右それぞれにオールのようなひれが八本ついており、尾は先が二股に分かれている。
大きな口には鋭い刃のような牙が無数に生えていた。
いや、いや、いや。大きすぎるだろ!?
あれでは港ごと口の中に入ってしまいそうだ。
「…………」
あ、れ……? もしかして、本気で港ごと食べようとしてるのか……?
冗談じゃない!
鯨モドキの魔物は、信じられないようなスピードでこちらに向かってきている。
「福助、〈風の盾〉!」
「にゃ!」
福助の作り出した〈風の盾〉が船をおおう。
がんっと激しい衝撃が襲ってきた。
福助の〈風の盾〉と、魔導で出来ているおかげか船に損傷はなかった。
だが。
押されている!
こいつ、船ごと真珠国に向かう気か!?
港にはサナ達やエルフ達がいる。
いや、この鯨モドキの大きさと勢いでは港だけの被害ですまないのは明らかだ。
沖に押し戻せるか?
くぅやチャビの魔力も使えばこの船の馬力もあがるはずだ。
「にあん! にあん!?」
よつばが興奮ぎみに鳴いた。
目の色が変わっている。
え、まさか、これ美味しいの……?
「にあん!」
いや、それどころじゃないから、今は!
しかし、よつばは船首から鯨モドキに向かって思い切りよく飛んだ。
「よつば!」
何、考えているんだ、ばか猫!!
ひらり、とよつばは鯨モドキの頭の上に飛び乗った。
「に、あーん!!」
高らかによつばが鳴いた。
それと同時に鯨モドキの動きがぴたりと止まった。
「え……?」
まさか、これは。
スキルを確認する。
〈まな板の上〉 食材と認識したものに触れると、動きを封じる事ができる。
…………食材!?
「にあん!」
よつばが誇らしげに胸を張った。
あ、うん。いっぱい食べられそうでよかったね……。
今にもかじりつこうとするよつばをどうにかこうにかなだめ、いったん鯨モドキを無限収納にしまった。
残りの魔物を始末しなければ。
とは言っても私とよつばが小競り合いをしている間に、ほかの猫達があらかた片づけてしまっていた。
「せり、どう?」
せりがぴくぴくとひげを動かしながら、気配を探る。
ぴしっと胸を張って、せりが鳴いた。
「にゃあ!」
大丈夫のようだ。
サナ達のいる港は問題ないと思うが、ほかの場所が心配だ。
急いで戻らなくては。
りゅうたろうとドラゴンちゃんを呼び戻し、船を港へ向かわせる。
港には、おそらくサナ達が倒したであろう魔物が山のように積まれていた。
だが、サナ達やエルフ達の姿は港にはなかった。
すでにほかの場所の応援に向かったのだろう。
私達も行かなければ。
「りゅうたろう、ドラゴンちゃん。先に行って」
「……!」
りゅうたろうが口をにゃーの形に開く。
ひらりとドラゴンちゃんの背中に飛び乗ると、そのまま空へと舞い上がった。
「せり、危ないのはどこ?」
せりはぴくぴくとひげを動かすと、さっと走り出した。
私達も慌ててあとを追う。
「あきらめるな!」
「頑張れ!」
大勢の人が門を押さえていた。
冒険者だけではなく、商人風の人や真珠国のお店で見かけたような人達も混ざっていた。
「絶対に、中に入れるな!」
門が押し破られそうになっているのか!
「くぅ、門の向こうに攻撃!」
「にゃお」
くぅが一声鳴くと、炎をまとった岩が門の外へ無数に降りそそいだ。
「チャビ、〈回復〉!」
ごろごろとチャビがのどを鳴らす。
亀裂の入りかけていた門扉が真新しい状態に戻った。
門の前で頑張っていた人達がへなへなと座り込んだ。
「助かった……?」
「まだ気を抜かないで!」
声をかけて奮い立たせる。
身体の方はチャビの〈回復〉で問題ないはずだが、気の緩みから何かあった時に対応が遅れるとまずい。
「福助、〈風の矢〉!」
「にゃ!」
福助が張り切って鳴いた。
福助の作り出した〈風の矢〉が空の魔物達を貫いた。
りゅうたろうとドラゴンちゃんは、しばらく真珠国の上空を旋回していたが、そのまま私の所に降りてきた。
もう、大丈夫か?
せりがぴくぴくとひげを動かして気配を探る。
「にゃあ!」
私の顔を見上げ嬉しそうにせりが鳴いた。
終わった、のか……。
いや、まだ怪我人や破損した箇所の対処が残っている。
「みんな、行こう!」
「……にあん」
まだ食べられないのかと、とよつばはふてくされたように鳴いた。




