6.幼馴染の特権と巻き込まれた秘書官
まだまだ2人は出会いません・・・が、ようやくヒーローがヒロインを認識しました。
――ヴィグラの村
最初は戸惑いがあったものの、ジョナタの安全宣言に納得したレーティアンヌとシルヴァーナの両親は子犬の存在を受け入れてくれた。
シルヴァーナはとても嬉しそうに子犬を抱きしめ、姉妹の両親もホッとした様子で彼女を見つめていた。これはジョナタの想像だが、彼女が何かに執着したのはこれが初めてなのだろう。
その夜はささやかなパーティが開かれ、姉妹の手作りの夕食に舌鼓を打った。
そして、ジョナタは自分に与えられた部屋に戻るなり、音信の術を発動させる。相手はもちろん上司兼幼馴染のセヴェリオだ。
「――ああ、俺だ。聖女が力に目覚めた。そうだ。瘴気の獣が出て、おそらく上位種だったんだろう。聖女の守護獣として生まれ変わったようだ。・・・それで、頼みがある。聞いてくれるだろ?セヴィ?」
幼い頃のあだ名を呼べば、相手が息を呑む気配。どうやらまだまだこの手は有効らしい。ジョナタはにんまりと笑い、いくつかの頼みごとを一方的に告げ、反論される前に音信の術を切った。
「さて、あいつはどんな手でくるかな?」
翌朝を楽しみにしつつ、ジョナタはごろりとベッドに横になった。
***
――フォルスト大神殿
「――は?何言って・・・おい、おまっ・・・チッ、切れた」
「音信の術ですか?お相手は?」
興味津々でティーノルッツヘルトが訊ねる。それもそのはず。この口が達者で性格の悪い上司が一方的に言い負かされたのだ。こんな面白そ――もとい、珍しい状況には滅多に遭遇できない。
「・・・随分と楽しそうだなぁ?ん?」
「そんなことはありません。それよりも、お相手はどなただったんです?」
セヴェリオにジトっと見つめられるが、素知らぬ顔でティーノルッツヘルトは再び訊ねる。
「――ジョナタだ」
「ああ、影神官の・・・それで、どのようなご要件だったんです?」
「・・・聖女が、瘴気の獣を浄化して守護獣にしてしまったらしいな」
「ええっ!?すごいじゃないですか!!・・・って、あれ?瘴気の獣を浄化したら何も残らないんじゃ?」
ティーノルッツヘルトの疑問ももっともだ。だが、ソレの報告はいくつか上がってきているはずだ。
「やれやれ・・・瘴気の獣にも上位種がいるというのは教えただろう?」
「ああ!・・・って珍しいですね、いつもならこう、ものすごく嫌味混じりに言うのに」
「ジョナタの奴のせいで嫌味を言う気力も無い。なんで私が説得なんて・・・」
ブツブツと文句を言う上司を見つめ、ティーノルッツヘルトは感激していた。この上司を言い負かすことのできる存在がこんなにも近くにいたなんて、と。
「俺、ジョナタさんに弟子入りしようかな・・・」
「やめとけ、奴が弟子を取るわけがない。それに私の秘書官が影神官と一緒に行動できるわけがないだろうが。――いや、そうか。その手があったか・・・お前、この後は寮に帰るだけだったな?」
ティーノルッツヘルトの呟きを耳で拾ったセヴェリオはバッサリと切って捨てたものの、良い考えがうかんだらしく、機嫌よさげにティーノルッツヘルトに訊ねる。
「ええ、はい・・・その予定ですが・・・?」
――― 何だかものすごく嫌な予感がする!
ティーノルッツヘルトが身構えた瞬間。セヴェリオがパチンと指をはじく。
「出でよ、転移の方陣・・・彼の者をヴィグラの村へ」
「ちょっ!?・・・ッ!」
ギョッとするティーノルッツヘルトだったが、足元に現れた転移方陣を視認してピタリと動きを止める。
扱いの難しいこの手の術が発動する時は動かないということが鉄則だ。転移の術の場合を例に挙げると、方陣が発動した直後に動くと、ちゃんと指定された場所に着かない場合がある。
しかし、この上司に限ってはそんな失敗を起こすはずはない。が、故意に遠い場所に落とすくらいはする。
一瞬でいくつかのパターンを考えた結果、ティーノルッツヘルトは大人しくするということを選択した。
「まぁ、村までは休憩なしで馬を走らせて1日と半・・・転移の術を使えば明日の朝には着くだろう」
転移の術も万能ではない。セヴェリオが使っても遠く離れた目的地に一瞬で到着する、ということはなく、多少時間のずれが生じるのは仕方がない。
とはいえ、術を使われた当人は一瞬で移動した感覚なのだから、さほど気にはならないのだが。
「ヴィグラの村ってことは、聖女様とジョナタさんを迎えに行くっていう認識で良いんですね?」
抵抗しても無駄と心得ているティーノルッツヘルトはため息をつきつつ、確認する。
「そういうことだ。・・・聖女は随分と自分に自信がないらしい。まぁ、それも試練の1つなんだろうが。ジョナタが珍しく肩入れしてな、令状だけは使いたくないと駄々をこねて、挙句の果てには私に説得しに来いだと。・・・お前、私の名代として行って来い」
セヴェリオはどうやらジョナタには強く言えないらしい。何か弱みでも握られているのだろうか?それならば・・・。
――― この際だから、是非その弱みを教えてもらいたい!そして、この意地悪枢機卿をぎゃふんと・・・!
「はぁーい」
妙に機嫌良く返事をするティーノルッツヘルト。己の秘書官のわかり易すぎる態度に脱力しつつ、セヴェリオは転移方陣を作動させた。
「飛べ」
パチン、という指をはじく音と共にティーノルッツヘルトの姿がその場から消えた。
「やれやれ・・・随分と鬱陶しい聖女のようだし、極力関わらない方向でいくとしよう」
いつもの調子で嫌味を言って泣かれても困る。そんなことを考えながらセヴェリオはうるさい秘書官がいなくなったのを良いことに、趣味の貯金をするため、いそいそと自室へ引っ込んだのだった。




