Lies or Truth
―催事・祭事・イベント用品買取専門店経営 三倉さん(仮名)の話―
「怖い話なのかどうかは分からないけどね」と前置きして、三倉さんは話してくれた。
「俺はただ電話でお客さんと話しただけだからさ。幽霊が出たって話じゃないし。ただ、なんか気持ち悪かったってだけ。うん。なんか気持ち悪かったんだよ」
三倉さんの店で取り扱っている品は少し特殊である。
イベントや催し物で使うような物、例えばテント、幕、舞台用衝立、衣装などを買取っている。「地区の催しでそのときにしか使わなかった」という物が不要になって三倉さんの店に売る人がいる。逆に「そのときだけ使いたい」という需要で中古販売や貸し出しを求める人がいる。なかなかに繁盛しているようだ。
そんな日常と少し離れた物を扱う店なので、「こんな物は買取ってもらえるのか?」という問い合わせも多い。
ある日も、問い合わせの電話が掛かってきた。
三倉さんが電話に出ると年配の男性だった。
「もしもし。お尋ねしたいのですが、人形は買取っていただけるのでしょうか」
「人形というと、どのような人形でしょうか?ゆるキャラの着ぐるみのようなものですか?でしたら買取しておりますよ」
「いえいえ、そうではなくて。腹話術の人形なのですが、買取ってはいただけませんでしょうか?」
(腹話術の人形か・・・。珍しいな。以前、獅子舞は買取ったけれど腹話術か・・・。まあ、何かに使えるだろう。買取ってもいいか)
ほんの少しの逡巡の為、会話に一瞬の間が空いた。その間にすかさず相手が攻めてきた。
「もし買取れなかったら引き取りだけでもいいのです。処分したいのでどうにか引き取ってくれませんか。お願いします。引き取りだけでも」
三倉さんは買取るつもりだったので、先程の間が買取を断る間だと勘違いさせてしまったのだと思った。訂正したいのだが、相手がなにか焦っているように喋り続けるので口を挟めない。
「どうにか処分だけでもお願いします。処分してもらわないと駄目なのです。そのうちに取って代わられてしまうのです。最近は喋るだけでなく、動くことまで覚えました。もうすぐ歩くようになります。お願いです。人形を引き取りに来てください」
呆けた老人の電話だったのかと思い、断って電話を切ろうとした、その時。
老人の背後でドアが開き、閉まる音がした。
『嘘ですよ。嘘ですよ。』
老人の背後からもう一人の声がした。
受話器から老人の荒い息遣いと背後の人物の声が同時に聞こえる。電話越しに切迫した気配が感じられた。
『嘘ですよ。嘘ですよ。』
背後の人物の声は、老人の声と一緒だった。もっと言うなら、声色を変えた同一人物の声だった。
「はあ・・・はあ・・・」『嘘ですよ。嘘ですよ。』
「・・・申し訳ありませんが、当店では買取も引き取りも行っておりません。失礼いたします」と言って三倉さんは電話を切った。
「ただの呆けた爺さんだと思うんだけどさ。もし話が本当だとしてだよ。どっちが本物か分からないよね、電話だと」




