第6話 花山院の寝言
「死ね」
教室に着くなり、親友の芝池にそう言われた。
「おい、いきなりなんだよ」
「見ていたんだよ、お前が美少女二人とキャッキャウフフとしながら登校しているのを!」
美少女二人?
ああ、葉勢森と花山院さんか。確かに二人とも見た目はかわいいもんな。
キャッキャウフフって感じでは全然なかったけど。
あれから、俺の腕を引っ張ってくるあの二人を振りほどいて、なんとか教室まで逃げてきたのだ。
おかげで朝から疲れてしまったよ。
「おー、時丸、おはよう、そして死ね」
荒内もこちらに来るなりそう言ってきた。
「お前もかよ」
「さっき見かけたぞ、葉勢森さんと花山院といちゃいちゃしてんのをよぉ、なんだお前、ラノベの主人公かなんかか? 俺と代われよ」
と荒内が俺の肩を強く握りながら言ってくる。
やれやれ、モテない男たちの嫉妬は醜いなぁ。
もぐもぐ、もぐ。
「ていうか時丸、いつまでフランスパン食ってんだよ」
「そうだよ、なにちまちま小さくちぎりながら食ってやがる、男なら豪快にかぶりつけ」
芝池、次に荒内から、イライラした感じで言われる。
まったく、朝飯くらいゆっくり食わせてくれてもいいじゃないか。
なんて思っていると、教室の扉がガラッと開かれ、葉勢森と花山院さんが教室に入ってきた。そのタイミングで始業のチャイムが鳴った。
「良かったー、ギリギリセーフ」
と胸を撫で下ろす葉勢森。花山院さんもほっと一息ついている。
「みんなーおはようー」
チャイムが鳴り終わったのと同時くらいに、担任の古村先生も入室してきた。
その直後、フランスパンを食べている俺と彼女の目が合う。
先生は俺の前まで行き、無言で俺の口からフランスパンを奪い取ると、それでパシンッと頭を叩いてきた。
「時丸君、朝ご飯はチャイムが鳴る前に済ませなさい」
「はい……」
頭を下げると、先生はフランスパンを返してくれた。
「へー、先生はこういう時、フランスパンで生徒の頭を叩くのか。僕のデータに追加しないとな」
と芝池が後ろでつぶやいていた。
そんな情報、追加する必要ある?
*
一限目の授業が始まった。
古村先生が黒板に竹取物語の冒頭の現代語訳を書いている。
朝から古典はだるいなぁ……。
俺が授業に集中できないでいると、
「すーすー」
寝息が聞こえてきたのでちらっと隣を見ると、花山院さんが堂々と熟睡していた。
一限目からこれとは、不真面目だなぁ。
ああ、でも、そういえば、寝不足って言っていたな。
いや、だがその理由はたしかエリア51について夜遅くまで調べていたからだったか。情状酌量の余地はないな。
「ぐーすー……やったー、転校生……」
ん?
一瞬、びっくりしちゃったけど、なんだ、寝言か。
「すー……ぐー……宇宙人がやばいわ……」
また寝言か。
宇宙人がやばいってなんだよ。
なんか変な夢でも見てるんだろうか?
「んん……これは、アメリカと日本と中国と韓国とカナダとイタリアとフランスとロシアとドイツとオーストラリアとメキシコとキューバとベトナムの陰謀よ……」
また寝言か。
ていうか、多いな、陰謀を企てている国……。
それからも彼女の寝言は続く。
「このままだとアメリカが滅ぶ……」
まじか。そんな事態になっているのか。
「あと、日本も滅ぶ……」
そんなついでみたいに……。
まじでどんな夢見てるんだよ、この女。
ていうか、なんで俺はいちいち彼女の寝言にツッコミを入れているんだ……?
でも、気になっちゃうんだよな。
「時丸くん……」
その寝言を聞いた瞬間、ドキッとしてしまう。
まさか、彼女の夢に俺が出てきているのか?
「時丸君、腕が!」
え、俺の腕がどうかしたの?
「ああ、時丸くんのあれが!」
あれ? あれってどこ?
俺のあれ、どうなっちゃったの?
「時丸くん、死なないで……」
ええ、夢の中の俺、死にそうなの?
誰か夢の中の俺を助けてくれ!
あと、俺の腕とあれがどうなったか教えてくれ!
「うそ、時丸くんが死んじゃった……」
まじか。俺、死んじゃったのか……。
「うそ、時丸くんが宇宙人になって甦った……」
ええっ、なにが起きた!?
蘇るのはいいんだが、人間にしといてほしいんだけど。
「時丸くん、どこへ行くの……時丸くん……!」
どこへ行こうとしてるんだろう、俺は……。
「時丸くんが世界を救った……」
まじか、どうしてそうなったかはわからないけど、英雄じゃん、俺……。
「時丸くん、ありがとう、世界を救ってくれて……」
感謝されてしまった、どういたしまして。
「時丸くん……どうしたの、時丸くん!?」
なんだなんだ、またなんか起きたのか?
「時丸くんが暴走した……」
まじかよ、俺、暴走しちゃったのか。
誰か止めてくれ、俺を。
「時丸くんが世界の敵になった……」
はあ? なんでだよ、ちょっと前まで、俺、英雄だったじゃん!
「大丈夫、私が時丸くんを止める……」
頼む。
「殺しても恨まないでね、時丸くん……」
いや、恨むよ、めちゃくちゃ! 一生恨むよ! 殺さずになんとか止めてくれ!
「うそ、時丸くんが死んじゃった……」
また死んだのか、俺……。一生お前を恨むからな?
「うそ、時丸くんがスーパー宇宙人になって蘇った……」
また蘇ったのか、ていうか、なんだよ、スーパー宇宙人って。
「時丸くんが世界を救った……」
俺、また世界を救っちゃったのか。
まじで彼女は今、どんな夢を見ているんだ……。
「そっか、時丸くん、宇宙に行くんだ……宇宙人になっちゃったもんね……」
ええ、やだよ、俺、日本にいたいんだけど。
その時、スタスタスタ、と足音が聞こえてきた。
前を見ると、古村先生がこちらに来ていた。
やべっ。
先生は花山院さんの席の前に行き、彼女に声をかける。
「花山院さん? 今は授業中ですよ?」
びくっと震えて、花山院さんが顔を上げる。
「あ、す、すみません!」
「時丸くんも、授業に集中してくださいね?」
「は、はい、すみません……」
それから、時折、先生から鋭い視線を向けられながら、俺と花山院さんは授業を受けた。
そして授業が終わり、休み時間になると、俺は花山院さんに声をかけた。
「なあ、花山院さん、さっきの授業中、寝言で宇宙人がどうとか言ったり、俺の名前を出してたりしたけど、どんな夢を見てたんだ?」
「え、私、そんなこと言ってたの?」
彼女は顔をかぁぁっと赤くする。
「うん」
「えーと、それはね……」
「それは?」
「ひ、秘密……」
口に指を添えて、花山院さんは言う。
「えー、めっちゃ気になるんだけど、教えてくれてもいいじゃん」
「絶対教えない、秘密ったら秘密なの!」




