#013 類は友を呼ぶ
駅から店まで徒歩20分くらい。
その間にナンパされること三回、内一回は強引に手を引かれ路地に連れ込もうとしたので撃墜してマット(路上)に沈めた。
現在は珈琲の香しい匂いが漂っている目的地である店内にいる…いるのだが俺は選択を間違えたのだろうか?
店の扉をくぐり、店員の“いらっしゃいませ。”の定番の台詞の後“あらまあ、いらっしゃい。”と珈琲豆を置いているショーケースの向こう側から筋肉ガチムキにエプロンを着けた二メートル級の“お.ね.え.の口調の男性”が現れた。
いや、それよりも、髪の色がピンクである。
この世界が異世界という認識ができる一つとして多彩な目の色や髪の色を見たがピンクは初めて見た。
『ピンクの髪か…ファンタジーだな。』
言動や体格の大きさよりも髪の色に目がいってしまった。
視線を頭から外すとエプロンのネームプレートに“店長 日比谷”と表示があった。
『…これが店長か。来る店を間違えたかな。』
そんなことを考えていたら相手側から声を掛けてきた。
「あら、初来店の子ね。し.か.も.男の娘じゃないの〜♪」
「あのー。今、男の子を違うニュアンスで言いませんでした。」
「………気のせいよ。」
『おい、その間は、肯定と見なすぞ!とりあえずこの店は…出よう。』
そう思って店から出ようと振り返ったところで“あら、つれないわね〜。”の声が背後で聞こえた次の瞬間、油断していた俺は、このオカマに捕獲された。
「1名様、ご案内〜♪」
俺の捕獲状況、お姫様抱っこ、悪寒が走った。
ただし、悪寒が走ったのはお姫様抱っこをされたからではない。
人は気がつかなければ幸せなことがある。
しかし、抱っこをされて気づいてしまった。
てっきり筋肉大好き、自分の肉体美を見せたがり人、特有のタンクトップの上にエプロンを着けているかと思ったが…どうやら変態の類いだったらしい。
だって、コイツ上半身裸にエプロン着けてるんだもん。
『ぎゃーっ!!誰か…誰かお巡りさんを呼んで―――――!』
得体の知れない者に捕まった俺は借りてきた猫のように硬直し声にならない叫びを心の中で叫んでいた。
こいつがほんの1時間前に電車内でした行動を考えれば逮捕者は1名ではなく2名。
まあ、どちらが呼んだか知らないが“類(変態)は友(変態)を呼ぶ”ということなのだろう。
*
*
連行された俺は只今、カウンターに座っている。
初来店とかで無料で珈琲を入れてくれた珈琲カップの摘みを持ち上げて自分の口に運ぶ。
「あぁ、旨い。」
悔しいことだが、このオカマの入れた珈琲は実に旨かった。
口の中に良い感じに珈琲の味と鼻に風味が広がる。
「あら、それは良かったわ。うふふ♪」
『………ああ、目の前にあんたが微笑みながら立っていなければ最高の一杯なんだが。いい加減、離れてくれないだろいか。あとまだ何かしようものなら現在作成中の術をプレゼントしてやるよ。』
そう思いながら、作成した術の内容をテーブル下で確認しながら再び珈琲を口に運んでいると見兼ねた店員の1人がオカマに告げた。
「店長、男の子に熱をあげてないで仕事して下さい。…明希さんにチクリますよ。」
「!?…ちょ、ちょっと待って。これは浮気とかじゃないわ。これは…そう、愛でていただけよ。それにそんなことされたら私、今晩搾り採られるじゃないの――!」
そう告げられるとこのオカマ、急にガクブルし始めた。
『おいこれ、トリップしてないか?』
ガクブルから“明希ちゃん許して、お願い、お願いよ…後生だから――”と呟くオカマを余所に“いつものことだから気にしないで。”と言う店員さんに“明希さんて誰?”と聞いてみるとこれの奥さんだそうで娘もいるとのことだ。
“えっ…お前、妻子持ちかよ!!俺にちょっかいかけないように根こそぎ搾り採って貰いな。”と心の中で思ったのと同時に店員さんに“ありがとうございます。助かりました。”とお礼を言っておいた。
更に話を聞くと奥さんの明希さんはこれにぞっこんなのだとか…世の中は不思議に満ち溢れているものである。
珈琲を飲み終えた俺は、精神世界から帰還して店員さんに“お願い、お願いよ。明希ちゃんには言わないで―”とすがりつくオカマを後にして販売カウンターでお薦めの豆を購入してこの店を立ち去るのだった。




