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第九魔界 不安を抱いて光の中へと…… 後編

「おかえり。ちょっと疲れちゃったかな?この思考を繋ぐのって術をかける側は大した事無いんだけど、かけられた方のエネルギーの消費が凄いんだよねぇ!」


「あの・・・それは思考を繋ぐ前に言って貰った方が・・・」


「いやぁ~。聞かれなかったから知っているもんだと。」


「・・・。」


「まぁ何はともあれ、お友達とも話が出来たみたいだし良かった良かった。それじゃ出発しようかね!」


「ちょ・・・まだ疲れが残ってて・・・もう少し休ませて下さい。」


「あまり時間が無いんだけど、もう少しだけだよ。早くしないと国守警備が来ちゃうよ!」


(ザルムさんって優しいのかそうじゃないのか分からないなぁ・・・でも本当にマホとチサに会って話が出来て良かった。これから不安だけど、何か勇気が湧いてきた!きっと何処に居てもこの魔法石があれば、いつだってマホとチサと繋がっているんだもんね。)


心でマホとチサの事を思っているとユウナの気持ちを悟ったかの様に魔法石が胸元で光り輝いた。その光は近くにいたザルムにも分かるほどだったが、光を見た瞬間ザルムは驚いた。そしてユウナに聞いた。


「こ、これは!なぜ君がコレを持っているんだ!何処で手に入れたんだ?」


「えっ、コレは友達が私の誕生日にってプレゼントしてくれたんです。確かに真っ白な魔法石なんて珍しいですよね。」


「珍しいって物じゃないぞ!僕の目に狂いがなければコレは浄澪石じょれいせき!!さっき話した『浄澪の塔』にある浄澪の光を浴び続けた特別な魔法石!これこそが浄澪石だ!!」


「えぇぇ!!そんな凄い物なんですかコレ!!」


(いくら何でも高価過ぎるよぉ~~~!!チサ一体どうやってコレを手に入れたんだろう??しかもこの魔法石と一緒に入ってた小さい魔法石もきっと浄澪石って事になるよね!!もう~~~頭がパンクしちゃうよぉ~~~!!)


ユウナは頭から湯気を出しながら目を回して混乱していた。だが、ザルムは嬉しそうに言った。


「これでお城に行けば人間界まで一直線で行けるぞ!正直、浄澪石を見つけるのにどれぐらい掛かってしまうのか分からなかったし、もしくわ見つけられるかも不安だった。まさか君が持っていたんて!!」


思ってもみないところから浄澪石を見つけられた喜びで取り乱していたザルムだったが、いよいよ人間界にユウナを送り届ける時がきた。


「ユウナ・・・それじゃ人間界に向かう為にお城まで行こうか!!」


「はい!よろしくお願いします!!」


「よし!まずは君が浄化魔法を浴びても大丈夫なように魔力を食らう『魔獣』を召喚する。」


ザルムは床に片膝を付け指で魔法陣を浮かび上がらせた。そして呪文を唱え始めると魔法陣は青く光り始め、『魔獣』の姿が浮かび上がってきた。少し怖がっていたユウナが息を飲んだ次の瞬間、光がユウナに向かってきた。


「きゃあぁぁぁ!!!」


不意に目を閉じてしまったユウナには何が起きたのか分からなかった。


「ユウナ!君の右肩に乗っている『魔獣』が君が人間界まで行く間、ずっと浄化魔法を喰らい続けて君を守ってくれる!」


ユウナは右肩に少しの重みを感じた。だが『魔獣』というからにはどんな恐ろしい姿をしているのかユウナは怖くてなかなか目を開けられずにいた。


(怖いよぉ・・・魔力を食らう『魔獣』っていうくらいだから鋭い牙がたくさんあるんだろうなぁ・・・人間界に行く前に私が食べられちゃうかも・・・でも、マホやチサの為にも私頑張らないと・・・)


そう思いながら勇気を振り絞り、ゆっくりと『魔獣』の方に顔を向け目を開けた。


「クルゥ~~~。」


「か、か、可愛い~~~!!」


その『魔獣』の姿は全身白い毛で覆われてフワフワしていて、目がクリクリで大きな耳が垂れていた。


「こんな可愛い『魔獣』もいるんですね!!」


「可愛いだろ!一言で『魔獣』って言っても攻撃だけじゃなく特性に合わせて召喚するから、大きさも姿も様々なんだよな。さっきも言ったけど、そいつは『喰魔飢しょくまき』っていう魔力を喰らい続ける『魔獣』で普通は強力な結界を破る時などに召喚する。姿は可愛いけど『喰魔飢』一匹で悪魔五、六匹の魔力を空っぽにしちゃうからね。ちなみに今の君は魔力を持っていないから肩に乗せても平気だけど僕がそんな事をしたら一瞬で屍になっちゃうからね!あと、その『魔獣』命令には従順だけど人に懐くって事はないからね!!」


ザルムが一生懸命説明している後ろで


「クルル~こっちおいでぇ~。」


「クルゥ~ル~クゥ~~♪」


「・・・懐いてる!!・・・しかもすでに名前までつけてる!!」


ユウナは召喚獣を手に入れた!


「それは僕の召喚獣だ!!」


とにかく色々あったが、これでユウナは安心して浄化魔法を気にせずに移動が出来るようになった。誰にも気付かれる事なく病院を抜け出すと、まだ空には星が消えずに残っていた。空気は澄んでいてとても気持ちいい夜明け前だったが、いつ何処で誰に見つかるか分からない状態でそんな事を楽しむ余裕などなかったが、ザルムの案内のおかげでお城までの道のりで誰にも会わず、誰にも気付かれる事無く辿り着く事が出来た。二人はお城の入口である大きな門の前で立ち止まった。


「何とかここまでは何事も無く来られて良かった。あと少しだから頑張るんだぞユウナ!!」


「はい!でも、どうやってこの門を通るんでしょうか?中の人に開けて貰うんでしょうか?」


「あ、それなら心配要らない。実はこの門には小さなドアがついていて警備兵が一人づつ交代で見張っているんだ。だからここから先、ユウナにはコレを身に付けて貰う!」


そう言うとザルムは魔法でユウナを警備兵に変えた。


「よし!これで僕の後についてくれば大丈夫!でも、絶対に声を出したらダメだからね!」


頷くユウナ。ザルムは門についている小さなドアまで行き、二回ノックした。するとドアの向こうから声がした。


「どなたでしょうか?」


「『聖魔』ザルムだ。朝早くに申し訳ないが開けて貰えるか?」


「ザルム様!!只今開けます!!」


鍵の開く音がしてドアから警備兵が出てきた。そしてザルムの顔を見て確認すると


「確かにザルム様ですね。失礼ですが、一応規則なので身分証を見せて頂いても宜しいでしょうか?」


ザルムは焦った。なぜなら今のザルムは身分証を無くしているからである。ユウナにも『聖魔』である事を証明しようとしたのだが、お城からユウナが居た病院までの道のりで落としてしまっていたのだった。


「僕がお城から直々に与えられた『聖魔』だって事は分かっているよね?じゃあ身分証だなんてそんな分かりきった事をしなくても大丈夫なんじゃないの?」


「それはそうなんですが・・・一応規則なので・・・大変申し訳ないですがご協力お願いします。」


「君は僕の事を見るのは初めてじゃないよね?『聖魔』だって分かっているんだから良いんじゃないの?知らない人じゃないんだから良いじゃん!頼むからちょっと通してよ!いつもちゃんと身分証出して通ているんだから一回くらい顔パスで通してくれても良いじゃん!」


「いや・・・そうなんですが・・・規則なので私が勝手に判断する事は出来ないんですよ。お願いですから身分証を見せて下さい。」


「規則!規則!って規則なんて破る為にあるようなものじゃん!逆にこっちがお願いしますって感じだよ!何、土下座でもしなきゃ通してくれないの?」


「土下座なんて滅相もありません。ただ身分証を見せて頂けたらすぐにでも中に入って頂けますので。」


「そんなに身分証が見たいの?じゃあさ、身分証よりも凄いもの見せてあげるよ!召喚獣!!召喚獣見せるからさ!この城なんて一撃のやつを!!壊しちゃうよ?本当に壊しちゃうよ?」


「そんな事は止めて下さい!召喚獣なんて見たくないです!出さないで下さい!!」


「召喚獣なんてだと!!俺の召喚獣に謝れ!今すぐ出してやるから謝れ!!」


ザルムと警備兵が揉めている間、ユウナは思った。


(ザルムさんって本当に良い人なのかな・・・?身分証持ってないから必死になるのは分かるんだけど話が凄くズレてるような気が・・・身分証の代わりに召喚獣って・・・そんなに簡単に召喚獣って出しちゃって良いものなのかな?しかもお城を壊そうとしているし・・・)


困った感じでユウナが不意に目を泳がせてると何かに気付いた。ザルムのフードの中に黒く四角い物が入っていた。ザルムとの身長差があった為、ユウナは飛び上がってフードの中にある黒く四角い物を取ったが、フードに引っ掛かってしまいぶら下がった状態になった。首を絞められたザルムは声にならない声を上げた。


「#$%&#$%&!!」


ザルムが振り返った反動でユウナは引っ掛かりが取れ、黒く四角い物を手に入れた。


「何するんだ!!もう少しで窒息してしまうところだったじゃないか!!」


「ザルムさん、コレ身分証じゃないんですか?」


ユウナは耳元で小声で話した。一瞬、動きが止まったがいきなりザルムは喜び始めた。


「おぉ!!コレは俺のミ~ブン~ショ~!!やっと見つけたよぉ!これで俺が本当に『聖魔』だって証明出来るぞ!!イェ~イ!!」


発狂したの間違いだった。呆気に取られたような表情を浮かべてたユウナと警備兵に気付くと我に返ったようにつくろうザルムだった。


「コホンッ・・・これが身分証だ。確認出来たかな!」


「あ、はい。確認出来ました。ありがとうございました!」


「ちなみに僕は君がちゃんと警備の任務を果たしているか試していただけなんだよ!どんなに顔見知りでもちゃんと確認する君の姿勢は大したものですね。いやぁ~立派です!!それじゃ中に入らせて貰うからね!」


そんな苦しい言い訳をしながらユウナとザルムは何とかお城の中に入る事が出来た。『時空の扉』があるのは地下の為、お城の奥へと進んでいく二人だが不思議な事に門のところから地下階段を降りている間も警備兵と会う事はなかった。疑問に思ったユウナは質問した。


「お城の中ってこんなに人が居ないものなんですか?」


「僕も不思議には思っていたよ。だが、仮にも王が居る場所がこんなにも手薄なのは奇妙だなぁ。でも、今の僕達にとっては好都合でしかない。この隙に早く人間界に行こう!!」


「はい・・・」


何か嫌な胸騒ぎがしていた。確かに警備兵に会わないという事はスムーズにことが運ぶということだから喜ぶべきなのかも知れないが、ユウナは不安そうな表情を浮かべたままだった。ザルムはそんな気持ちを察したように話した。


「不安かい?」


「・・・少し・・・不安です。」


「ジンマカイの事は僕に任せて君は何も心配せずに人間界で待っててよ。一応、国家公認の称号を持っているだけの力はあるからね。どんなやつがジンマカイを襲ってきても負けたりなんかしないよ。例え君を狙っていた悪魔でもね!」


「!!」


ユウナは驚きを隠せなかった。ユウナ、マホ、チサの三人しか知らない事なのになぜザルムは知っていたのだろう。ユウナは恐る恐る聞いた。


「・・・知っていたんですか?」


「あんな強大な魔力を持っていた悪魔なんだから、称号を持っている者なら感じ取れただろうね。でも良くあんなヤツと戦って無事だったね。しかも追い返しちゃうなんて大したもんだよ!」


「私は何も・・・」


「まぁとにかく僕を信じて人間界で待っててよ!今なら身分証もあるし!!」


ユウナは少し安心したように笑った。確かに皇魔の力は強大だったが、目の前に居る称号を持つ者がこのジンマカイの平和を守っていたのは事実である。その証拠に皇魔に遭遇するまで悪魔という存在すら架空のものだと認識するほど、その脅威にさらされる事は無かった。つまり悪魔の力がどれほど強大であろうともジンマカイの平和は保っていけるという事になる。


「ジンマカイはザルムさんにお任せします!!」


「りょ~かい!!」


そんな話をしている間に『時空の扉』がある部屋の前までやってきた。


「それじゃこの部屋の中にある『時空の扉』を抜ければ人間界だからね。あと向こうで君の面倒を見てくれるように頼んでおいた人がいるからその人のところをまず尋ねると良いよ。」


ザルムはユウナに小さなメモを渡した。そのメモをユウナは受け取るとポケットに入れた。


「おっと!忘れるところだった!そろそろ君の服を人間界でも違和感が無い感じにしてあげないとね。警備兵のままだと怪しまれちゃうからね。」


そう言うと手をかざしてユウナの服装を変えた。その服装を自分で見たユウナは恥ずかしそうに少し頬を赤らめた。


「何か・・・こんな服着るの初めてなので大丈夫でしょうか?」


「うん!大丈夫!似合ってるよ。」


「ありがとうございます。」


「それじゃ浄澪石を出して両手で握りしめながら人間界まで行きたいと願いながら通ってごらん。」


ユウナは浄澪石を服の中から出すと目を閉じ両手で握りしめた。そしてユウナは心で思った。


(人間界までお願いします!)


すると両手の中の浄澪石が光り始めた。ゆっくりと『時空の扉』に向かって歩きだしたユウナだったが不意に立ち止まりザルムの方に振り向いて言った。


「すみませんザルムさん。最後に一つだけ聞いても良いでしょうか?」


「良いよ!」


「バルテって人の事、知っていませんか?」


「いや・・・聞いた事無いね。知り合いなの?」


「いいえ、知り合いってほどじゃないんです。すみません急に変な事聞いちゃって・・・」


「いや。大丈夫だよ。それじゃ気を付けて行って来るんだよ。」


「本当に色々ありがとうございました。もし私に出来る事があったら何でも言って下さいね!それじゃ行ってきます!!」


ユウナは浄澪石の光が差し込んでいる『時空の扉』に飛び込んだ。

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