恭太
俺は数日音楽室に通っては、少女の演奏を聞いていた。
聞いていると、不思議と心が軽くなった気がしたからかもしれない。
俺は気づけば家のタブレットでピアノについて調べていた。
もう死ぬからと真っ白にしていた履歴がピアノとクラシックについて埋まっていく。
そこで初めて俺はピアノの凄さを理解した。
無数にある鍵盤を全ての指を器用に動かし、ハーモニーを奏でていく。
俺は無性にその楽器を、自分の手で奏でたいと思った。
だが楽器の中では相当な難しさではないだろうか。
少なくとも俺にできるのか分からず、とたんに不安になる。
そう思うと、あの練度でピアノを弾いていた少女は何者だろうという疑問が頭を過った。
気になった俺は、早速スマホを手に取った。
チャットアプリで文字をタタタと打ち込む。
”おーい”
”……何やこんな時間に”
30秒もせずに返事は返ってきた。
相変わらず恐ろしい既読速度である。流石は俺の唯一の親友。
”ちょっと人探ししてるんだが”
”人?どしたんえらい急に。話聞こか?”
”あのさ、いつも放課後に音楽室でピアノ弾いてる子知ってるか?多分同学年のはずなんだが”
”あーそれなら多分分かる。それ多分Dクラスの音無”
Dクラス……俺がBクラスなので教室が離れている。
通りで全く見覚えがなかったわけだ。
”音無?”
”そやで。音無渚。僕も見たことあるけど、掴みどころがない感じや。まぁ個人的には友達なれそうな感じしたけど”
”そうなのか。ありがとう”
”おう。で?”
”で?”
”そんな事聞くってことは何や、好きなんか?kwsk教えろや”
スコンと耳を立てているアニメキャラクターのスタンプが届く。
”そういうのじゃない。ピアノを弾いてるのを見させてもらって気になっただけだ”
”なんやおもんないな。最近音無あいつに告白されてたからな、乱入楽しみにしてたのに”
”あいつ?”
”決まってるやん。英才教育(笑)受けた学校の風雲児(笑)こと西園寺拓馬や”
西園寺拓馬。俺らの学校でその名を知らないものはいない。
戦闘能力に特化した異能を持つ、国家からも期待されているまさに王子様のような存在。
俺とは完全に真逆の存在だった。
”西園寺のやつ、何で音無なんやろな。今度会ったら聞いてみてや”
”勘弁してくれ。それに情報集めはお前の分野だろうが”
”wwじゃ僕フロリダするんで。また何かあったら後で。ノシ”
敬礼するアニメキャラクターのスタンプも添えられる。
俺はこいつのこんな軽快さに幾度も励まされた。思わず頬が緩む。
まぁ俺が死のうとしてたことまでは知らないが。
”ノシ”
最後に二文字だけ送ってから俺はケータイを閉じた。
何となく目の疲れを感じ、俺は布団に寝転がって天井を意味もなく見上げた。
LEDの光が無常に俺を照らす。
「……音無渚、か」
明日、会いに行ってみよう。
突然会いに行って拒絶されたとしても、もう何も残っていない俺だ。
何かが進みそうな予感がして、俺はそれに縋ることにした。
俺は無意識に、クラシックの音楽を流した。
音を聞いていると、全てを忘れれる気がしたから。




