第五十三話 学園都市トパーズ。
学園都市トパーズ。
色々な国や都市が共同で資金を出し合って設立した都市で、あるとあらゆる事が学べる。
大陸中から人が集まり、それにより独自の文化が発展した都市でもある。
ここのギルドは学生達がメインで、いわば訓練の一環として依頼を請け負っているので登録している冒険者の数は多くない。
黒い霧の事はここのギルドにも連絡はいっているはずだが、対応は難しいかもしれない。
さて、どうするか。
クラーケンに刺さっていた杭に書かれていたのは、確か「滅びを運べ」だったか?
古代神語による呪いの言葉。
んー?
基本は学校で学ぶとして、それを応用するなら……。
私だったら図書館で専門的な事を調べ、それから実践で試すだろう。
まずは、図書館とギルドだな。
よし、行ってみよう。
街の中心に巨大な木造の建物があった。
ドームのような形に木を組み合わせている。
これが大陸最大の図書館か。
入り口で登録すれば誰でも利用出来るらしい。
中に入ると、木と紙の合わさった独特の匂いがした。
「えーと、古代神語の本は……」
図書館の一角に古代神語に関する本が集められていた。
読む人はほとんどいないのか、分厚い本は綺麗なままの物が多かった。
……研究書みたいなのがほとんどみたいだな。
魔方陣や呪いに関する本を探せばいいのか?
「せり、探せる?」
こっそりとせりに声をかける。
せりがぴくぴくとひげを動かした。
とりあえず、せりが反応した本だけを抜き出したが。
「多いな……」
これ、私一人で調べるのか……。
結局、本を調べるだけで五日もかかってしまった。
本には事務処理スキルを使えないのが痛かった。
うー、目がしょぼしょぼする。あとでチャビに〈回復〉をかけてもらおう。
それにしても、古代神語というのは言葉自体に力が宿っているのか。
使いこなせれば確かに力にはなるのだが。
文法やらなにやらに統一性がなくてややこしい。
それに、人間には発音が難しい。
私も読むのが精一杯だ。
使われなくなっていったのも当然の事だろう。
魔導の塔の魔導士も流暢に使いこなしていた様子でもなかった。
ナルシも要約して話してたしな。
真珠国から別れた人々も、自分達で話すところまではいってないみたいだしな……。
せりがキャットハウスから顔を出した。
不機嫌そうな顔でぶんぶんとしっぽを振っている。
せりの視線の先にいたのは学生風の一団だ。
全員、黒い髪に黒い目で真珠国の出身だという事は一目で分かる。
そういや図書館で見かけたな。
学生風だったから気にしていなかったが。
……見張られていたのか。
まぁ、それも当然か。
彼らほどではないが私も黒髪といっていい色だ。
少なくとも、真珠国の血を引いている、と見た人は思うだろう。
だが、自分達の仲間ではない。
そんな人間が連日図書館に通いつめて古代神語の本を読み漁っていたら、警戒されても仕方がない。
ましてや、彼らは世界を滅ぼそうとしているのだから。
異分子を警戒するのは当然だ。
さて、どうするか。
このまま知らんぷりをして泳がすか、それとも、いっそのことこちらから接触してみるか。
んー?
せりの様子からすると、今のところ害意はなさそうだ。
彼らはただの見張りなのだろう。
なら、向こうが動くまでは様子見でいいか。
とりあえず、最初の予定どおりギルドに行くとするかな。
いくら古代神語による呪いに力があったとしても、いきなりクラーケンを操ろうとは思わないはずだ。
どれくらいの効力があるのか、私ならまずは小型の魔物から試し、徐々に力の強い魔物に変えていく。
となると、それなりに力量がある人間が必要となる。
トパーズのギルドは、ほとんどが学生向けの簡単な依頼が多い。
凶暴な魔物を退治できる人間は限られている。
その中から真珠国に関係のありそうなやつを抜き出せばいい。
今度は事務処理スキルが使えるから、そんなに時間はかからないだろう。
その前に何か食べるとするか。
屋台で熱々のファロを買った。
ボーショという芋を潰してひき肉と合わせて揚げたもので、まぁ、コロッケみたいなものだ。
ボーショが真っピンクなので、当然ファロもピンク色だが……。
紙で半分巻いてあって、手が汚れないように工夫してある。
中にチーズが入っていて、溶けたチーズとからんで美味しい。
トパーズには色々な出身の人が集まってきているので、食べ物も各地の名産が食べられる。
ファロは、元々城塞都市オニキス辺りで食べられていたものだ。
「……」
オニキスには寂れてはいたが運命神の神殿があった。
私達がおこんを探しに行った時に、今は無限収納で呑気に昼寝をしているであろうドラゴンちゃんが襲ってきた。
あのドラゴンちゃんが自らの意思で街を襲うとは思えない。
おそらく、クラーケンと同じように古代神語の呪いによって操られていたのだろう。
だが。
私は、二つ目のファロを頬張った。
運命神が滅ぼしたいのはほかの世界からきたもの達の子孫だ。
自分が守護している街をおそわせる理由はない。
つまり。
「運命神とは別なのか……?」
てっきり運命神の意図に従って行動している連中がいるのだと思っていたが。
一部の思惑がたまたま重なっていただけという事か。
両者の目的は、似てはいるが異なっている。
運命神は、この世界を元に戻すために《ことわり》をはずれたもの達を消してしまいたい。
真珠国から別れた人々は、元の世界に帰るためにこの世界そのものを消してしまいたい。
まぁ、どちらにしろ、私達には迷惑な話だ。
しかし。
何故、タイミングが合った?
あまりにも同じタイミングで動き出したせいで、私達は運命神と真珠国から別れた人々は同じグループなのだと最初は思っていた。
んー?
どちらかが合わせたか。
さすがに、神様が人間に合わせるとは思えない。
ならば、真珠国から別れた人々が運命神が動き出すのに合わせたのだろう。
「……どうやって知ったんだ?」
ミーコさん達は、今回の事が起きる前から猫達を探していたから何か気付いていたのだろうけど。
ただの人間に、どうして分かった?
「いや、いるな……」
未来が見える少女が。
ラピスラズリに隠れ住んでいた、〈さきみ〉の力を持つラーラがいる。
あの村の人々が隠れていたのは、運命神からじゃなかったという事か……?
いや、みうやラーラのような力を持つ者がほかにもいると考える方が辻褄が合っているな。
「……」
とりあえず最初の予定通りギルドへ向かおう。
ある程度、正体を絞り込めれば彼らを誘き出す方法も思いつくはずだ。
それから問いただせばいい。
私は最後のファロにかぶりついた。




