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素敵な夢に贈り物を  作者: 月出明人
2章:不穏な足音
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2-4:覚悟と約束

 耶岐島玲(やぎしまれい)

 面倒見が良く、胡依(こより)はともかくとして、美紀(みき)由美子(ゆみこ)にとっても良い先輩であり姉のような存在だ。みちるの後輩らしいのだが、少なからず影響を受けているのだろうか。みんなの心の支えとしてこの人の存在はとても大きい。


 だが、一つだけ。


 俺に対してのみ、この人はおかしい(・・・・)。みちるが俺の紹介を阻んでいたという事実からも窺えるが、どうも写真でひと目見た時から俺のことがお気に入りだったようで、こっち(・・・)で出会ってからというもの、隙あらば愛でようとしてくる。落ち着いて話すこともあったりするので俺はこの現象を発作(・・)と呼んでいるのだが、まったく……。


颯汰(そうた)君! いや颯汰(そうた)と呼ばせてもらおう! 私のことも遠慮なく(れい)と呼び捨ててくれ。」


「わかった。わかったからそれ以上近づくな(れい)。いちいち近いんだよお前は。」


「そんなパジャマを着ているのが悪いのだろう! これを拝まずに何を拝めというのだ!」


 発作の原因は俺のピンクのパジャマだったようだ。もう着るのやめるかなこれ。美紀(みき)が横目で睨んでいるが緊急事態にまで及ばない限りは手を出してこない。もう発作が出た段階で緊急事態だろ。助けてくれよ。


「で、俺の説明はちゃんと聞いてたのか? (れい)。」


「ああ。聞いていたとも! だから一度でいいから撫でさせてくれ!」


 ダメだこいつ早くなんとかしないと。今の流れのどこから『だから』に繋がるんだ。会話のキャッチボールというのをわかっていないのか。ドッヂボールしてんじゃねーんだぞ。


「一度撫でたらちゃんと話を聞くんだろうな?」


「ああ。もういっそ殺してくれても構わないぞ!」


 それはそれで会話になんねーだろうが。あーもう、めんどくせえのばっかり集まるな本当にもう。てかもう既に撫でてるじゃねーか。このやろう。

 そこから美紀(みき)が止めに入るまで、5分ほどの時を要した。


「でだ。話を戻すぞ。脅威と呼べる者は残骸(スピネル)だけじゃない。俺がこっち(・・・)で出会った妙な能力(・・)を使う男もいる。ああいった奴らが今後現れないとも限らない。だから人間同士だから仲間だっていう考えは捨てた方がいいと思う。」


「共通する敵というものがありながら……人というのは本当にどうしようもないな。」


 こいつも何か苦い経験でもあるのだろうか。そう言った(れい)の表情からは、どこか人に対しての諦めみたいなものを感じる。


「快楽的に能力(・・)を使うような奴らもいる。そんな奴らが素直に協力してくれるとも思えない。だから、こっち(・・・)での知り合いがいるのなら先に教えて欲しい。そいつらから優先的に保護していくつもりだ。俺たちの方では浩一(こういち)という奴を助けたいが、現在どこにいるかは不明のままだ。連絡も取れない。」


「なるほど。私はこっち(・・・)には知り合いと呼べるような者はいない。みちる先輩がいてくれたら……心強かったがな。」


 そうか……。高校三年生である彼女はこの世界での一番の年上。こんな不安ばかりの世界の中、立場や責任という重圧に潰されそうになっているんだ。おそらくは俺と同じように、いつもみちるが心の拠り所として存在していたのだろう。

 みちるがいれば。俺もこっち(・・・)へ来てから、そう思わなかったことなどない。でもそうも言ってられないんだ。俺にも既に守るべきやつらがいる。今度は俺が姉貴のような人間になる番なんだ。


(れい)にとってさ、みちるってどんな奴だった?」


 わかりきっていたことだがもう一度、他人の口から聞いてみたかった。俺の明確な目標として。


「私たちの年代のほぼ全ての憧れだったよ。強くて真っ直ぐで、そして優しかった。颯汰(そうた)に会わせてくれなかったことにだけは文句を言いたかったな。いや、いつも言っていたんだがそれでもダメだった。たまに恐ろしく冷たい目で見るんだ。かっこよかったが怖かったな。」


 そう、何がというわけじゃいんだ。だが『強い』と明言できてしまうような存在。それが愛子みちる(あやしみちる)という人間だ。頼れて、いつも引っ張ってくれて、そして背中を押してくれる。あらためて自分が掲げる目標というのを確認した。


 まあひとつ誤解をしているようだが、恐ろしく冷たい目というのはあれだ。それは俺を守ろうとした姉貴の本気モードの時だろう。あいつが俺を守ろうとする時はいつも異常だ。

 そしてあの姉貴にそこまでさせるほど、俺にとっての脅威(・・・・・・・・)と認識されていたわけだな。うん。こいつはもういろいろと手遅れだ。そんな結論に至った。


胡依(こより)。お前はどうだ? こっち(・・・)で知り合いとかはいないのか?」


「わ、私も今のところ知り合いはいない、と思います。す、すいません。」


 あまり喋らない胡依(こより)は、話を振らない限り自分から振ってくるようなこともなく、どこか存在が薄い。いい子なんだろうが臆病で常に他人の目を気にしている。

 そんな胡依(こより)だが、クロに対してはよく懐いているようだった。仔猫と接するその優しさは、まだ慣れていない俺たちから見ても十分伝わる。この子は本当に優しい子なんだと。


「そうか。クロに構ってくれてありがとうな。クロも喜んでいるし遊んでやってくれ。」


「は、はい!私も楽しいですから。」


 今日一番の笑顔であった。なんだ可愛く笑えるじゃないか。


「二人に知り合いがいないとなると、俺たちが探すべきなのは浩一(こういち)だけか。あいつは本当にこっちに来ているんだろうか。連絡も取れないし、何か事前に約束でもしていれば合流できたんだろうが。」


 そこまで言って俺は思い出した。約束……来週……渋谷!


「そうか渋谷だ! 俺はあいつと渋谷へ行く約束をしていた。こんな状況で律儀に守るとも思えないが、そこに来る可能性も……って渋谷か。」


 言っている途中で、嫌な記憶が頭を過ぎった。あの男と出会った場所もまた渋谷だ。そして音信不通の浩一(こういち)。まさか、とも考えたがそれはいくらなんでも飛躍しすぎだろう。

 不安ばかりが強くなる。浩一(こういち)を探しに行きたいが、こいつらを連れて行くというのは流石にまずい。危険すぎる。そんな俺の様子にいち早く気付いたのは美紀(みき)だった。


颯汰(そうた)。渋谷って確かテレポートが発現したその日に危険な目にあった場所よね?」


「ああ。危険なのは承知の上だ。それでも、いやそんな場所だからこそ浩一(こういち)がいた場合すぐに助けたい。」


「私が何を言いたいかわかる? 颯汰(そうた)。」


 美紀(みき)が真剣な表情で俺の目を覗き込んでくる。まるで、俺の返答はわかっている。でもそれは言わせないとでも言うように。それこそ俺だってわかっているが、それは聞けない。


 言葉を発せられないままの俺の前に由美子(ゆみこ)が歩み寄ってきた。


「私が言いたいことも当然わかってるわよねー?」


「お前らはあの男のことを知らないからそんなことが!」


 追い詰められた俺は説得する言葉も持てず、感情的に怒鳴ってしまった。納得させられないから脅すだなんて情けない。だが二人は怯むどころか一歩踏み込んできた。


「知っていたとしても同じよ。私も由美子(ゆみこ)も何も変わらないわ。」


「そういうことー。むしろ危険とわかれば余計に、と思うけどね? 私は。」


颯汰(そうた)。君の負けじゃないかな? 彼女たちは聞かないよ。当然私も同じ気持ちだ。君がもし勝手に一人で先走るなら、私たちは勝手に君を追いかける。結果としてバラバラになり守るべき相手も守れない。君はそんな結末を望むのか?」


 (れい)の言葉が突き刺さる。こいつらならやりかねない。いや、確実にそうなるだろう。クロや胡依(こより)までもがこちらを真剣な眼差しで見ている。バラバラになるくらいなら最初から一緒にいた方がまだ守れる……か。

 

「わかったよ。全員で行こう。ただし俺の指示には従ってもらうぞ。あの男の能力(・・)のことも知っているのは俺だけなんだからな。」


 みんなの覚悟を聞いた。そして俺も覚悟を決めた。その覚悟の結末はーー

 

 俺のもっとも望まない形として訪れることになるのだった。


 そして当然、この時の俺たちには知る由もなかった。

次回は番外編。プロローグ直後のみちる視点のお話になります。

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