翠と俺
師団長になった俺が現世に行く事が少なくなったけれども、指揮官として更に忙しくなった。翠も仕事が評価されて大隊長に昇格していた。
俺と翠は仕事自体だけでなく、相手にしなければならない部下も増えたので、一緒にいる時間が少なくなった。家事も近所の老女に任せる事が増えて、俺達は何度も感謝と詫びをした。手間賃を出しているとは言え、近所に迷惑をかけている。
一ヶ月に一度、家で会えれば良い方だ。俺達は六日に一度は休むようにしているが、擦れ違う時がある。会った時の挨拶が、
「久し振り」
とは言うものの、夫婦仲が冷え切っているわけでもない。むしろ少しでも時間があればイチャイチャしている。勤務中に会っても、人目につかない所であれば手を繋いだり軽く抱き合ったりする。翠はよく笑うし、俺も笑う。
俺は戦闘隊員だから死ぬ覚悟は出来ている。翠もたまに怪我をしながらも刑務隊の仕事を毅然とした態度でこなしている。けれども、翠がもし成仏する前に死んだら、俺はどうなるのだろうか。耐えられるだろうか。翠は俺が死んでもしばらくは悲しむだろうけれど最後には立ち直れるはずだ。
師団長になってから約二年後、久々に翠と家で休日をゆっくり過ごせた。俺が、
「お前が死んだら、俺はどうなるんだろう」
と、呟くように訊くと翠は険しい顔で、
「情けないのね。私は覚悟しているのに」
俺は、
「お前自身が死ぬ覚悟が出来ていても⋯⋯」
「私は貴方の死も受け入れる覚悟が有ると言っているの」
翠が怒気を含めて言った。怒るのは珍しい。俺はまじまじと翠を見つめた。翠は落ち着いた声で、
「たとえ貴方が殺されて私に復讐を望んでも、私はそんな事をしない」
すぐに俺を忘れるという事だろうか。寂しいけれど翠が幸せになるなら俺はそれでも良い。
「私は貴方を私の一部として生きる」
「つまり?」
俺が促すと翠は俺を真っ直ぐ見返して、
「貴方を踏みにじった者が後悔するように気高く生きたい」
俺はふと目をそらし、
「嬉しい事を言ってくれる。でも俺は⋯⋯」
翠が殺された場合を考えたくもないし、考えたとしても復讐するだろう。
「私が殺されても復讐しないでね。別の誰かと再婚してもかまわない」
翠が冷静に言った。俺は、
「嫌だよ、それは」
と、言いながら苦笑いしていたと思う。翠は俺の肩を掴んで微笑み、
「今は私達は生きているでしょう」
「そうだな」
と、俺は相槌を打った。俺も微笑んでいたと思う。
俺達は軽く抱き合う。
この後どれくらい生きるか分からないけれど、俺は幸せだと思う。




