焚き火の夜の鼻歌の衝撃
見張りをしてくれていたギルバートとミーナに素直に感謝を伝え、簡単な夜食を済ませた後、四人はそれぞれ少し離れた場所に個別の防護結界『魔力繭』を展開した。
魔力繭は、外界の攻撃や冷気から身体を守る個人用の防護膜である。横たわった場所で纏っていた魔力衣を解くと、生まれたままの全裸となった素肌のすぐ周囲を、薄桃色の半透明な膜がすっぽりと優しく包み込んだ。
外界の音も視線も完全に遮断する防音性の高い一人きりの密室。だが、その完璧な静寂の中に横たわると、脳裏に焼き付いて離れないのは昼間の小川での鮮烈なハプニングだった。
昨夜の自慰と交接で愛液や精液が固まった不快感を洗い流そうと、胸の上まで小川に浸かり、両足をゆったりと広げて水中で指先を使って秘所を洗っていた自分。その真下の水底から突如として姿を現したルカと、至近距離での直視。そして立ち上がったルカの股間から突き出された、血管を浮き立たせて激しく昂ぶった男としての象徴。
そしてそれ以上に、昨夜のあの崖下で、全魔力を貪り吸い尽くされていく感覚そのものが、葵の意識の底に焼き付いて離れなかった。
ルカの熱い肉体が、自分の身体を根こそぎ抱きすくめていく、あの圧倒的な重み。
あたたかな身体の奥深くまで、幾度も、幾度も、容赦なく押し寄せてくる、あの灼熱のような情念の感触。
吸い取られていく魔力の残滓が、身体の内側でまだ微かに疼いていて、そのたびに葵の背筋は細く、細く、震えてしまう。
(私……拓海を一心に愛しているはずなのに……どうしてこんなに身体が火照っちゃうの……っ)
胸の奥で、拓海の輪郭を必死に思い浮かべる。
拓海が笑うときの、あの少し不器用な口元。拓海が自分に向ける、あのどこか不条理なまでの慈愛。
それらを思い浮かべるたびに、愛している、愛している、愛している、と心の中で繰り返す。
だがその思いとは裏腹に、身体だけが正直に、たしかに、昨夜のルカの名を求めて熱を帯びていく。
一人きりの魔力繭の中で、その記憶を思い出せば思い出すほど、豊かな胸の可憐な頂が、キュンと小さく熱を帯びていく。
意識の届かないところで勝手に熱く収縮し、小さく尖る。
その僅かな変化が、葵の身体の中で、じわじわと下腹部を甘い疼きで包み込んでいく。
自分を責めながらも疼きは抑えきれず、葵は魔力繭の中で、全裸の白磁のような太ももの内側を、ゆっくりと見下ろしていた。
身体の奥から溢れ出た情愛の火照りが、太ももの内側を伝って、ゆっくりと滑り落ちていく。
その透明な雫が、素肌を直接包み込む魔力繭の内壁に、密やかに湿った痕跡を残していく。
魔力繭の内壁は、葵の全身を包み込むように、あたたかく、やわらかく、そして湿り気を帯びた膜のように葵の裸身を包み込んでいる。
そこに雫が触れるたびに、魔力繭は微かに葵の体温に合わせて脈打つように、その内側で光の粒を揺らしていた。
葵は唇を噛み締めながら、熱を帯びた指先を、自らの可憐な肌へとそっと擦り付ける。
指先が触れた瞬間、葵の身体は小さく弾み、噛み締めた唇の隙間から小さな息が漏れた。
その指先が、可憐な肌の先端をなぞり、撫で、円を描くようにゆっくりと滑る。
そのたびに、葵の身体は細く魔力繭の中で震えていく。
魔力繭の内壁が、葵の震えに合わせて内側から身体を柔らかく受け止めていた。
(い、いけない……っ、拓海を、拓海を想って……っ)
指先は必死に、拓海を想おうとする。
だが、指先が自らの身体を撫でるたびに脳裏に蘇るのは、拓海の面影ではなく、昨夜の崖下のあの熱い肉体の重み。
あの、身体の奥深くまで満たされていく灼熱の情念。
全魔力を吸い尽くされていく、あの意識を奪われるような感覚だった。
その記憶が、葵の身体を、指先を、容赦なく昨夜の記憶へと引き戻していく。
(どうして……どうして、こんなにも……っ)
葵は唇を噛み締めたまま、目を閉じる。
瞼の裏に、拓海の輪郭が浮かぶ。
拓海が自分に向ける慈愛。拓海が自分を抱き締める温もり。
愛している。拓海を、一心に愛している。
その想いは胸の奥で確かに燃えている。
だが、その燃える想いの中心で、身体だけがまだ昨夜の灼熱を求めていた。
指先が、可憐な肌をもう一度なぞる。
その瞬間、葵の身体は小さく弾み、魔力繭の中で細く震える。
その震えが魔力繭の内壁に伝わり、内壁を密やかに湿らせていく。
溢れる火照りの雫が、内壁を伝ってゆっくりと滑り落ちるたび、葵の身体にじわじわと甘い疼きが広がっていく。
(あっ……っ、い、いけない……っ)
葵は唇を噛み締めたまま、小さな息を漏らす。
指先が、自らの身体を必死に撫でる。
そのたびに葵の身体は細く震え、魔力繭の内壁を密やかに脈打たせる。
包み込む魔力繭が、葵の震えに合わせて内側から温かく身体を抱きすくめていく。
(拓海を……拓海を、愛してる……っ、なのに……なのに……っ)
「ん……っ……拓海ぃ……っ……!」
葵は唇を噛み締めたまま、目を閉じる。
瞼の裏に浮かぶ拓海の面影にすがりながらも、重なる身体の火照りと昂ぶりを抑えきれない。
指先が可憐な肌を優しく愛おしむように撫で進めるたび、甘い波が全身を駆け巡っていく。
あたたかく柔らかい魔力繭に包まれながら、葵の身体は細く震え、やがてじわじわと押し寄せる甘く切ない胸の高鳴りの果てへと、密やかに導かれていった。
一方、少し離れた場所に形成された紺青色の魔力繭の中でも、ルカが全裸で横たわり、激しい情脈の昂ぶりに身を悶えさせていた。
完璧な防音の結界の中で、自分の荒い息遣いだけが途切れ途切れに響く。
真昼の小川で目撃してしまった、胸の上まで水に浸かりながら両足をゆったりと開き、指先で秘所を洗っていた葵の無防備で艶やかな全裸姿。真昼の太陽光に透ける白磁の肌と、しっとりと開かれた密門の美しい輪郭。そして手に残る昨夜の葵の滑らかな腰つきと、吸い付くように締め付けてきた蜜の触感。
(葵……っ。僕は……僕はなんて浅ましい男なんだ……っ)
いくら頭を振って罪悪感を抱こうとも、男としての本能が暴走し、股間の象徴は太くカチカチに硬く昂ぶって収まらない。ルカは自責の念に苦しみながらも、大きな手でその熱く太い猛りを強く握り締めた。
手のひらでしごき上げるたび、先端からじわりと溢れ出す我慢汁が滑りとなり、激しい摩擦の熱が腰を突き動かす。荒い吐息を漏らしながら、ルカは夢中で手を上下させ、やがて抑えきれない激しい熱脈とともに、お腹の上へと熱い精液を何度も勢いよく散らし、荒い息を吐いて脱力した。
やがて見張り交代の刻限を迎え、二人はそれぞれの魔力繭を解き、魔力衣を素肌の上に身に纏って外へと出た。
見張りを終えたギルバートとミーナが労いの言葉をかけ、それぞれの魔力繭を展開して眠りにつくと、静まり返った広場の焚き火の前には、葵とルカの二人だけが残された。
ぱちぱちと小さな音を立てて燃える焚き火。
焚き火を挟んで、正面には見張りのための平らな岩と大きな倒木が向かい合わせに置かれていた。
先ほどまで各自の魔力繭の中で互いを深く想って自慰に耽っていた強烈な恥ずかしさと熱気。気恥ずかしくて耐えられない葵は、正面の平らな岩へと着席した。
ルカもまた、焚き火を挟んだ対面の倒木の上に腰を下ろす。
焚き火の炎を挟んで正面に向かい合った二人。だが、炎の向こう側にあるお互いの顔や交わる視線は、赤々と揺らめく光に照らされて一層くっきりと浮かび上がる。
正面に座ったからこそ、互いの火照った頬や赤らんだ表情が隠しようもなく直視され、言葉の途切れた夜気の中に甘く不自然な緊張感が満ちていった。
胸のときめきと罪悪感の交錯に耐えかね、ルカは心を静めるように夜空を見上げると、くちびるから小さく静かな鼻歌を漏らした。
夜の静寂の中に溶けていく、優しく切ないその歌。
その鼻歌が耳に届いた瞬間――葵の身体に電撃のような衝撃が走り、息が止まった。
「……っ!? ルカ……いま、その歌……っ!?」
立ち上がり、声を震わせる葵。目からボロボロと大粒の涙が溢れ出し、白磁の頬を濡らしていく。
それは、ただの歌ではなかった。
かつて日本にいた頃、葵が何よりも愛していた最愛の恋人・橘拓海がギターを奏でながら、アパートの狭い六畳間の部屋で、葵と2人で作り、そして歌ってくれた、世界でたった一つの思い出の曲、その歌詞そのものだったのだ。
「葵……!? どうしたんだい、急に泣き出したりして……っ!」
突然涙を流して取り乱す葵に、対面に座っていたルカも慌てて立ち上がり、焚き火を回り込んで葵の元へ駆け寄る。
「教えて、ルカ……っ! どうしてその歌を知っているの!? その歌の歌詞は……私の大切な人、拓海と私が2人でだけで作った大切な歌なのよ……っ!」
胸元を掴みんばかりの勢いで必死に問い詰める葵。
「拓海……? 君の大切な人が作った……?」
「この歌はこの世界ではみんな歌ってる歌と同じだよ?」
「歌詞がっ歌詞が拓海がつくた歌詞そのものなのよ」
何を言ってるのか?わからないといった様子でのルカ。
「この歌は……僕の家では子守唄なんだ。僕の母が、僕を寝かしつける時に何度も優しく歌ってくれた……ただの子守歌……」
「え……っ……? ルカの……おかあさんが……この歌を……!?」
異世界の地で奇跡のように引き合わされた二人の歌。
途方もない運命の渦と衝撃が、二人の心を強く揺さぶり、夜の広場に静かに響き渡った。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
疲弊の中での野営、そして焚き火を挟んだ夜の見張りの中で、二人の運命を繋ぐ決定的な手がかりである『伝承歌』の真実が明かされました。
読者の皆様にこの切なく甘い運命の奇跡を感じていただけていましたら幸いです。
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