29.大法術
久々の更新です・・・。
やっと恋愛色が見えてきた・・・ハズ、です。
――枢機卿・執務室
「ええっ・・・じゃあ、瘴気の獣の上位種って・・・」
真実を聞かされたティーノルッツヘルトは仰天して素っ頓狂な声をあげた。
「本来は敵対するものではないようだな。いずれは神族に回収される無害なもの、と認識するべきだろう」
セヴェリオの説明に、ジョナタが首を傾げる。
「では・・・ルーノの場合はどう考えたら良いのですか?シルヴィさんやレティさんを襲ったのは間違いないのですが」
「神族が作った器よりも、瘴気の獣の方が強かったせいで暴走したようだ。そうなってしまうと普通の瘴気の獣と変わらないが、力を増幅させた瘴気の獣よりかは対処ができる分マシ、というレベルだな」
「はぁ~。理解が追い付かないです。・・・でも、そうなると問題は瘴気の獣ではなくて、瘴穴、ということになりますよね?」
ティーノルッツヘルトが訊ねれば、セヴェリオは重々しく頷いた。
「そういうことだな・・・瘴穴をなんとかしなければ、悪魔がこちらにちょっかいを出してくる可能性が高くなる。そうなる前に瘴穴を閉じなければならないな」
「・・・でも、どうやって・・・」
ジョナタが眉間にしわを寄せる。
今の今まで、何もせずにいたわけではないが、どうやっても瘴穴を閉じることはできなかったのだ。
確かに聖女であるシルヴァーナがいるにはいるが、彼女1人に背負わせるなんてことはできるはずもない。
そんなジョナタの思考を読んだのか、セヴェリオはふ、と短く息を吐き、シルヴァーナの腕を軽く掴んで引き寄せる。
「・・・私とシルヴァーナが力を合わせれば、大法術が使えるらしい」
「「だ、大法術!?」」
ティーノルッツヘルトとジョナタの声が合わさって、執務室にビンビンと響く。
「――うるさい」
しかめ面になったセヴェリオが言えば、ハッとして口を押さえた2人だったが、それでも驚きは隠せないらしく、セヴェリオとシルヴァーナを交互に見つめる。
今はその存在すら怪しまれていた大法術が、枢機卿と聖女の力を合わせれば使えるかもしれないとなれば、驚くのも当然と言える。
「・・・えっと、その・・・御使い様が、そう仰っていたんです、よ?」
セヴェリオの言葉だけでは信じられないらしい2人に、シルヴァーナが補足をする。
やっと冷静さを取り戻したジョナタがチラリとセヴェリオに視線を向けると、頷きが返ってくる。
「そう、ですか・・・シルヴィさんが仰るなら、その通りなんでしょうね」
「おい、ジョナタ。遠回しじゃなくて、ハッキリ言え」
不機嫌な様子でセヴェリオが言えば、ジョナタはひょい、と肩を竦めて言い直した。
「いえ、いつもの猊下の冗談かと思いました」
「こんな真面目な話をしている時に冗談を言うものか。まったく・・・」
「まぁ、そうですよね。いくら猊下の性格が悪くてもこんな時にまで我々をからかったりはしませんよね」
にこにこにこ・・・。
ジョナタに言い返されて、セヴェリオは苦虫を噛み潰したような表情をうかべて唸る。
「――ジョナタ、お前・・・」
「ま、冗談は措いといて。その大法術というのは、どのように発動するんですか?」
――― 冗談じゃないだろうが!
と、叫びたかったセヴェリオだったが、ここで話の腰を折るわけにもいかず、渋々、自分が研究していた大法術の術書を広げた。
「これだ」
その術書は、枢機卿と呼ばれる立場の人間がもっと多くいた頃に書かれた本である。
神族の加護が色濃く残っていた時代だけに、枢機卿となれる程の法力を持つ者が多かったのだろう。
だからこそ、聖女の存在が無くても大法術を発動させることができた。
現在、方陣も術式も存在しているのに大法術を使えなかったのは、ただ、大法術を発動させるのに足りる法力を持つ者がいなかった、というだけの話なのだ。
だが、御使いの話が事実ならば、セヴェリオとシルヴァーナが揃っていれば発動するのだという。
「これが、大法術の術式・・・」
術書を覗きこんだティーノルッツヘルトの声が感激でうわずる。
それもそのはず、神職に就く者は誰もがその術の存在は学ぶのだ。“現在は失われた、神々の法術”として。
「私とシルヴァーナはこの術式を精神に刻む準備に入る。普通の法術とは違って膨大な情報量になるから、しばらくは使いものにならなくなる可能性もある」
「――わかりました。その間のフォローはお任せください」
優秀な秘書官としてのティーノルッツヘルトの言葉に、セヴェリオは満足げに頷く。
「ああ。頼むぞ、ティー。ジョナタもティーノルッツヘルトを支えてくれ」
「わかりました、猊下」
シルヴァーナはその様子を黙って見つめ、ここまできたら失敗できない、というプレッシャーや緊張と戦っていた。
――― 皆さんが支えてくれてるんだから・・・大丈夫、大丈夫・・・。
そのシルヴァーナの様子に気づいたものの、今、何を言ってもプレッシャーになるだけだとわかっていたセヴェリオは、そっとシルヴァーナの背中をポンポンと軽く叩いた。
「!」
ハッとして視線をあげたシルヴァーナに、セヴェリオは精一杯優しく見えるように微笑みかけた。
「大丈夫だ」
ドキリと跳ね上がった鼓動に胸を押さえ、シルヴァーナは小さく頷いた。
「・・・はい」




