3-3:疑問と忘却
青春ごっこを見て拗ねてしまった胡依をどうにか宥め、無事治療してもらえた俺たちは、最後に俺の2つの能力がコピーできるかを試すこととなった。
結論から言ってしまえばテレポートは可能だったが、覚醒の力に関しては俺が再現することができず、中断を余儀なくされた。
「あの覚醒の力は発現の条件も良くわからないから仕方ない。それよりも、まさか2人までと思っていたテレポートが全員まとめて飛ばせるとは思わなかった。」
「颯汰はなんで2人までしかできないと思ってたんだ?」
「手で触れることが条件ってことで、『片手につき一人』という先入観を持っていたんだろうな。今にして思えば残骸に襲われて新宿に逃げた時、クロは美紀が抱えていたってことを忘れてたわ。」
「ちょっと待ってくれ。スピネルに襲われたってどういうことだ?」
「浩一は残骸を見たことないのか。この世界には真っ黒な人型の化け物がいるんだが、そいつらが能力者の力を求めて襲い掛かってくるんだ。」
それを聞いた浩一が難しい顔をしている。まあ確かに化け物の話なんて容易に信じられるものじゃない。実際にその目で見ないと納得は難しいかもしれないな。
浩一がその存在を疑っているものと思っていた俺はそう考えていたのだが、返ってきた言葉は意外なものだった。
「スピネルってのは……クロのことじゃないのか?」
「え? いや、クロはーー」
「ちょっと待つニャ。ボクは残骸ではニャいけど、君はその話を誰から聞いたのニャ?」
俺の言葉をクロが遮った。胡依と遊んでいたはずなのに、いつの間にか俺たちの側まで来ている。そうだ、クロと残骸の関係についてはクロ本人から聞いている。だとすると、浩一は一体誰から聞いたんだ?
「あーっと。そうだな……クロ、ちょっとそっちで話せないか?」
そう言って浩一とクロは俺たちから少し離れ、話し始める。
浩一は俺たちの知らない何かを知っている。クロも何も知らないはずの人間から、出来損ないの名前と間違われたんだ、心中穏やかではいられないだろう。話の内容次第ではクロは浩一を敵と判断したりするのだろうか。
そうなった場合は俺が説得しなくては。浩一は俺たちの敵になるような奴じゃない。
数分が過ぎたころ、話を終えたクロは俺の前にやってきて足をよじ登ろうとする。俺の頭に乗りたいようなので俺は首根っこを掴んで頭に乗せてやった。
「颯汰、ちょっと出掛ける前に充電ニャ。」
「なんだ? どこ行くんだよ。」
「一度ご主人のところに戻るのニャー。」
クロのご主人か。俺に救いを求めているという人……。
「なあ、俺は行かなくていいのか? 俺を案内するためにお前がいるんだろ?」
「うーん。今回はボクだけで行くニャ。今の颯汰を連れて行くかどうかは、ご主人にあらためて聞いてみるニャ。」
「そっか。会っていろいろ聞きたいこともあったんだけどな。」
「焦らなくても必ず会えるニャ。だからそれまで絶対に生き残ることニャ。ボクの留守の間、胡依は颯汰たちが守るニャよ。」
胡依は今までクロの能力により守られていた。自身への治療が行えないことがわかった今、多少無茶してでも……いやこの言い方はもうやめるんだった。俺たちが力を合わせて守らなければいけないんだ。
「わかってる。お前の能力が当てにできない以上、俺たちがちゃんと守るさ。それから……浩一のことだが。」
「心配いらニャいニャ颯汰。君が思っているようニャことはボクは考えていニャい。ただ、今すぐ浩一を問い詰めるのはやめて欲しいニャ。」
「どういうことだ?」
「すまん! 俺のせいで何かを隠してることはバレちゃったけど、今は言えないってことで納得してもらえないか?」
「いつか話してくれるんだよな?」
「当然!」
これまでのやり取りである程度の想像はできる。まず間違いなくご主人に関する話だ。問題はなぜ浩一がそれを知っているのかってことだが、今は待つしかないようだ。
「じゃあ行ってくるニャ。胡依、気をつけるんニャよ。」
「う、うん。クロちゃんも気をつけてね。ちゃんと帰ってくるよね?」
「もちろんニャ。ボクの今の居場所は颯汰や胡依がいるここニャ。だから安心していいニャ。」
「うん!いってらっしゃい!」
「いってくるニャ♪」
胡依に笑顔で答えた後、クロは影の中へと消えていった。本当に仲が良いなこいつらは。
「颯汰……えっと……。」
隠し事が苦手なこいつが、それでも隠さなければいけない状況。ともすればこうもなるか。
早く頼むぜクロ。浩一がとち狂って口割っちまう前に……。
「浩一。事情があるんだろうし今は何も聞かないから、いつまでもそんな顔してんなよ。調子狂うだろうが。」
「あ、ああ、すまん。」
「あーもう! だからそれをやめろっての!」
俺も正直なんて言ってやればいいのかわからない。やめろって言ってやめられるようなら、それはもう浩一ではない別の何かだ。
「じゃあ気晴らしに買い物にでもいきましょーか。」
「あ、それいいかも。私も服とか見たいし。」
由美子の提案に賛同する美紀。それで気晴らしになるのは女くらいじゃないだろうか。俺と浩一は反対こそしなかったものの、顔を見合わせて深いため息を吐いた。
もう何度も往復する必要のなくなったテレポートで、まとめて新宿へと飛ぶ。
単独行動にならないよう、美紀と由美子、そして玲と胡依というペアで店を見て回り始め、残された男たちは胡依の護衛につく。
「服なんて制服でいいだろうに。」
「いろいろ大変なのよ。ほら……私、空飛ぶから……。」
俺のぼやきに答える美紀が顔を真っ赤にして俯いている。空……制服……スカート!! なんてことだ、俺って奴は今までこんなことにも気付かないで……。
ちゃんと拝んでおくべきだった。
俺は血の涙を流さんばかりに自分の迂闊さを呪っていたのだが、横を見ると浩一も地に伏して泣いている。同志よ、この悔しさをわかってくれるか!
そんな馬鹿な俺たちを放置し、女性陣は買い物を続けている。
服を買いたいのか試着したいだけなのか。判断に苦しむその光景に長期戦を覚悟した俺は、何か飲み物でも買おうかと辺りを見回していたのだが、突然何もないところに黒い影が現れたのを見つけた。
「玲! 後ろに残骸だ!」
俺はすぐにテレポートで胡依の側に飛び、守りに入る。こうなることは予想していたので、それぞれの対処は早かった。玲は振り向きざまに残骸の位置を確認し、一刀の元に斬り伏せる。
美紀と由美子もすぐにこちらに合流し周囲を警戒しているが、影がいくつか揺れている。どうやらまだ来るようだ。
「俺と美紀は胡依を守る! 後は任せたぞ!」
「任せてー。」
「任せろ!」
「任せとけって!」
銃声と共に残骸が崩れ落ちる。由美子が次々と遠方の残骸を排除し、近くまできたものは玲と、氷の剣をコピーした浩一によって斬り伏せられていく。
やはり浩一の能力は応用力が桁違いだ。聞いた話だと再使用に5分かかるだとか、1回使ったら消えてしまうだとか、制限も多々あるらしい。由美子の銃に関しては1発撃ったらコピーが解けていたが、玲の氷の剣に関しては1匹斬っても消えていない。このあたりの制限はもっと詳しく調べる必要がありそうだな。
しばらく戦闘を繰り返した後、周辺が静かになったのを確認すると、俺たちはようやく警戒を解いた。
「颯汰。ひとつ気付いたことがあるんだが。」
いつになく真面目な顔で玲が話しかけてくる。
「大丈夫か? どこか怪我でもしたのか?」
「ああ、すまない。怪我はないから心配はいらないんだ。それより、私たちが最初に会った時のことを覚えているか? あの時も残骸に襲われた。そして今回……どちらも新宿でだ。こいつらはなぜ新宿に多く集まるんだ?」
「確かにそうだな。偶然……ではないよな。」
「1体2体の話ではないからな。これだけの数を偶然とするのは無理があるだろう。」
「それは、ご主人がここ、新宿にいるからニャ。」
声がした後、俺の影の中から突然クロが現れた。
「クロ! 早かったな。んで、ご主人がこの近くにいるって? 残骸が作られている場所だからこんなに多いのか。」
「そういうことだニャ。それよりみんニャ。話もしたいし、一度颯汰の家に戻らニャいかニャ?」
洋服を買うことができなかった女性陣、特に美紀から不満の声が上がるかと思われたが、とりあえずスパッツを買ったので当面はこれで良いとのことだった。
俺はとても良くない、とは口が裂けても言えない。
テレポートで自宅へと戻った俺たちは、あらためてクロから話を聞くことになった。
まず、俺たちがこっちと称していたこの世界には名前があって、クロやご主人は【ラース】と呼んでいるそうだ。そして問題の浩一の件についてだったが、どうやら浩一が意識不明の重体の時に、特殊な空間の中でご主人が接触してきたらしい。
なぜ浩一に接触したかについては今はまだ話せないとのこと。ただ、このとき言われた言葉は俺の中の何かを刺激した。
「その疑問に答えるためには颯汰が思い出す必要があるニャ。」
「思い出すって何をだ? 俺が何かを忘れてるっていうのか?」
「それを含めて思い出すことが条件ニャ。」
一番最後に来てまだ日が浅い俺に、この【ラース】という世界を知る機会はなかったはずだ。普通に考えれば俺が何かを忘れているなんて言われても納得できない。ただ、先ほどから俺の頭の中に一人の少女がチラつく。
これは誰だ……全体像もぼやけていてよく思い出せない。きっかけがあれば……そんな風に思えるほど、俺は忘れているという事実を受け入れ始めていた。
俺は何を知っていて、何を忘れているんだ……。
俺に救いを……。
なぜ俺なんだ?
求められる俺になるまで?
俺でなければならない理由。
忘れている記憶。
チラつく少女……と、みちる……?
「颯汰!」
意識を失くす直前、そんな美紀の声が聞こえた。
遅れました。ちょっとバタバタしていて今後の投稿も毎日とはいかなくなりそうです。




