第7章 GⅢ初制覇と、変わり始めた未来
――12月、阪神競馬場。
寒風吹きすさぶ中で行われたGⅢ「チャレンジカップ」。
登録馬にはGⅠ常連もちらほら並ぶ中、ステイゴナファイトの名前はやはり“伏兵扱い”だった。
新聞の見出しにはこうあった。
「社畜馬ふたたび 夢の再挑戦」
「勝ち目は薄い、だが物語がある」
単勝は20.8倍、7番人気。
だが、パドック周辺のファンの空気は、以前とまるで違っていた。
「ファイト、がんばれよ……!」
「俺も月曜からまた走るから、頼むぞ」
「勝てなくてもいい。でも見せてくれ、お前の走りを!」
その声援の中には、スーツ姿のシルクステート社員たちの姿もあった。
課長も、広報部長も、総務の佐伯も、誰もがスマホ越しにステイゴナファイトを追っていた。
ゲートが開いた。
ファイトは、いつものように後方から。
しかし鞍上・笠原の手綱は迷いがなかった。
――3コーナー。
前に壁、外も狭い。進路がない。
実況:「さあ直線コース!逃げるのはサンライズエンブレム!2番手キタサンヴォヤージュ!」
(詰まった……!)
一瞬、誰もがそう思った。
だがその瞬間――ほんの僅かに開いた内のスペースに、飛び込んだ。
実況:「来たぞ!ステイゴナファイト!内から一気に伸びてきたァァァァッ!!」
馬体を沈め、地を這うような走り。
最後の100メートルで完全に抜け出し――
1着!
加賀谷の目に、自然と涙が浮かんでいた。
「ステイゴナファイト、重賞初制覇です!」
実況が叫ぶなか、スタンドのシルクステート社員たちの間で拍手と涙が交錯した。
「勝った……本当に勝ったんだ」
「GⅢだぞ……重賞だぞ……俺らの馬が……」
「お荷物って言われてたあの馬が……」
その場にいた誰もが、“奇跡”ではなく“証明”を感じていた。
この馬は、夢物語のマスコットじゃない。
実力でここまでたどり着いた、本物のヒーローだ。
社内では、その夜、臨時の報告会が開かれた。
プレゼンの冒頭、加賀谷は静かに言った。
「この馬は、社員の気持ちで走っていました。
そして社員の気持ちが、この馬を強くしました」
沈黙が流れ、やがて拍手が広がった。
社長がひと言、呟いた。
「……誇れるな。うちの、馬も、人間も」
翌週から、ステイゴナファイトには社内で正式なキャラクター化企画が立ち上がった。
広報によるX(旧Twitter)運営、グッズ展開、さらには小学校への出前授業も始まった。
「がんばるって、カッコいいね」
「勝てなくても、最後まで走ればヒーローになれる」
子どもたちの目に映るのは、栄光の名馬ではなく、地味で、頑固で、諦めない馬の姿だった。
そして加賀谷は、もうひとつの資料を作成していた。
ファイル名は「夢の先へ_GⅠ挑戦プラン」。
そこには、こう書かれていた。
『最終目標:GⅠ出走。そして社内全員で応援に行く』
夢が現実になった今、もう一歩先を目指すことに迷いはなかった。
Stay Gonna Fight
地味な馬が、会社の未来を変えた。
次は――“夢の頂点”を見に行こう。




