前へ目次 次へ PR 87/107 空に自由あれど 「写真の中へ」シリーズです。 4千メートルの岩山に立てば 頭から空に落ちていくようだ 石の部屋を出た若い僧は 空を眺めながら海に潜る 見たことのない海に潜る そこは魚の棲まない海 どうにか息ができる海 底の知れない青の中 畏れながら 震えながら 赤い僧衣が沈んでゆく どこまでも自由な空へ おそろしく自由な空へ やがて空が水色になると 人肌の塒(ねぐら)が恋しくなり 不自由が恋しくなって 白い僧房へと引き返す 薄暗い朝の炊事場で バター茶を温め 小カブを刻んで 麬(ふすま)をこねる どこからか 読経が流れてきて また同じ一日が 始まった 小窓から見えるのは 白い雲を浮かべた いつもの空だ