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悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない  作者: As-me・com


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27:〈閑話4〉公爵家のお仕事(庭整備係視点)


 それは、アバーライン公爵家恒例の()()()の光景。



  ドサドサドサッ!


 地面の上には十数人の“来客”が山のように積まれていった。今日は数が多いからと使用人たちも一緒に()()()が行われたのだが、そのほとんどの“来客”はふたりの執事によって()()()()()されたようであった。




「ふぅ、これで今日の掃除はもう終わりかしら」


 服についた埃をサッと払い、ライルさんが髪をかき上げる。これだけの掃除をこなしたのに汗ひとつかいてないのはさすがというべきか。俺は庭整備係としてそこそこ長くアバーライン公爵家に務めているがライルさんはこれまで見た中でも飛び抜けて優秀だと思っている。俺の上司的な存在である庭師なんかライルさんの腕前を絶賛していたし、使用人の間でもその優秀さは有名だ。


 しかし、執事長様だけは渋い顔をして「これくらいで服が汚れるとはまだまだですな」と小言を漏らしていた。ライルさんの2倍はいたはずの“来客”をライルさんより素早く片付けた執事長様は汗どころか服に埃のひとつもない。これが普通だとでも言いたげだが、我々下っ端の使用人から見れば執事長様はもはや人間を超越した存在なので一緒にしないで欲しいと切実に思った。こっちは汗だくの土まみれだっつーの。まぁ、ライルさんは気にしていないみたいだが。



「ロナウドさん、そっちも終わったの?」


「ライルが最後のひとりを片付ける前には終わっておりましたぞ」


 執事長様が動かした視線の先には“もうひとつの山”かあり、こちらの山より無残な状態になっていた。執事長様、ストレス溜まってたんだなぁ。と思わずにはいられない。ライルさんもそれを見て「アタシの2倍はいたのに、さすがだわぁ」と笑っているが魔王のオーラでも放っているかのような笑顔だった。


 もちろん、その理由はここにいる全員が知っている。


「それにしてもこの数年間で増えた刺客ってほとんどあの王子の差金よねぇ……。ほんと、しつこいんだから」


 ライルさんが肩を竦めると、周りにいた使用人を含め執事長様までもが頷いた。


 それもこれも、この数年であからさまにセリィナお嬢様を狙う暴漢や下級貴族のはみ出し者が増えたからだ。あまりに“来客”が多いので掃除する方も大変なのである。厩番なんか“出張”までしてるらしい。それでも毎日の馬の世話はちゃんとしてるからえらいよなぁ。


 まぁ、街の暴漢くらいなら掃除も簡単なのだが。セリィナお嬢様は滅多に外出しないし、それとなく動きを見せれば奴らはすぐ餌に食い付いてくる。それこそ戸籍まで抹消して()()()にしてやるくらい朝飯前である。だが、下手に貴族が手を出してくると“おもてなし方法”や“掃除方法”も変えなくてはいけないのだ。それなりに調べないといけないので手間ではある。


 と言うか、下位貴族の奴らはどいつもこいつも馬鹿のひとつ覚えのように「あのキズモノをこっちで処分してやる」だの「あんなお荷物のキズモノだが、情報と交換に金をやるぞ?」などと使用人に声をかけてくるのはなんなのか。大概が家門を継げない末息子や、またはやらかしたせいで家を追い出されたはみ出し者などの一攫千金を狙う輩だが口に出す言葉はまったく同じだった。それはつまり、()()()()()()()()()()()()()が同じだと言うことだろう。


 それにしても、セリィナお嬢様の情報が金貨1枚でどうにかなるとでも思っているのか?思い出したら俺も腹が立ってきたな。……え、そんな事をした奴がどうなったかって?それはもう“丁寧なおもてなし”をされたに決まっているじゃないか。


 すると執事長様が顎に手を置いて「ふむ」と目を細めた。銀縁のモノクルが光を反射したせいで執事長様の笑みが妙に怖く見えてくる。


「ここ最近はさらに増えましたな。おかげで野犬たちも腹一杯のようだ……とりあえず()()()()は首を刎ねて、体は切り刻み森の肥料にしてしまいなさい」


「あら、首はどうするの?」


「どうやら()()()裏家業の奴等が関わっているようなのでそいつらにお返ししますかな。アバーライン公爵家にケンカを売ったらどうなるか教えて差し上げなくては」


 ふぉっふぉっ。と穏やかに笑う執事長様の姿にそれを見ていた使用人一同が寒気を感じた。たぶん体感温度で30度くらい下がった気がする。いやいや、だって目が完全に笑ってない。執事長様の伝説はいくつも聞いているがセリィナお嬢様が関わるとそれはさらにすごくなるのだ。


 だがそれはライルさんも同じだったようで、こっちもこっちで恐ろしい笑顔を浮かべていた。恐怖の笑顔に板挟みされる使用人は凍えそうなんですが。なんて訴えても温度は上がらないだろう。


「ロナウドさん、怒ってるわねぇ。まぁ、アタシも頭にきてるから賛成だけど」


 やはりその目は笑っていなかった。怖いのに綺麗な笑顔なのがさらに恐怖を感じさせてくる。セリィナお嬢様と一緒にいる時とはまるで別人だ。こんな怖い人をあんな甘々な雰囲気に変えれるなんてやっぱりセリィナお嬢様は偉大だなと思った。


 それにしても……あーぁ、執事長様とライルさんがブチ切れてるぞ。もう知らねー。まぁ、このアバーライン公爵家に悪意を持つ人間がどうなろうと関係ないしね?





 こうしてアバーライン公爵家に忍び込もうとしたり、使用人から情報を聞き出そうとするならず者を掃除し終えると……やっとアバーライン家の使用人たちの1日の仕事が終わるのであった。


 

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