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黒幕①―竜胆皇太子と皇女―

「ねぇ、萌黄お嬢様。あんまり、あっしに気を揉ませんでくださいな」


 老人は禿げた頭を撫で、猫背のまま不気味な足取りで岩を乗り越えている。

 相変わらずの圧を含んだ湯庵の声に、蒼は苛立ちを覚える。一見、萌黄を心配しているようで、実のところ思うがままにならない彼女を押さえつける圧。


「あなたこそ、萌黄さんを尊重しないような口調と物の言い方をやめてくださいよ。あなたになんの権利があって、彼女の意志をねじ伏せているんですか」


 蒼と紅の言葉が重なる。発言の理由は異なるが、根底にある憤りは同じだ。


「権利ですかい。これがあるんですわな。あっしには十分すぎるほどにあるんですわ」

「じゃあ、その根拠を教えてもらおうじゃない! どうせ『あっし』理論上だけの有効性なんでしょうね」


 ふんと鼻を鳴らしたのは蒼だ。構えを深めて、思い切り臨戦態勢のまま笑ってやる。

 今までなら、萌黄と湯庵のお互いの性格が相まって悪い方に働いているのだと思うだけだった。けれど、今は確かにわかる。萌黄を脅威で阻んでいるのだと。


「ほぅ。心葉堂のかわいい茶師は随分と良い声で()()()()ですわいな」


 湯庵が片眉をあげて全身舐めまわすように蒼を眺める。細い目が開き、ぎらついている。

 蒼の全身の毛が逆立つ。


(うへぇ。気持ち悪い。挑発したつもりはないし、ただただ腹が立ったからの発言だったけど。あぁいう人は割とぼろが出やすいもんね)


 蒼はうんざりとしつつ、自分を庇うように前に出た紅と態勢を変えた麒淵にだけ謝る。

 蒼だって老舗茶葉堂の娘として店にたち、正式な茶師として半年以上働いてきた。

 だから、萌黄への態度や諸々から、湯庵が女性や下の者を蔑視している人間なのは最初からわかっていた。そこを刺激すればボロが出るのではと踏んだのだ。


「あんたがたの不法な立ち入りを裁いてもらう時に、今のことはしっかりと加えておくことにしましょうねぇ。クコ皇国では、他の溜まりに無断侵入するなど死刑以上の罪なんでしょう?」


 結果、見事すぎるほどに引っ掛かってくれた。だから、蒼と紅は警戒してしまう。


(湯庵はもっと狡猾(こうかつ)な人間だ)


 隠し種があるからこそ、あえて感情を出してきたのだと、推測できる。

 答えを持っている紅と、経験則から察している蒼。理由は違えど、二人はぐっと堪える。


「ほぅ。さすがにこれ以上はのってきませんかい。まぁ、こちらの奥の手もご一緒なんでねぇ。今更、隠せませんがねぇ」


 湯庵は疲労いっぱいに呟き、自分の背後をみやる。腰に手を当てて振り返る様は、店で見かけていた時より年を感じさせる。心なしか、顔にも皺が増えている気がした。


「萌黄。僕の萌黄。ほら、こっちにおいで。君の居場所は僕の腕の中なんだから。父親でもなんでもいいから、君は僕の傍にいてくれないと駄目だろう?」


 一方、湯庵とは正反対にどこまでも甘さしかない声が萌黄を呼んだ。聞いている方が恥ずかしくなる音に、蒼は耳まで染まってしまった。

 それは寝所で囁かれるような砂糖と蜂蜜を混ぜたような部類の声だ。

 声の主である明かりの下に現れた男性――華憐堂の店主は灰色の長い髪の下から、クマのある同じく灰色の瞳を覗かせている。


(華憐堂の店主さんて、もうちょっと若い印象だったけど……)


 蒼と紅は店主を捉えた瞬間、抱いた違和感で頭が冷えていく。

 遠目だからではなく、全体的な足の運びや体つきが違うと思えたのだ。よくよく見れば湯庵もかなり腰を折っている。


(なんだか、ここ全体がいびつな感じがする)


 蒼は考えたことを紅に伝えようと上着を掴んだところで、驚愕に言葉を失った。

 最後に姿をはっきりと現した人物は、ここに居てはならない身分の人間だった。

 腕にぐったりとした女性、いや遺体を抱いているその人は――。


竜胆(りんどう)、皇太子殿下」


 名を呼んだのは紅だった。

 明瞭に、躊躇など一切ない声が洞窟のような空間に響き渡った。大きな声ではなかったが、やけに反響した。


「紅?」


 上着を強く握られて、紅は蒼にだけわかるように笑みを浮かべた。安心させるような笑みだ。そして、すぐに口元を引き締める。

 蒼もそれに安堵と緊張感を覚え、きりっと眉をあげる。


「蒼、動揺を見せるな。この先で明らかになることは、できれば蒼に知って欲しくなかったけれど……オレも麒淵もいる。だから、蒼は自分が成すべき事だけを考えろ」


 蒼にだけ聞こえる音量で、しかし揺るぎのない意志が込められている声で囁いた紅。視線はまっすぐ竜胆に向けられているが、腕はしっかりと蒼を守るように伸ばされている。

 蒼はそんな兄の背中を見つめ口元を引き締めた。


(大丈夫。一番子ども扱いされたくなかった紺君が、全力で向き合ってくれた。すごく不器用だったけども、だから、今はちゃんと紅が言いたいことも飲み込める)


 この土壇場にきても知って欲しくなかったと言われたことに拗ねていたと、蒼自身思うのだ。


(今なら、守ってもらっていたことを理解して、自分ができることをしようと前向きに捉えることができる)


 蒼は応える代わりに、紅の服から手を離し横に並んだ。


「ほぅ。随分と人が多いな」


 片眉をあげて、にやりと笑ったのは竜胆だ。

 二十代後半である竜胆は武人さながらの精悍(せいかん)な美丈夫だ。着崩した服から見える肌は、ほどよく焼けて健康的。そんな皇族らしからぬ所が国民にも人気があった。


 だが、今の竜胆はどうだろう。


 首から上は異常なほどに病的。肌はぼろぼろで目は落ちくぼんで、墨を塗りたくったような隈がはりついている。


「竜胆殿下」


 紅は竜胆が蒼に向けた目つきの意味を即座に読み、声をかけた。

 幸い、特に竜胆は蒼に対して執着は抱かなかったようで、紅を認めて病的に笑った。


「弐の溜まり心葉堂の紅暁(こうきょう)か。お前がなぜここにいる」


 紅は弐の溜まりの跡継ぎ。本来であれば家業の茶師を継ぐ蒼がその地位にあってしかるべきだ。

 けれど、蒼は幼く経験も浅い。それゆえに、魔道府勤めの経験もある紅が店主代理を務めているのだ。

 よって、幼い頃に何度か、そして継承の儀の際に当然皇太子とも顔をあわせているし、何度か話し相手にもされたこともある。その時は不器用さのある好青年で、どこか紺樹に似た雰囲気があるとさえ思ったものだ。


「私のような若輩者の名を覚えていただいたこと、恐悦至極に存じます」


 紅は一応礼をとっているものの、紅の言葉に全く畏怖がないのが蒼にはわかった。紅にしては珍しい、というかあり得ない態度だ。

 ということは、つまり。


(竜胆様は敵ってことだね!)


 即座に判断した蒼は、震える萌黄を庇うように体を彼女の正面にずらした。

 事情はさっぱり不明だ。それでも、紅が警戒すべき相手と判断した。蒼にとってはそれだけで十分すぎる理由になる。


「そうか。なんだ、華憐堂の主よ。心葉堂は魔道府の犬であり敵などと申しておったが、儀式を執り行う術者であったか」


 竜胆は瞳孔を開いたまま、異常な笑みを浮かべた。

 蒼や紅が気にかかったのは竜胆の異様さよりも、彼が『華憐堂の主』と呼びかけた先にいる人物に目を疑う。そうして、考えた。


 彼こそ旅人ではないのかと。


 そんな二人をよそに、竜胆と目をあわせている人物はしれっとした様子で「へぇ」と頭を撫でている。


「はよぅ申せ。見せしめに、うっかり蒼月を街中で犯し、晒し者にする計画の指示をするところであったよ」


 竜胆の視線は確かに湯庵を捉えている。

 湯庵の方は面倒臭さを隠しもせず、背後の竜胆を横目に入れただけだった。蒼でさえ、どこまでも不遜な態度に思えるが、竜胆は気にした様子はない。


「いやぁ、すまんすまん。そこが華憐堂の娘も、そのつもりで保護者である紅暁をさらってきたのだとばかり思うておったぞ」


 ははっという竜胆の爽快な笑いが空間に響く。表情と声だけ聞けば、豪胆な皇太子だと好感を抱く様子だろう。

 顎で指された萌黄は真っ青になった。小刻みに震えていた華奢な体が哀れなほど見て明らかに痙攣しだした。


「そんなっ! わたくし――わたくし、蒼さんをそんな目にあわせるつもりなんて! ただ、あの時に萌黄だった子は、紅さんと一緒にいたかっただけで。あぁ、でもごめんなさい、ごめんなさい。わたくしが制御できなかったから!」


 萌黄はひゅっと喉を鳴らしたかと思うと過呼吸を起こしだした。手足が痺れ、めまいがするのか。体が前のめりになり震える手で頭を支えている。

 蒼は慌てて周囲を見渡し、紙袋代わりになるものを探した。が、すぐに軽く頭を振った。


(私の治癒術は外傷を治せる。でも、外傷だけ。丹茶は心の負荷を減らせることができる。その丹茶が作れなくなって、私は心の負荷を減らす術を習ったじゃない。落ち着け。萌黄さんの存在は未知だけど、目の前で起きている症状は私たち人間と一緒だ)


 そう思うと不思議と落ち着いた。発作を起こしている萌黄は、何をさておき人と同じなのだ。ならば、蒼がとる行動はひとつ。浅い呼吸を早く繰り返している萌黄を安心させることだ。


「萌黄さん、大丈夫。私たちはわかってるから。紅に一生懸命だった萌黄さんも、今いろんなことを伝えてくれる萌黄さんも、だれかを傷つけたい訳じゃないの、わかってる」


 意識して、自分もたっぷり二秒ほどかけて息を吸うように心がける。その呼吸に合わせて萌黄の背に掌を滑らせた。どうか震えているのが伝わりませんようにと思いながら。

 蒼の処置が功を奏したのだろう。萌黄は激しく上下させていた肩を動かすのを止めて、深く息を吐き出した。


「蒼さん……」

「大丈夫。私たちは貴女がひどいことをしたいんじゃないの、貴女に教えてもらったから」


 蒼がぎこちなくでも笑えば、萌黄はまたぼろりと涙を零した。

 紅と麒淵は警戒しながらも、顔をあわせて小さく頷く。まだ少し呼吸が浅い萌黄だが、自分でも落ち着こうとしている。


「なんぞ、つまらぬ。ようわからぬが、蒼月はこの手で開くことができるということでよいか?」


 竜胆はつまらなそうに、だれにでもなく尋ねた。

 蒼には自分の名前が出されたことは理解したが、いまいち皇太子の言葉の意味が不明だった。


「開く?」

「つまり……蒼さんの純潔を奪うということですわ」


 固まっている男性陣に代わり、申し訳なさそうに呟いたのは萌黄だった。

 蒼の背を冷たいものが駆け抜けた。それは実際に竜胆の視線がねっとりとして、蒼をなめ回すようなものであったから、すぐに一致したのだ。


「痛がる処女などつまらぬから、ある程度慣れさせた後の方が愉しめるかと思ったが……あれほど胸も大きく見目良く成長しておるならば、私自身で服従させるのもおつだろう」


 竜胆の追い打ちをかけるように舌なめずりをした。


「だから――」


 粗雑な計画だったのか、魔道府の見張りが未然に防止してくれたかは不明だ。でも、確かに蒼は紅を探しに駆け回っている間に、何度も危険な目にあっていた。

 紺樹や長官のことを考えれば前者だとはわかるが、どんな些細なことがきっかけで路地裏に連れ込まれて良いようにされたかもわからない。実際、雄黄たちが助けてくれなければ――。


(私は、ただ紅が心配で家を飛び出していたけれど……本当に危なかったんだ)


 下手をすれば、助けてくれた常連客の雄黄と恋人も巻き込んでいただろう。

 蒼は自分のうかつな行動を激しく反省した。そして、両手を握って恩人の無事を感謝した。

 その様子を見ていた紅は、皇太子の言葉が単なる脅しではないと知った。実際に蒼が危険な目にあったのが事実だと。紺樹や魔道府長官の目があるとはいえ、絶対的な守護ではない。


「ぶざけるなっ。オレの妹を力尽くでどうにかしようと思っていたのか」


 ぷちりと紅の血管が切れる音がした。瞳孔が開いた目が眼前の敵を射貫く。

 紅の瞳が自分の意思と関係なく薄氷河色に変化していく。同時に彼の元にアゥマが一斉に寄ってくる。いつどんな魔道(かたち)になってもいいよと。


「お前、いくら弐の溜まりの者とは言え、民草の一人であるにしかすぎない存在で、次期皇帝の私に逆らう気であ――」


 不遜な口調に竜胆が眉をひそめる。そんな彼に紅の近くにいたアゥマが一斉に飛びかかる。そして、すぐさま全ての幻想が溶けたように青ざめた。

 下手に奥ゆかしい『紅暁』を知っているせいか、竜胆は目の前の存在に全身を凍り付かせた。竜胆の目の前にいるのは彼が知る紅暁とはあまりに違う雰囲気だ。

 

(壱よ。お主が愛でておった竜胆はもうおらんようだぞ)


 麒淵は隠しもせず、大きなため息を吐いてしまう。


(愚かな。紅も自覚しておらぬゆえ、知りたいとも思わぬだろうが。紅暁の能力の本当の恐ろしさはアゥマ可視化だけではないのだよ。アゥマに愛された一族の血を引き、かつ忌みの一族の血と出生への嫌悪がある。そのどちらに対しても発揮できる桁外れの潜在能力を持っておる。無自覚に発動された能力を持ってすれば、相手のアゥマを根こそぎ自分の手の元に引き抜くことさえ可能じゃ)


 それはつまり、人としての死を意味する。

 竜胆も皇族のはしくれだ。血の濃さから、それを本能で感じ取ったのだろう。


「あっ安心せい」


 クコ皇国が白龍をフーシオにとどめたがるのは、なにも彼の能力だけではない。


 今の心葉堂には、クコ皇国どころか世界屈指の()()()()()()が揃っているからでもある。敵にまわした際の脅威など容易に想像がつく。


 そして、二人の保護者の白龍は、その二つの力をどうとでもできる立ち位置にいる。むしろ白龍自身が、補助に余る能力を持っているのだ。そして、後ろ盾には『始まりの一族』である桃源郷が坐している。紅と蒼は、現在の長と地の繋がりのある孫、そして次期族長の黒龍の甥姪なのだ。

 四神の名を持つ四貴族どころか、国が束になっても無事でいられる可能性は低い。


「むろん、その案は捨て置いた。蒼月は私が可愛がってやることにした」


 竜胆は怯みながらも高らかに朗らかに笑った。かつて、癖がありつつも聡明だと称賛されていた面影は皆無だ。

 蒼は向けられた視線に怯えながらも、大きく口を開く。


「御免被ります!」


 蒼は萌黄を抱きながら、できる限り鋭い目つきで竜胆を睨んだ。

 竜胆と言えば、平然と舌なめずりをして蒼を視線で舐めまわした。まるで蛇のような舌が皇太子の口から出ている。


「私の目にとまったことを感謝せい。本来であれば私の寵愛を受けるのは、たった一人だった。この子はほんに相性がよかった。どんな処女より、毎回、私を悦ばせた。そんなこの子を私はだれよりも愛してやったのになぁ。どうしてだろうなぁ」


 蒼は竜胆の言葉を脳内で反芻して徐々に青ざめていく。彼の言動に思考が追いつかない。

 そんな蒼をあざ笑うかのように、竜胆は腕に抱いた皇女の死体にすり寄り、頬をぺろりと舐めあげた。


「妹君と」


 さすがの蒼にも、竜胆の態度や声色が妹に向けられる類いのものではないのがわかった。竜胆の言葉は態度以上に明確に関係性を伝えてくるから、理解せざるを得ない。


「妹、だと? 妹と、言うたか⁉ この子は――‼」


 竜胆の目がぎょろりと一回転した。


「竜胆様。今は重きを置くべき点ではございやせん」


 湯庵の一言で、竜胆の焦点がすっと戻った。


(ということは、それも今回の一件に関係している情報ってこと?)


 蒼がそれより先を考える前に、竜胆が一歩踏み出してきた。


「そうだな。まぁ、よい。どうでもよいのだ、いまさら、そのような呼称の種別などは」


 ソレにあわせ、て紅が右手を前に突き出す。

 竜胆の靴の先が凍りつき、彼は「おっと」と声をあげて踏みとどまった。ただ、表情は変わらず、狂気じみた笑顔を浮かべたままだ。


「なぁ、心葉堂の兄妹よ。私は困っているのだ。私に愛されながら、私が周遊に出ている間に勝手に死んでしまった。この子の代わりが見つからず、私は困り果てているのだよ」


 竜胆は心底辛いという様子で肩を落とした。その拍子に腕から皇女の死体が落ちてしまう。

 岩肌に落ちた皇女の体は人形のようにぴくりとも動かない。死体なのだから当たり前と言えるが、ソレにしては随分と綺麗な肌をしているのだ。


「おぉ、すまん。痛かったな。私は昔から大雑把で配慮が足りぬ。だが、転婆なお前だから受け身も取れように」


 竜胆は膝を折って、皇女の頬を撫でた。うっそりと見惚れる視線は、狂気のみを伝えてくる。


(随分と綺麗なご遺体だ)


 紅は皇女の体の中に流れるアゥマを可視する。


「皇女様の内蔵を含め、体中に強力な冷凍系の術が施されている。人体冷凍保存か」

「っていうことは、皇女様は仮死状態なの?」


 紅のささやきに驚き、蒼は視線を皇女の体に向ける。

 華憐堂の面子や竜胆には聞こえていないようで、彼らも彼らで何か言葉を交わしているのが雰囲気でわかった。


「いえ。わたくしたちが――華憐堂が皇太子様に近づいた時には、すでに皇女様はお亡くなりになっていらっしゃいました」


 萌黄が絞り出すようにささやいた。そして、ぎりっと歯を鳴らす。


「あくまでも、この溜まりの力で肉体の腐敗状態に陥るのを巻き戻しているに過ぎません」

「そんな術が体現できるなんて……」

「けれど、わたくしたちの精神が保てないのと同じく、巻き戻し回数には限度がございます」


 蒼の驚きに、萌黄は悲しみを含んだ声を返した。

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