1-7:検証と撤退
テレポート。
定番としてはルーラか。行ったことがある町へ飛べるとかいうあの魔法。ガキの頃はみんなが憧れた魔法だったはずだ。
だが今、この世界でのテレポート能力。嬉しさは確かにある。でもそれはあくまで逃げるための能力なんじゃないか? 逃げることが許されない状況に置かれた場合、俺はどうやって美紀や由美子を守るんだろう。
不安が募る。だが、嘆いていても仕方がない。今はこの能力を少しでも使えるようにしなければならない。岩の槍や火の玉を使ったあの男。次にあんな奴と対峙した場合、俺は能力なしに生き残れる自信がない。俺は気合を入れ直し、能力の検証を開始することにした。
「さて、まずはあれだな。定番としては思い描いた場所に飛べる。そんな感じだろうから、知ってる場所。そうだな……。美紀の家にでも飛んでみるか。」
「あ、じゃあ私、着替えが欲しいかも。」
まるで地雷を俺に投げつけるような発言だった。美紀さん?あんた何言ってんの? き、着替えというとあれじゃないですか!し、し、下着とかも。
「あほか! そんなことできるかっ! 後で自分で取りに行け!」
こっち来てからこいつ、俺に対してめちゃくちゃ距離感が近くないか? いや、気持ちはわからないでもないんだが。近すぎて俺の心臓がマッハだ。ストレスではない。断じてない。
『ぶー』という声が聞こえてきそうな、不満げな顔をしている美紀のことは置いておこう。
「えー。颯汰好みの下着選んであげたらいいじゃーん。ねえ美紀?」
お前も俺の敵か!! いや、どうやら違ったようだ。美紀も顔を真っ赤にして撃沈している。
三つ巴かよ。三国志でも始める気か。じゃあ俺、劉備ね。超雲探しに行くわ。
閑話休題。
などと何回使えばいいんだよ。話逸れ過ぎだろ……。
「んじゃちょっとやってみる。集中して思い描けば行けるのかなぁ。」
「すぐ帰ってきてね?」
美紀は少し不安そうにそう言った。
俺は頷き返すと、目を閉じて美紀の家をイメージした。何度も行ったことのある場所だ。大丈夫、いけるはず。飛べっっ!! 体から何かが抜けるような感覚がした。次に目を開けた俺はーー
見慣れた家の玄関の前にいた。
「ふー成功か。しかし、やはりというか。何かしらの力を消費して飛ぶ感じか。由美子も乱射すると疲れるとか言っていたしな。俺も飛びすぎには注意しないと危なそうだな。」
さて帰ろう。そう思ったところで、俺はふと2階にある美紀の部屋を見上げてあることに気付いた。
下着、選んだ方がいいのかな。
いや冗談だって。まじで。
「ただいま。」
戻ってきた俺の姿を見て、二人はホッと息を吐いた後におかえりと言ってくれた。下着はないが勘弁してくれ。
「問題なく飛べたよ。でも、これは全員に言えることだが、何かしらの力を消費する感じだな。多用するのは危険かもしれない。」
「そうねー。眩暈とかすることもあるしー。」
「私も長時間飛んでいると息があがることもあったかな。」
「各自で能力の限界値については確認しておいた方がいい。誰かがそのテストをするとき、残りの二人は能力を控えて守りに徹することが前提だ。この世界は油断できない。全員が疲弊しきっている時に何かがあったら困るからな。」
二人は神妙に頷いて答える。
「次は、うーんそうだな。他人をテレポートできるかも試したいが、もう少し慣れてからがいいな。よし、物体をテレポートできるか試してみよう。」
その後、いろいろな物体をテレポートして確認したが、まず前提として対象に触れていないとダメらしい。そしてあまりにも大きいものや重いものはできないことがわかった。例えばこの家そのものをテレポートなどはできない。最大重量は今のところまだわかっていないが、そこは後々の課題としよう。
それと、これはとても大事なことだったが、テレポート先に優先的に物が存在した場合、どのような現象が起こるのかもテストしてみた。結果としては位置に補正がかかる。指定した位置から少しずれたところに現れるようで、これには安心した。そこにあるものに重なったり、消滅させたりとかだったら危ないからな。
自分をテレポートして記憶にない建物がそこに建設されていてそこに……なんてことになったら俺は死んでしまうかもしれないし。それを思うと、確認もせず気軽に美紀の家に飛んだことが今になって恐ろしくなった。無知ってこええ。
「さて、次は他人のテレポートなんだが……。テスト感覚で何が起きるかわからない能力をお前たちに使いたくはないなぁ。ミスって空中に放り出したりしたら危ないしな。」
「それなら私で試したら?」
美紀が翼を具現化させてそう言ってきた。なるほど、美紀ならミスって空中に飛ばされても問題ないか。
「確かにそれは安全だけど、でもな……。」
それでもどこか不安な俺に対して
「それじゃいつまでもテストできないでしょ? 試すにしても、ここから庭までとか距離を短くすれば問題ないだろうしね?」
なるほど、いきなり遠くに飛ばす必要もないな。その言葉で決意が固まった。
「じゃあやるぞ? えっと、庭を指定して飛ばすけど、念のため翼は出したままにしておいてくれ。咄嗟に飛べる状態にしておかないと不安だ。」
「うん。わかったわ。」
そして俺は集中し、美紀に合図を送った後にテレポートを実行した。結果は問題なく成功だ。どうやら他人もテレポート可能らしい。これは嬉しい結果だ。こいつらを逃がせるってことだからな。
「ふぅ、何事もなくてよかった。限界距離についても今後の課題として。あとは、そうだな。今日はこのまま俺の限界値の測定に当てるから二人はここから能力を控えてくれ。」
こうして俺は限界値を測るために物体のテレポートを繰り返していたが、無理した結果はお察しの通り。
視界が暗転して倒れた。
起きたとき、俺はベッドに寝かされていたのだが、もう夜になっていたようだった。横でもぞもぞと何かが動いていた。
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
俺はテレポートを繰り返して意識を失ったと思ったら、いつのまにかベッドで寝かされて、横にパジャマ姿の美紀寝ていたんだ。
な……何を言っているのかわからねーと思うが(ry
いや待て待て。まじでなんで俺と一緒に寝てるの? 男の子よ? 俺。よく見ると床には布団が敷かれていて、由美子がみちるのパジャマの予備を着て寝ている。
……。
修学旅行かよ!
なんでお前まで俺の部屋にいんだよ!
一緒に寝るなら俺とじゃなくてお前ら二人だろうが!
てか、なんで俺パジャマに着替えさせられてるのおおお!
最後のつっこみで涙目になっていたが、俺はふと腕を取って離さない美紀の寝顔を見つめてしまった。
まったく。安心して寝やがって。俺も男なんだぞ。離してはくれない……か。
それなら、俺は……俺の選択は……。
リビングへテレポートで逃げた。




