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【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない  作者: As-me・com


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44:ユイバール国のこと

 ここはユイバール国。その国の王城は国王からの突然の言葉のせいでざわめいていた。




「本当でございますか、ルネス国王!我が国のお世継ぎが存在しておられるのですか?!」


 濃いワインレッドの長い髪を靡かせ、紫色の瞳をした美しい男……ユイバール国のルネス国王がニヤリと口元を歪めた。それなりの年齢のはずだがそれを欠片も感じさせない美しい見た目は恐怖と羨望の的であった。


 残忍な性格で、常に血に飢えている“血塗られた美貌王”と揶揄する者もいたが決して間違いではないだろう。


「あぁ、黙っていてすまなかったな。実はずっと他国のとある貴族の家で匿ってもらっていたのだ」


「しかしなぜそのような……。これまでお世継ぎの事をご相談しても何もおっしゃってくださらなかったではないですか」


 この国の宰相が困惑の瞳をルネス国王に向ける。老体に鞭打ちルネス国王が生まれてから長年ずっと仕えていたがあまりに突然の報告に驚きを隠せなかった。なぜならこのルネス国王はずっと子供が出来ずにいたので跡取り問題が勃発していたからだ。


 ルネス国王には正妃と側妃がいるが、どちらも子供が出来ずにいたため王族への不満を吐く輩も存在していた。もちろん国王にではなく正妃と側妃にのみへの不満だ。王族には何よりも血の濃さが求められるが、血が濃いが故に妊娠もしにくくなっている。しかしその尊い血を薄めるような行為は重罪であるためよその国から姫に嫁いでもらうことも難しかった。だからこそ、早く尊い血筋を増やさない正妃と側妃が悪いと不満の捌け口にされているのだ。正妃はまだ気丈に振る舞っていたが、側妃は気が弱く心労で伏せることが多かった。


 たとえそれが、国王自身に問題があったのだとしてもこの国には王を咎める者などいない。


 ────唯一の重罪になる罪さえ犯していなければ、だが。


「それが、実はその子は側妃との間の子なのだ。さらにいえば医者によると色素の突然変異で色が薄く未熟児だった為に体も弱かった。このままこの国で暮らすのは命の危機だと言われてな。側妃の家系に過去に薄い人間が出ていたらしいからそちらに似たのかもしれん。だから側妃にも口を紡ぐように厳しく言っておいたのだ……わかるだろう?」


 少々強引だとも思える釈明に不信に思うもそれを口にすることはできない。宰相はなんとか自分が納得出来る理由を探して頭を巡らせた。


「は、はい。確かに。色が薄い子供となれば不貞を疑われ下手をすれば重罪。側妃様が産んだお子となれば一族もただではすみますまい。さらにお体が弱いとは……正妃様が手を下す可能性もあり得たということですな?」


 宰相は満足気に頷く国王の姿に内心ホッとしていた。しかし渦巻いた疑念はすぐには晴れそうになかった。いくら国王に言われたとはいえ、少々傲慢な性格をしている側妃が自分の手柄をここまで隠しておけるなんて信じられなかったからだ。


「そうだ、あれは嫉妬深い。俺がほんの少し色の薄い髪をした側妃を迎い入れた時も凄かったからな。それなのに側妃が先に子を産み、さらには色が薄いとなればどんな冤罪で子供を殺そうとするかわからなかった。だから、子供が成人するまで命を守るために宰相のお前にも秘密にしていたのだ」


「しかし、内密でご懐妊くらいお知らせして下さってもよかったものを20年近くも隠しておられるとは、じぃはそんなに信用成りませぬか」


「許せ、側妃が懐妊した途端に不安を口にしたのでな。どんなに気が強くてもやはり正妃の事は恐ろしいらしい。妻を守るのは夫の役目だろう?」


「しかし」


「……なんだ。そんなに俺が信用できぬか?」


 ギラリ。と、ルネス国王の目が鋭く細められる。宰相は“しまった”と顔色を悪くした。


 その視線に射抜かれた途端に宰相は背筋に悪寒を感じた。この国の王族は濃い血筋同士で婚姻を繰り返すため、時折血が狂ったかと思わせるような王が出現する。好戦的で血を見るのが好きで、一歩間違えばそれこそこの国は地獄絵図のようになるだろう。そしてこのルネス国王はまさにそんな歴史をそのまま体現するかのような人間だった。



「ひっ!いえ、そのようなことは……!全ては国王のおっしゃるとおりでございます!」


「そうか、それならよかった。じぃにまで我が子の事を疑われたら俺は悲しい。悲しみのあまり……じぃを殺すところだったじゃないか」


 にっこりと視線を緩められ宰相はその場に崩れ落ちそうになるのを必死に耐えた。今、機嫌を損ねれば次の瞬間に自分の首が物理的に飛ぶだろう。この国王にはそれが許されている。


 そんなことが許されている時点でこの王国自体が狂っているのかも知れないが、それを疑問に思う人間はここには存在しなかった。


「も、申し訳ありません。で、ではさっそくその御子様をお迎えに行く準備をいたしましょう。それで、その方のお名前は?」


「うむ、我が息子の名は“ラインハルト”だ。あちらの国では“ラインハルト・ディアルド”と名乗っている。多少色は薄いが俺によく似た美しい青年だ。我が国に来たら正式に王太子として新たな名前を命名するが、それまではそう呼んでおけ」


「畏まりました。……おや、そういえば側妃様はどうなさったのですか?元々あまり外出は好まない方でしたが最近は全然お見かけしておりませんな。また宝石商でも呼んで引きこもっておられるのでしょうか。これからは王太子の御母堂としてお務めをしてもらわなくてはいけませんのに」


「────さぁてな、俺も知らぬ」







 その頃、ユイバール国において最も大切な()()()()()()()()()の側妃は……自身の部屋で血にまみれて息絶えていた。




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