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第21話 儀式と証

時間開きましたが、楽しんで書いてます。

読んでいただきありがとうございます。

 車内では、凛とした空気で張りつめていた。慎は、ドアの外を眺め後ろに風景が流れていく事を、ただの映像としてだけ認識していた。左衛門の居宅に到着し、そして静かに左衛門は口を開いた。

「慎・・・式だが、非常に急ではあるが今晩執り行うことになった。いいな?」

 ちらりと祖父を見やると、左衛門は不敵に笑い続けた。

「身を清め、服を着替えなさい。場所は我が家から徒歩にて移動する。その際、人目につかぬよう十分に注意するように。」

 慎は静かに頷き、その時になるのを待った。時を見計らい慎は母屋の奥に赴き勝手口を出ると、右手にある井戸の前で足を止めた。迷うことなく服を脱ぎ、傍にある籠の中に服を入れた。そして、静かに井戸の水を汲み、肩から水を掛け、もう一度水を汲み直し頭から水をかぶった。大きく息を吸い込み、ゆっくりと長く息を吐く。

 はぁ~~~~~~~・・・・息を吐き終え、黒色の衣冠(いかん)を身に着ける。神道での神事でよく見かける正装だ。着替え終わると、言葉を発さず歩み出す。ゆっくりと摺り足で進んでいく。母屋の裏にある小さな道場へ向かい道場の入り口で会釈をし、足を踏み入れる。衣擦れと摺り足の音だけが道場に響き、月明かりが道場に差し込んでいた。正面にある神棚の前へ静かに足を運び、敬礼と最敬礼し、神棚を祀っている真下の引き戸をゆっくりと開くと階段があった。静かに一段一段上り、先ほどの道場とほぼ同じ広さの空間に到着する。

 同じように会釈をして、空間に足を踏み入れ歩を進める。慎のまっすぐな視線の正面には、純白の布でくるまれた太刀を恭(うやうや)しく掲げている月明かりに照らされた左衛門がいた。左衛門の正面に立ち、敬礼をしゆっくりと頭を上げる。二人は視線を合わせることなどせず、二人は同じく祀られた神棚に向かい直し、最敬礼をした。

「赤坂慎。ここに成人の証として、神々の力を顕現せし太刀をそなたに与えん。この太刀を受け取り、義務を果さんこと切に願う。責務・義務を受け入れる覚悟が整えば、受け取り給え。」

 左衛門からの口上を目を閉じ胸の内で反芻し、ゆっくり目を開き二人は向かい合い、布の中の太刀に頭を下げながら太刀を受け取った。

 受け取ったのを確認し、左衛門が静かに声を発した。

「赤坂慎。これにより、成人の証となる神器は貴殿の元へと渡ることとなった。では神前にて、我、赤坂左衛門とともに式を執り行う。太刀を抜き給え。」


 慎は、鍔を切りゆっくりと鞘から刃を抜く。月明かりが刀身に反射し、美しい光が空間に広がった。太刀を右手だけで、天にまっすぐに突き上げ切っ先を左衛門へと向けた。左衛門は眉ひとつ動かさず、右足を一歩前へ進め重心を落とした。

「では、参る。」

 その言葉を合図に、左衛門が切っ先に突っ込んでいく。慎は何事もないかのように切っ先を左衛門に向けたままだった。このままでは、左衛門の胸元に刺さりかねないが、そうはならなかった。すんでの間合いで突き出した右袖を太刀に巻きつかせしっかりと握った。左衛門は、大きく息を吸い静かに息を吐き、「さぁ、太刀を引き給え。」

 その言葉に慎は頷き、ゆっくりと太刀を引く左衛門の眉が少し動くのが見え、太刀の引きを止る。刀身を伝わる鮮血が鍔から滴り落ちる。慎は、左手を刀身に伸ばし、自分の手のひらを刃にあて、手を滑らせ血が滲み、左衛門の血と混ざり滴り落ちた。滴り落ちた二人の血は床に広がるでもなく、床に吸い尽くされるように消えていった。その様子を見届けた二人は手を離し、刀身についていた鮮血も消えていることを確認し、鞘に納めた。

「血の引き継ぎをもって、我・赤坂慎の成人の証とする。我らが神よ。見届けていただきありがとうございます。」

 頭を下げ左衛門とともに後方に下がり、深く頭を下げ部屋を後にした。先ほどついた刀の傷は、既になおりつつあり、これは祖父左衛門も同様だった。道場を後にした二人は、母屋に戻り服を着替えはじめる。左衛門の衣冠の袖が太刀で破れ、血の跡も見える。着替え終わった二人は、座卓でほうじ茶を口にしていた。そして深呼吸し、

「おわったぁ~!」

 慎は、体の後ろに両手を伸ばし、体を反るようにして天井を眺めた。

「でも、おもったよりすんなり終わったじゃろ?これで、この家の正統な後継ぎという事になる。」

「でもさぁ、なんで親父じゃないの?普通こういうのって子がなるもんだろ?なら親父じゃんか。」

 きょとんとした祖父の顔をみて、なんかおかしなこと俺言ったか?などと思っていると、

「そういえば、言ってなかったな。あいつも言っておらんようだし、これを機会に儂が教えてやろう。あいつは、赤坂家の血を引いておらんのだよ。養子ってやつじゃな。お前の母親が、分家の血筋なので、血の濃さでお前になるのじゃよ。ちなみに、血が濃くとも治癒能力が発現しないと後継者とは見なされないのだ。だから、お前は、正統な後継者となったのだ。ちなみに、お前に発現せずに分家の子に発現していた場合には、本家で養子として、後継者とするようになっていただろうな。」

 ん?親父が養子?初めて聞いたな・・・そりゃ言いにくいこともあるだろうから、気にはすまい。親父であることには違いないのだから、しかし、あんだけ強いのに後継者になれないってのは、居心地悪かったんじゃないかな・・・逆に心配してしまう。

「あ奴に、養子だった事を伝えたのはお前と同じく十九歳の時じゃった。うすうす分かってはいたようだったから、あまりショックではなかったらしい。逆に、育ててくれてありがとうと頭を下げられて、思わず涙がこぼれてしまったわ。ワハハ。」そう言いながら、その時を思いだしたのか、瞳に涙が溜まっていた。きっと表現しきれないほど嬉しかったのだろう。


「お前の父を養子にしたのは、まだ幼く1歳の時だったが、子供のいなかった儂は、養子を授かるため施設で面談を繰り返していると、子供たちの中で、突き刺すような視線を感じるようなった。一瞬何かに狙われたのかとも思えるほどの力を感じたのだが、施設の中でそんな輩はいなかった。だが、間違いなく施設の中に視線の持ち主はいると思い、試しに殺気を放ってみると、その場にいた赤子や子供たちは泣きはじめたのだが、一人だけ体を震わせながらも、泣かずにじっと見つめてきた子がいた。それがお前の父親だ。」

「へぇ・・・すごいね。爺さんの殺気だろ?本気じゃないにしても、その圧力によく耐えたね。俺、小さいときなにが起こったのか分からず、泣いてたよ?」

 祖父は懐かしそうに笑いながら

「そうだったな。お前は、少し気を充(あ)てると泣いていたな。あの泣き虫がこんなに大きく強くなって・・・おっと、お前の父の事だが、施設の方に聞くと名前と誕生日を書いた紙が衣服と一緒に包《くる)まれいたのだと、本当に手がかからずすべてを達観したような赤子には見えない子だと言っていた。儂は、この子はきっと強い子になると思い、その子・神威(かむい)を養子にできないかと相談したところ、問題はなかった。話しはスムーズに進んだ。しかし、神威ってなんだそれって正直思ったがな。神の字を使った名などだいそれていると思ったが、その名に恥じぬよう強くなればいいと考え、物心がつき始めると稽古をしたもんじゃよ。そして、今はあの強さ・・・正直体術では、儂もお前も適わないんじゃないか?」苦笑しながらも、嬉しそうに語っている祖父を見ていると、こちらも父の事を誇りに思うようになってきた。


「だが、赤坂家は他の家と違って、後継者を血族でないと認めないという習わしがあった。このままでは、神威が今までしてきた努力が、何にも報われないと思い、分家に年頃の娘がいたので、試しに見合いをさせたんじゃ。神威は別に後継者になんかなれなくても、なにも気にしないよと言っていたが、会わせると分家の娘まぁお前の母さんじゃな。が、恐ろしく神威を気に入って、その見合い場で猛烈アピールをしておったよ。わはは。」

 母さん・・・そんな人だったんですか・・・今でも時々父さんが引き気味になるのは、今に始まった事ではなかったのですね・・・苦笑しながら、祖父の話の続きに耳を傾けた。

「あの頃のお前の母さんはな、知らないだろうが体術が神威より上だったのだよ。神威はまだ儂より弱かったが、それでも今のお前より強かったと思うぞ?猛烈なアピールに珍しく動揺した神威は見合い場を後にしようとすると、逃げるあいつを和服で追いかけ、抑え込んだんだぞ?儂もあいつも目を丸くしてしまったわ。」

「母さん、そんな豪胆な方だったの?今じゃ考えられないよ?父さんといつも一緒にニコニコ笑って、父さんに怒られたら、いつも謝って一歩後ろにいるような感じなのに、あっでも、たまに母さんの勢いに引いてることもあるな・・・あれってある意味トラウマなんだろうか・・」驚きっぱなしだった。あの優しい、おっとりした母さんがそんな機敏な動きができるなんて・・・いや、佇まいは普通の人とは違うのはわかっていたが、実際に目の当たりにしたわけではないので、信じたくなかっただけなのだろうと祖父の話を聞き思った。

 祖父は笑いながら、

「ワハハ。そうじゃな、そうかもしれんな。押し切られて結婚したようじゃったが、女性に対して煮え切らない態度でずっと彼女もいなかったからのぅ。ちょうどよい相手だったんだろうて!慎、お前と似ておるよ。」

それを聞き、乾いた笑いしか出せなかった。バツが悪いというかなんというか・・・そう恥ずかしいよねこれ、身内だから余計にさ!


話し込んでいるうちに、夜も更け最後の締めがあることを思い出す。足を正座に組み直し、両手をつき左衛門に頭をさげ

「当主 赤坂左衛門殿。今宵儀式を執り行っていただいた事、深く感謝いたします。神前にて誓いを立てし我が身の決意の証として、いかなるものも捧げる所存です。覚悟の証となるものを、お示しくださいますようお願い致します。」

真面目な表情にもどった左衛門は、

「その覚悟、我が前に示す証は・・・」


次に出る言葉は、なんとなく分かっている・・・

「唪熱斗(ホーネット)の頭の暗殺と幹部を再起不能にせよ。」

やっぱり・・・人を殺(あや)めるこれが最後の証となる。


神前にて血を流すなど、穢(けが)れではないのかととも思うが、赤坂家の神は、血を好む神であるということでお願いします。


また、団体名などはフィクションですので、仮に実在する団体があっても一切関係ありません。作者が勝手に考えて、当て字にしただけです。

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