第二十六話:おしまい
レナードの襲撃を計画したのは、予想通り、隣国ノルムとの貿易が進むことで不利益を被る側の貴族達だったらしい。
かなり大規模に関与があったらしく、アルのリーンハイム伯爵家の人間も関わっていたと言うことを後から聞いた。
アルもかなり厳しい取り調べを受けたらしい。
結局、本人は関与をしていない事が分かったが、彼の家の周辺地域における影響力は当然のように地に落ちた。
そして、私はレナードを守ったことで、国から勲章を貰うことになった。
何やら気恥ずかしいが、一番嬉しかったのは、私だけでなく、ケモノ達の活躍が報じられたことだ。
これでこの国のケモノに対するイメージはぐんと上がったと思う。
もちろんまだまだ懐疑的な声もある。
私自身、簡単には考えていない。
ケモノを無条件に人間の仲間だと考えるような事はしていない。
それは自然を侮ることだ。
私自身がケモノに対する理解を深めるためにも、レナードのケモノに関する仕事を引き受ける事にした。
といっても、街の近くではなく、まずはネコ先生の家の隣に簡単な建物と柵を作って、自然の中で保護したケモノを育てている。
今はウチウルブ(犬)やフェル(ネコ)を中心に、全部で十匹程度と言うところだ。
それに加えてもともといた、ホーク、ハヤテ、コネコちゃん、レッサちゃんがいる。
彼らを観察しながら、そのレポートを国へ報告するという形だ。
まだまだ影響力は少ないが、ケモノ達にとっても、私にとっても、第一段階として悪くないものだと思う。
長い時間が掛かるだろうが、魔獣化の問題についてもネコ先生と一緒に研究して行きたいと思う。
父と母は、国からの依頼と言うこともあり私が仕事をすることに反対はしなかったが、「たまには帰ってこい」との事だ。
色々あったけれど、今は一人前扱いをして貰っていると思う。
そしてレナードと私は婚約者という形で付き合っている——
「リン、頑張っているか?」
と、こんな感じで頻繁に私の所へ訪ねてくる。
セスさんと少数の護衛の人も一緒だ。
「はい!」
頻繁に来てくれる事はとても嬉しい事だ。
家の中で報告書を書いていた私は手を止めて立ち上がり、彼に向き合う。
「相変わらずですけど……仕事はいいんですか?」
「ははは……なに、これも仕事さ」
と言いながら私を抱きしめてくる。
確かにここを訪問するのは仕事の一環といえないこともないだろうが……。
「公私混同ですね……」
そう言いながらも、私は彼を抱きしめ返した。
まぁ私も正直言って、恋人がこうやって会いに来てくれるのは悪い気はしない。
しょうがないよね!
「愛する人に会いに来るのが仕事とは、私は恵まれているな」
彼は私の顔を見つめる。
透明感のある目に吸い込まれながら、私たちの口と口が近づき——
「いやゃぁ〜!!」
それを遮るように外から大きな悲鳴が聞こえてきた。
……まぁ聞き慣れた悲鳴だ。
「はぁ……」
私はレナードから離れ、溜息をつきながら家の外へ出る。
「アリス! どうしたの!?」
そう、彼女だ。
ケモノ達がいる柵の中に入って、その世話をしているのだが——
「お、おしっこかけられましたわ〜」
「はぁ……とりあえず水で流してきて……」
「……はい」
以前にレナードに勢いで返事をしてしまった彼女は、私の手伝いをする事になったのだ。
ケモノたちのいる空間の掃除などをしてもらっている。
ちなみに、アルの家が力を失ったことで、彼との関係もなくなったらしい。
まぁ元々どこまで本気だったのか分からないけれど……。
「アリス、頑張っているな」
後から出てきたレナードがそう声をかけた。
「はっ! レ、レナード様!?」
気づいたアリスは顔を真っ赤にしていた。
「きょ、恐縮です……し、失礼します!」
と言って、タッタッと走り去っていった。
その後ろ姿を二人で見送る。
「さて……」
レナードは再度、私の肩を抱き寄せた。
「先ほどの続きを……」
と言って口を近づける。
「……」
私もそれに応えて口を近づけ瞼を閉じる。
……私たちの唇が触れあう。
境界線がなくなったように、体も触れ合っている。
ひとときの甘い時間が流れる。
ただ、そんな私たちの耳には、
「あ〜! うんち踏みましたわ!」
アリスの悲鳴がこだましていた。
【あとがき】
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