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冬空  作者: 加藤無理
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失態

 俺が二百九十歳ぐらいの時。東日本大震災の直後に、季打理(きだり)が出所した。季打理とは、翠が話していた例の女囚だ。罪を犯した季打理は出所後すぐに祝呪隊に入隊した。しばらくは教導隊で訓練を受けることになる。


 東日本大震災では甚大な被害を出した。神の関わる行為だから亡くなった霊達は浄化される。けれども生き残った者達には不条理でしかないだろう。遺体が探しても見つからない、津波で家も船も流される。地震も津波も全てを削り取る。


 地震と津波だけではなく、原子力発電所も半ば炉心融解して更なる被害を出した。放射性物質と放射線をどの様に考えるかで社会的な分断も起きた。時折外部からの不適切な支援方法で被害を受けた者達の反感を買うこともあった。


 この地震以前にも、中越地震や阪神淡路大震災も起きていた。日本は災害が多い。亡くなった霊達が浄化されるとはいえ、俺達の仕事は増えるし、現世の人間達は苦しむ。


 科学が発達したとはいえ、人間は脆(もろ)い。偏った報道に思想の分断に憎しみ合い。あの未曾有なまでの災害の割には秩序が保たれていたが、それでも強盗や詐欺やその他の犯罪は多発していた。


 俺は大隊長として部下に仕事を割り振り指揮をした。挫けそうになる部下達を叱咤激励した。交代制や配分を加減しながら疲労困憊になる前に休ませた。それが認められたのか、震災から数年後には連隊長に昇格した。生き残った人間達の辛そうな顔を見ているとあまり嬉しくはない。俺達霊体は生体に干渉してはいけないのだ。


 数年後、熊本でまた震災。北海道胆振でも揺れた。震災が続く。俺達は駆り出される。


 楽土に行ってホッとした霊体達を見ると俺も胸を撫で下ろす。任務に成功した部下達を素直に誉める。辛い事も有るけれど、やり甲斐は有る。


 丁度三百歳ぐらいの時、俺は翠に紹介されて季打理と会った。素朴な感じの女だ。俺は用意していた料理で季打理をもてなした。最初は緊張していたけれども季打理は楽しそうに食事と会話を楽しんだ。


 季打理は翠を慕っており、休みの度(たび)に俺達の家に来る。たまに姪の美麻(みあさ)も来る。翠と美麻は季打理の鍛錬に付き合っている。遠目で見ても季打理が頑張っているのが分かる。


 季打理は最初、土木隊に配属されていたけれど、俺が憲兵隊に戦闘隊の異動を申請した。戦闘隊の隊員を少しでも増やしたかったし、季打理なら務まると思ったからだ。


 俺は部下達に説得した。部下達は女でテロリストだった季打理を嫌がっていたが、少しずつ季打理は認められるようになった。


 これといってここまで落ち度は無かったつもりだ。しかし、突然俺は失態を犯してしまった。


 ある日、酒を嫌がる翠と少し離れたくて草原で酒を飲んでいたら山の女神が現れた。俺は咄嗟に跪こうとしたが、女神はそれを制止した。美人で俺に微笑んでいる。一瞬、魅了されそうになったけれど、俺には翠がいる。


 気が付けば翠と季打理と季打理の友人の半蔵(はんぞう)が異変に気付いて来ていた。けれども女神は拒もうとする俺を平手打ちして山に連れて行った。


 一応、俺は武人だ。だが、女神とはいえ女に拐(さら)われた。とんだ恥さらしだ。だから俺は自害を試みたがその前に手枷足枷をはめられて阻止された。更なる屈辱。


 俺は女神から山の幸や酒を出されたが口にしなかった。女神は悲しい顔をする。俺は怒りと恥ずかしさで魂が揺れている。女神から顔をそむけて脱出を考えた。俺は女神に腹を立てていたが、正面対決する気が起きなかった。神とはいえ女に暴力を振るいたくはなかったし、悪霊でもなんでもない。普通ならば多少不条理でも神に好かれた事は名誉だ。


 俺は手枷足枷を壊そうと何度も試みたが、女神はすぐに察知して呪術で直した。手首足首が痛くて血が出るが、それでもあがいた。女神の力は強力だ。


 そうこうしているうちに翠が仲間を連れてやって来た。その中には季打理と半蔵がいる。俺は息が詰まった。俺が死ぬのはかまわないが、その巻き添えで翠や他の者達が死ぬのは不名誉どころではない。


 しかし翠達は舞と演奏を披露して山の神の気持ちを変えた。俺は解放された。


 助けてもらって有り難いが申し訳ない。


 

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