第9章 GⅡの壁、そして“2着の価値”
――3月。中山競馬場。
ファンの期待が高まる中、**GⅡ「中山記念」**にステイゴナファイトは出走した。
調教後、加賀谷は調教師・森下と並んで馬房を覗いた。
「GⅡですよ、森下さん。ここで好走できれば、いよいよ本物です」
「わかってる。でもここからは甘くねぇ。“本気でGⅠを獲りにくる馬たち”の前哨戦だ」
出走馬には、前走天皇賞3着のターフグロリアス、宝塚記念4着の重戦車オーセンティアなど、GⅠ好走馬がズラリと揃う。
ファイトの単勝オッズは、13.2倍、6番人気。
“人気薄の星”から、“伏兵”と呼ばれるようになっていた。
――ゲートが開いた。
ステイゴナファイトは、これまでよりやや前目のポジションを取った。
ペースはやや遅く、4番手内々で脚を溜めていく。
実況:「逃げるのはワンダークルーズ、2番手にターフグロリアス、その後ろにステイゴナファイト……!」
3コーナー。進路を探すファイトに、後続が殺到する。
しかし、笠原騎手は落ち着いていた。
1年の付き合いがもたらした信頼のタイミングで、ファイトはスッと外へ持ち出された。
――直線。
ファストネス、ターフグロリアス、そしてステイゴナファイト。
「前は完全に壁、だが外からファイト、ファイト、ファイト来たァ!!」
ゴール前、僅かに届かなかった。
勝ったのはターフグロリアス。
ステイゴナファイトは2着――ハナ差だった。
悔しさより、拍手が湧いた。
スタンドから、実況席から、SNSから。
「これ、普通にGⅠ級の走りじゃないか……?」
「また勝てなかったけど、こんなに泣ける2着ある?」
「ステイゴナファイト、お前はもうただのアイドル馬じゃない」
加賀谷は、涙をこらえながらターフを見つめていた。
「……十分だよ。勝てなかったけど、“GⅠへの切符”は見えた」
――レース翌日。
社内には、あるニュースが飛び込んできた。
【JRA:ステイゴナファイト GⅠ「安田記念」優先出走権獲得】
「ついに……ついに来たな」
「GⅠに、うちの馬が……!」
喜びが社内を駆け抜けたその日、営業会議の冒頭で部長がこう口にした。
「我が社のブランド力を、ファイトは超えてくれた。
次は我々が、あの馬に恥じぬ会社であることを、示そう」
誰かの夢に乗っかって終わるのではなく、
“ともに未来を作るパートナー”として、ファイトと向き合う覚悟。
その週、加賀谷は森下厩舎を訪れた。
「次のGⅡ……もう一戦、叩きたいんです。GⅠの前に」
「……本気で行く気か。疲労も考えろよ」
「わかってます。でも、“勝てない馬”のままGⅠには行けない。
たとえ僅かでも、何かを掴んでからじゃないと……」
森下は頷いた。
「よし、ならGⅡ読売マイラーズもう一丁だ。
安田記念前哨戦、“読売マイラーズカップ”――相手はまた手強いぞ」
Stay Gonna Fight
それは、負け続けた馬が手にした“価値ある2着”
そして、未来のための挑戦はまだ、終わらない。




