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悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない  作者: As-me・com


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39/70

39:おねぇ執事の秘密2(ライル視点)

 セリィナ様が大量の婚約の申し込みを断った数日後、アタシは旦那様に呼び出されていた。


 セリィナ様が寝静まった深夜、セリィナ様関連の報告をするときはだいたいこの時間帯だ。最近はあの悪夢を見ないのか魘されることもなく自分のベッドでぐっすりと寝ているようである。



「旦那様、参りま「うむ、入れ」……失礼致します」


 軽くノックをして声をかけた瞬間、被せ気味に返事がくる。まるでドアの前でへばりついていたみたいな早さだ。


「……なにかご用ですか?」


 中に入ると、旦那様が厳つい顔をさらに厳つくしてアタシを見てきた。一見すると怒っているように見えるのだが、慣れてくると心配ごとがある時の顔だとわかる。それでも顔を顰めながら指先を突き合わせてモジモジと動かすのは対応に困るのでやめて欲しい。


「う、うむ。実はだな……。ほら、その、えーと」


 旦那様は歯切れを悪くして、側に控えていた老執事のロナウドさんにチラチラと視線を送っている。ロナウドさんが情けなさそうにため息をついているが、なんなのかしら?


「えー、ごほん。旦那様はヘタレですので「ロナウド酷い!」ヘタレは無視して代わりに聞きますが……ライル、あなたは自身の出自について正確に知っていますか?」


「アタシの出自……?」


 なぜそんなことを?そう思いつつも、聞かれた途端に自分の過去が遡ってフラッシュバックした。下町での貧しい暮らし、死んでしまった祖母。……そして、自分を捨てた()()()()()人たちのこと。


「アタシは……下町で祖母と……」


「その、下町へ行く以前の……いえ、あなたの“本当の親”についてです」


 ロナウドさんに鋭い視線を向けられて、これは全部知られているのだと悟った。アタシの過去なんてアバーライン公爵家なら調べるのは簡単だろう。よく考えれば今までその過去に触れないでいてもらっていただけでも破格の待遇をしてもらっていたのだ。


 アタシは覚悟を決めて口を開いた。


「────アタシの両親は……地方出身の末端貴族だったはずです。アタシは知っての通りこの見た目ですが、家族の誰にも似てなくて両親や兄、使用人にも気味が悪いと疎まれてずっと部屋に閉じ込められて暮らしていたんです。そして兄の婚約が決まった時にアタシのような弟がいるとわかったら破談になると……アタシは捨てられました。たぶんアタシは産まれた届けを出されてさえいませんので戸籍もありません。……祖母は、いえ、祖母だった人は唯一アタシの世話をしてくれた乳母でした。アタシを庇ったせいでクビにされ屋敷を追い出されていたのですが、捨てられた日にアタシを拾ってくれたんです」


 あの頃の生活は出来ることなら記憶から抹消してしまいたいくらいだった。生きていたのが不思議なくらいな扱いを受けていたし、戸籍も無いからアタシがあの人たちの子供だと証明するものは何もない。唯一証言してくれる乳母はすでに亡くなっている。証明されたからと言って戻る気もないし、戻る場所も無いだろうが。


「……アタシを捨てた親がどうかしたんでしょうか?」


 まさか今さら自分を探しているなんて思えない。捨てられた日は雪が積もる凍えそうな寒い日の夜だった。そんな日に薄いシャツ1枚を身に纏わせただけの子供を捨てたのだ。死ぬことを願っていたに違いない。裸足のまま雪に埋もれてあまりの寒さに何度も気を失いそうだった。もしあのタイミングで祖母が拾ってくれなければ確実に凍死していただろう。


 それとも、そんな人間と血の繋がりがあるとわかったアタシではセリィナ様の執事には相応しく無いと解雇されるのだろうか。もうセリィナ様にはアタシなど必要ないと判断されたのかもしれない……。


 不安な考えが脳裏をよぎった時、ロナウドさんがこほん。と再び咳払いをした。


「……では、何か────そう、()()()()は受け取っていませんか?」


「……大切な物?」


 あの親からもらった物なんて何もない。わずかな食事と暴言、それに暴力だけだ。……自分たちの行為は貴族だから正しいと笑い、そんな自分たちにまったく似ずにこんな髪と瞳に産まれたのが悪いのだと罵り、「気味が悪い失敗作」「存在が罪」だと殴られた。


 ────あ。


「祖母に……いえ、乳母にならお守りだと言われて貰いました。その、指輪を……」



 見たことのない変わった模様が彫られた古びた指輪。指にはめることは無かったけれど、今でも大切に持っている。お守りというよりは祖母の形見だから。


「では、その指輪にはこのような模様が彫られていませんでしたか?」


 ロナウドさんはそう言って手紙についた蝋封を見せてきた。封を開けるために半分に切れてはいるが、それをぴったりと繋ぎ合わせればまさしく指輪と同じ模様が浮き出ていたのだ。あの頃は寂しくなると何度もあの指輪の模様を眺めながら祖母を思い出していたので間違えるはずかない。


「なぜ、同じ模様の蝋封が……この手紙はどこから?」


 思わず身を乗り出しそうになると、それまで黙っていた旦那様が重い口を開いた。


「……その手紙は、とある国の王族から送られてきたものだ。あの馬鹿げた断罪パーティーでセリィナと共にいるライルを見て調べたい事がある。とな」


「他国の王族から?」


 そして引き出しから1枚の絵姿を取り出し手渡してくる。そこにはひとりの男性が描かれていて……その姿に言葉を失った。


 そこには、自分よりもさらに濃い色をしたワインレッドの長い髪と紫色の瞳をした褐色肌の男性が静かに微笑む姿が描かれていて……肌の色が違う以外は誰に言われなくても自分に似ていると感じたからだ。


「この方はユイバール国のルネス国王だ。この絵姿はまだ王太子時代の頃の物だが……ライルに生き写しだと、ワシも思った」


 アタシが何も言わずにその絵姿を見ていると、ロナウドさんがそっと肩を叩いてくれる。


「しっかりしなさい、ライル。……あなたの事なのですから」


「……はい」


 絵姿を机に置き、姿勢を正した。心臓の音がうるさくて耳に響くが、旦那様の言葉をちゃんと聞くために大きく息を吸う。


「調べたい事とは、ライルがルネス国王の御落胤かもしれない……と言うことらしい。あの国は閉鎖的でほとんど交流はなく王族についても謎が多いのだが、国王自身は自由気ままらしくてな。なんとお忍びでこの国に来ていた時に気まぐれであのパーティーに紛れ込んでいたそうだ。髪と瞳の色を隠して金を握らせたら簡単に入れたぞ。と笑いながら嫌味を言われたが……。

  まぁ、とにかく。ライルの髪と瞳の色はユイバール国の王族に現れる色だそうで……昔、王太子時代にもこの国へお忍びで来ていた時に貴族らしき女と一晩過ごした事があると言っていた。その女に気まぐれで指輪を渡したとも。だから、もしかしたらその時の子供かもしれないと。ルネス国王は結婚されているが子供がいらっしゃらない。王家の血筋はユイバール国にとっては極秘らしくて、そのだな……」


「ちょ、ちょっと待ってください!アタシを産んだ母はそんなことひと言も言ってませんでした!それにアタシには歳の離れた兄がいますし、その頃には父と結婚しているはずです!指輪だって母ではなく親に捨てられた後に祖母からもらったんですよ!?」


 使用人としてはあってはならないことだが、思わず旦那様の言葉を遮り詰め寄ってしまった。「そんなの、意味がわからないわ……!」と思わず本音がこぼれてしまう。



「それについては、(わし)が話そう」


 カチャリと扉が開く音がして、ゆっくりと部屋に入ってきた人物の姿にさらに頭が混乱した。


「……ドクター、なんでここに?」


 アタシの恩人であるドクターがそこにいて、自身の白髭をひと撫でして「(わし)が全てを知っているからじゃよ」と言ったのだった。




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