28.慰めと悪癖
シルヴァーナの表情が曇ったのを感じ取ったのか、御使いの意識が彼女に向く。
「先程、枢機卿と聖女が力を合わせればと言いましたが・・・正確には2人の法力の量を合わせれば大法術を使えるレベルまで達するという意味です。ですから――聖女、貴方が不安に思っているような理由ではありません」
御使いに心の動きを読まれてしまったシルヴァーナは、肩を落としながらもほぅ、と安堵の息を吐いた。
「それなら、良いんです・・・私でも役に立つのなら、それで・・・」
「貴方の眷属となったその子も、対瘴気の獣の戦力となるでしょう。私達は貴方達の活躍を期待しています・・・では、いずれまた機会があったら」
御使いはそう言い残し、来た時と同じように唐突に姿を消した。
しばし呆然とその場を見つめていたセヴェリオとシルヴァーナだったが、ハッと我に返って視線を合わせる。
「夢・・・じゃないですよね?」
「ああ。この法力の残滓・・・見えているんだろう?」
「見えて、ますけど・・・でも、御使い様って・・・神族があんなに簡単に人に会うんですか?」
「特例中の特例だろう。聖女であるお前がいるから様子を見に来たのかもしれないな。なにしろ、自分達の与えた試練が原因で自己卑下するわ、臆病になるわ、心配するのも当たり前だろう」
セヴェリオに指摘されて、シルヴァーナは視線をそっと彼から逸らす。
「それは・・・」
「直せ、と言っても無理があるんだろうから強制するつもりはないが・・・さっき言ったことは訂正させてもらう。もう猶予はない、今すぐ覚悟だけでも決めてくれ」
「・・・はい」
シルヴァーナは頷く。だが、間髪をいれずにセヴェリオが忠告する。
「言っておくが、覚悟=諦めじゃないからな?」
「・・・う・・・」
言葉を詰まらせたシルヴァーナに、セヴェリオはフッと笑う。
「仕方ないな・・・まぁ、今回はお前だけに背負わせはしないさ。我々2人分の法力を使わないと大法術は発動しないのだからな」
改めて言うが、セヴェリオは超が付くほどの美青年である。いくら姉のおかげで美形に慣れているシルヴァーナでも、その笑顔には心臓が跳ねた。
――― 本当に綺麗よね、この人・・・隣に立っててごめんなさいって謝りたくなるわー・・・。
などと心の中で呟いているのだが、自身も姉のレーティアンヌには劣るものの美少女だということに気づいていない。
「――あ、えっと・・・それで、その大法術ってどんなものなんですか?」
気を取り直して、シルヴァーナはイマイチ理解できていない大法術についてセヴェリオに訊ねる。
「ああ、簡単に言うとお前の浄化の光を広範囲で降らせるような術・・・らしい。私も実際に見たことがないからそれ以上はわからない」
「枢機卿猊下でもわからないことってあるんですね・・・」
それは何気ないシルヴァーナの感想で、しかし、セヴェリオにとっては少しばかり古傷に触れる話題だった。
「・・・私にとってこの世はわからないことだらけだ。法術だって今あるものが神の御業全てではないだろうし、幼い頃からこの大神殿の中で育って、神官になり、枢機卿になったから、他分野のことについてはろくに知らないしな」
セヴェリオが自嘲気味に話すと、シルヴァーナは焦った様子で首を横に振った。
「でもっ、枢機卿猊下は私達を瘴気から守って下さっています」
「――やれやれ、お前に励まされるとはな・・・いつもは逆なんだが」
苦笑いをうかべたセヴェリオは、ポンポンとシルヴァーナの頭を撫でた。
ひたすらまっすぐ“この道”を歩いて来たことに後悔はなかった。他人よりも多く法力を持ち、それを扱う術を学べる環境にあったのだから。
だが、たまに思うのだ。もし、普通の家庭で育っていたのなら、自分はどんな進路を選んだのだろうと。
枢機卿という役職上、打算的なものも含めて味方は多いが、敵も少なからずいる。その中でも口さがない者達がセヴェリオの出生についてあれこれと無遠慮に話題を振ってくる。
そんなストレスが溜まりに溜まって、ティーノルッツヘルトをおちょくって気晴らしするという行動に出たり、銀貨を貯金することに没頭したりするわけだ。
とまあそれは於いておくとして、セヴェリオに頭を撫でられたシルヴァーナはポンと音がしそうな勢いで真っ赤になった。
「その・・・励ましに、なってるかどうか・・・わからないですけど」
「人のことを励ましておいて自己卑下するか・・・まぁ、たいした慰めにはならんだろうが、一応言っておく。――お前は間違いなく聖女だ。法力の量もそうだが、御使い様が直に会いに来られたのだからさすがに自覚もしただろう?」
「は、はい・・・」
「自分が信じられないのなら、御使い様の言葉を・・・そして、私を信じろ。誰が何と言おうとお前は聖女なんだ。良いな?」
「はい・・・わかりました」
シルヴァーナは胸の前で手を組み、しっかりと頷く。
「よし・・・いい子だ」
フッと笑ったセヴェリオは再びシルヴァーナの頭を撫でる。
シルヴァーナのために色々としてくれるそんな彼に、自然と惹かれているのは自覚していたが、自分なんかがつりあうわけがないからと“その感情”にフタをした。
――― 勘違いしたらダメだわ・・・私が聖女でなかったら会うこともできないような雲の上の人なんだから・・・。




