31.枢機卿の自覚
久々更新です。方向性を見失いました・・・。
今回はちょっと甘いお話になったと思います。
いよいよ大法術の術式を刻む。
もう既に逃げたくなってきているシルヴァーナだが、セヴェリオにガッチリと手を握られているのでどうしようもない。
セヴェリオ自身も実は緊張をしていて、無意識にシルヴァーナの手を握ってしまっているのだが、そんなことは知りようもない。
「あ、あの・・・枢機卿猊下」
「なんだ」
「その・・・術式は、どこで刻むんですか?教室は逆方向ですよ?」
いつもであれば神殿の教室を使うのだが、その教室のある棟とは逆方向に進んでいることに気付いたシルヴァーナが問う。
セヴェリオはそんな説明すら省いてしまっていたことに気付いて、わずかに歩調を緩めた。
「すまん・・・事前に言うべきだったな。大法術の術式は容量が多い。精神に刻むにしても普通の教室を使うと法力があふれて、神殿に来ている一般人どころか、神官でさえも法力酔いを起こす者が出てくる」
いくら人のためにある法力であっても、強過ぎれば身体に毒だ。
「そう、なんですね」
「だから、神殿の結界が働く場所――旧跡から発掘された方陣を保管している倉庫がある棟に行く」
足を止め、進行方向の奥に見える青い建物を指して、セヴェリオはそう言った。
「な、なるほど・・・」
シルヴァーナは頷き、セヴェリオを見上げると、彼は非常に困ったような表情をうかべていた。
「――シルヴァーナ、私もどうやらまだ混乱しているらしい・・・」
「はい・・・」
「大法術は夢のまた夢と思っていた」
「はい」
「だが、私とお前が力を合わせれば、大法術は発動する。・・・そう聞かされて、心底驚いて・・・おののいている」
いつも冷静沈着で、余裕のあるセヴェリオの告白に、シルヴァーナはその意外さに目を丸くした。
「――枢機卿猊下でも、そんなふうに思うんですね・・・」
ならば自分が及び腰になってしまうのも当たり前なのかもしれないとシルヴァーナは呟く。
「当然だ。私だって人間だからな・・・お前が聖女だと言われて怯んでしまうように、枢機卿だからどうこうと言われて怯んだり、辟易したりするさ」
それはセヴェリオにとって初めて他人にもらした弱音だった。
ジョナタ辺りには気付かれていそうだったが、ハッキリと自分の口で言ったことはなかっただけに、自分がシルヴァーナに対して強い“仲間意識”を持っていた事実を再確認した。
「・・・怯む・・・そうですね、村から出られる、姉から離れられる、ただその為だけにこの神殿に来ましたけど、やっぱり聖女という役目は重いですね」
そう思うから、つい、自分なんかが、と逃げ道を作ってしまう。
ティーノルッツヘルトやジョナタが自分に期待しているとわかっているからなおさら重いのだと理解しているが、2人の優しさも同時に感じていて、拒絶はしたくない。
そんな思いをセヴェリオも持っているのかと思ったら、シルヴァーナの中でセヴェリオに対する親近感が一気に湧いた。
初めて気を許した者への笑顔をセヴェリオに向け、シルヴァーナは続けた。
「私達、似たような悩みを持ってたんですね」
「・・・っ」
無自覚だがシルヴァーナは美少女である。その破壊力抜群の笑顔に、セヴェリオは鼓動が激しくなるのを感じた。
セヴェリオも似たようなことをシルヴァーナにしでかしているのだが、そんなことは棚に上げて、空いている方の手でぐい、とシルヴァーナの頭を押し下げた。
「――ぅぐっ!?」
その後頭部からも視線を外し、セヴェリオはようやく自覚した自分の想いに、口元を歪めた。
――― こんな時に自覚するか、普通。
なんて自分にツッコミをいれつつ、この状況をどうしようかと悩む。
混乱ついでに手まで握っていることに今更ながらに気付いて、ますます身動きが取れなくなってしまう。
普通の男とすればかなり遅い初恋。神官としては・・・まぁ、普通の初恋。
こんな時に限って、ジョナタやティーノルッツヘルトが傍にいない。というか、あの2人に頼れるわけもない。
「あ、あのっ・・・な、生意気言って、す、すみません!ご、ごめんなさい!」
「別に、怒ってない」
ついぶっきらぼうなもの言いになってしまい、シルヴァーナを怯えさせてしまう。
――― 怒ってないなんて、う、嘘だぁ~~~!
「・・・でもっ」
「すまん、今、かなり余裕がない。・・・落ち着くまで、こっちを見ないでもらえるか?」
「えっ、は、はい!!」
シルヴァーナが返事をすると、セヴェリオは再び早い歩調で歩き始める。
引っ張られる形になって、歩くというよりも軽くかけ足をしている状態になってしまったシルヴァーナは、セヴェリオの神官服の裾を踏まないように、そして、彼の顔を見ないように、しっかりと下を向いた。
だから、セヴェリオが激しく照れて、顔や耳が真っ赤に染まっていたことにはまったく気付かなかった。




