いたずらっ子①
―玩具リユースショップ 店長 菊地さん(仮名)の話―
菊地さんが出勤すると事務所のデスクに警備会社からの報告書が置いてあった。
センサー誤作動という項目にレ点のチェックが入っていて、備考欄には「担当者:タキガワ」と記入されていた。
それが3日間続いた。
二日目と三日目の備考欄には「異常ナシ 担当者:タキガワ」と記載されていた。
さすがにこれは「異常ナシ」として良いのかと菊地さんは思った。
センサーの器具が壊れているならば交換のための稟議書を作成しなければいけないし、万が一担当者のタキガワなる人物が店舗に侵入してで商品を盗んでいるのであれば一大事である。
そんな想像をしてしまったため、菊地さんは念のため防犯カメラの映像を確認した。
報告書に記載されていた時間で検索して映像を確認すると、売場に警備会社の若い男が映っていた。
おそらくこの男が担当者のタキガワだろう。
タキガワは特に商品を盗むような怪しいことはなかった。菊地さんはとりあえずほっと胸をなでおろした。
一応遡って、昨晩の映像だけでなく、報告書の初日と二日目の映像も確認してみた。
二日目は昨晩と然程変わらない態度のタキガワの姿があった。
気になったのは初日のタキガワの態度だった。
初日のタキガワは売場の巡回中、ある場所でしばらく立ち止まって何かを確認した後、逃げるようにその場を去って行った。それはなんだかとても動揺した様子に見えた。
その理由が判明するのは早く、その日の夜のことだった。
その日仕事が終わった菊地さんは一人でやきとり屋に入った。
カウンター席に座った菊地さんの背後の座敷席では、男数名のグループが盛り上がっていた。
菊地さんが二杯目のハイボールを口にしたところで、聞き覚えのある名前が聞こえてきた。
「なあタキガワ、新しい仕事はどうだ?もう慣れたか?夜勤が多いと大変じゃないか?」
……タキガワ?
まさかと思い、体勢を変える振りをして横目で背後の席を確認した。
座敷席の若者の一人が防犯カメラで見たタキガワに似ているような気がした。
菊地さんは会話に耳をすませた。
「おう、警備会社も楽じゃないよ」
「そうか?深夜の警備なんか暇だろ?」
「バカ。深夜営業の店だってあるだろ。深夜に呼ばれる方が性質悪くて面倒なんだよ。酔っ払いのカスハラの仲裁とか最悪だよ」
偶然にもこれはあのタキガワで間違いなさそうだ。
菊地さんがタキガワを一方的に知っているだけとはいえ、妙な親近感と思わぬ邂逅に少し口元がほころんだ。
しかし気持ちが緩んだのも束の間だった。
続く会話に菊地さんは打ちのめされた。
「最悪と言えばさ。この前夜中におもちゃの中古屋に呼ばれて行ったんだよ。通報のブザーが押されてさ…」
…通報のブザーが押されて?閉店後だぞ。そんな訳ないだろ。それが誤作動ってことなのか?
「現着して通報解除してさ、マスターキーで開錠して。…ああ、そう、その店はもう営業時間終わって誰もいないの。うん、それなのにブザーが押されるのも変なんだけどさ。まあ聞けって。…店に入って、人がいると反応するセンサーのさ、反応しているエリアに向かったの。ミニカーとかラジコンとかが置いてある場所だったんだど…そりゃ怖いよ…侵入者がいるかもしれないんだからさ。侵入者っていうか、開錠されてなかったからこの場合は売場にずっと潜んでたって者って可能性が考えられるんだけどさ。どっちにしても怖いだろ。それでさ、ミニカーコーナーに行ったらさ、いたんだよ………男の子。小学校3、4年生くらいの。いや、そうだよ、おかしいよ。でもいたんだよ。それで、俺を見て笑ってるんだよ。笑って、こっちに走って来たの。怖くて動けなかったんだけどさ、一瞬目を瞑ったらいなくなってたんだよ。文字通り、いなくなったの。消えたの」
菊地さんはハイボールのジョッキを置いた。
「先輩たちは知ってたみたい。その店、今までもたまにそういうことがあったんだって。知ってて俺が向かう時は誰も教えてくれないの。黙ってニヤニヤして、戻ってから『どうだった?』だって。そういうときは『異常ナシ』って書いておけばいいんだって。ビビらせやがって、最初から教えとけって。それでさ、その小学生幽霊に気に入られたのか知らないけど、その日から三日続けて通報ブザーが鳴って。さすがに幽霊が出たのは初日だけだったけどさ。巡回して異常ナシって書いてきたよ。先輩も幽霊も俺を馬鹿にしやがって。だから今日は仕事休んでやった。今日は幽霊が呼んでも俺は行ってやらねーよ。おう、飲むぞ、おかわり」
翌日、菊地さんのデスクには「異常ナシ 担当:フクイ」と書かれた報告書が置いてあった。
それ以降は今のところ報告書が置かれていることはない。




