最 終 話
北藤の話が終わる。
100話目の話は恐ろしい実体験。
だが漏れる苦笑。それがだんだんと大きくなる。
そう、北藤の話は辻褄が合わなかったのだ。
「なんですか先輩期待したのに」
「え?」
「行方不明は5名。一人だけ助かったっておっしゃったじゃないですか」
「そう。それに、翠里さんに告白できなかったっておっしゃってましたよ」
ふぅ。と吐かれる後輩たちのため息。
とんでもない作り話。それがこの百物語の大トリだったなんて。
残念だ。途中までは怖かったのに落ちで大無しだという空気。
北藤の方は北藤の方で、悪びれもなくため息を吐いた。
「なんだ君たちは。せっかく先輩が話してやったっていうのに」
だが後輩たちもそんな北藤に明らかな嫌悪の情を示した。
「怖い話するならもう少し練ってくださいよ」
「そうですよ。記念の会が台無しだ」
北藤は微笑を浮かべて目の前の一本のろうそくを見つめた。
「まったく、君たちは処置なしだ。怪異好きが過ぎるととんでもない目に会うという教訓だったのに」
だが後輩たちはそれに反抗。
「いや、そんなの意味ないっすから。結局先輩たちの行方不明事件って何だったんですか?」
北藤はろうそくに近づいた。
「今した話のままさ。シカガネ様に命を奪われた話。さて最後のろうそくを消すと怪異が現れるんだったな。西森さんだったら“そんなのありえない”って言うだろうけど」
ふっ。と消されるろうそく。
辺りは真っ暗になった。
「じゃ、会はこれで終わりだな。誰か電気をつけてください」
「これじゃ見えない。何も見えない」
その時、北藤の方から声がする。
イスが後ろに引かれる音も聞こえた。
「見えないか。ではオレが電気を点けてやろう」
スタ スタ スタ
と歩く音。参加者はお礼も言わない。北藤が何をするにも不快感を感じるのだ。
しかし不思議だ。なぜ彼はこの暗闇の中、何にも蹴躓くことなく正確に歩けるのだろう。
そして電気スイッチが押される音が聞こえる。
「……電気点けました?」
「もちろん」
「なかなか明るくならないな」
「だろうな」
「何も見えないんですけど」
「それはな……」
「見えない。見えない」
「それはなぁ」
「見えない。見えにゃい。見えにゃぁい」
「くくく。くくくく」
北藤の笑い声。だがそれも徐々に消えていってしまった。
「きゃふ。なんか気持ちよくない?」
「いひひ。きぼぢい」
「見えない。見えにゃは。きぼぢ。きぼぢ。きぼぢ」
「はぁーーー! 最高ら~~」
ドサリとイスから落ちる8つの音。
その後は静寂。
朝になり、合宿所に朝日が入る。そこには8つの地蔵が転がっていた。
そして、こちらはとある大病院。
そこには、ベッドに寝かされながら光に当てられた女性が一人。
物々しい白い光。様々なライトで照らされ続けているのだ。
病室のネームプレートには「九曜翠里」。
あの行方不明事件のたった一人の生き残りだった。
彼女の手足はすでに半分以上短くなり、窪みかけた目で天井にある手術室にあるような電気を見つめている。
「ああ。シカガネ様が……シカガネ様が私から出ていってしまった……。私じゃダメなんだ。私じゃダメなんだわ。あの巫女のように強い力なんてないもの。コウヤを目の前で奪っていったシカガネ様はどこに行ってしまったの?」
翠里は泣いた。今まで体の中に封じていた、どうにもならない神が出て行ってしまったのだ。
北藤に姿を変えて次なる獲物を探しに。
それを封じる力を持つものがこの世にいるのだろうか?
分からない。
だが、どうにかしないと人々は甘んじて石になるほかはないのだ。
シカガネ様は光を嫌う。
だから最初に光を受ける目を抜いてしまう。
そして蚊が血を吸った後、かゆみを残すように、人々に快楽を残す。
その後、冷たい石にしてしまうのだ。
まるで地蔵のようなものに。
シカガネ様はどこに行ってしまったのだろう?
シカガネ様は闇を好む。
だから、暗い場所に潜んでいるのだ。
ほ
ら。
そこに──。
作者からのお礼と野暮な話。
シカガネ神社を最後までお読み頂きありがとうございます。
病院は少ししか出て来ませんが、怖がって頂けたらと思い夏ホラーに参加させて頂きました。
さて、野暮な話。
このシカガネ神社。
実は意味怖でもあったりします。
途中で気付かれた方はスゴい。
鳥居の額束に縦に「鹿金神社」と書かれていた訳ですが、登場人物たちは見上げた角度で二文字だと思ってしまいました。しかし実はこれ一文字の漢字だったのです。ネット上にある手書き漢字サイトなどを利用して、「鹿金」の字を縦に一文字で書いてみて下さい。
その神様がどんな祟り神なのか、あなたは分かってゾッとするはずです。
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これは菁 犬兎さまよりちょうだいしました!