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皇帝からの呼び出し

カナリアはシャーロット姫が捕らえられているという地下牢を訪れるため、皇宮に駆け付けた。


ロアディン公爵家の紋章入りの馬車に乗ってきたため、門番は比較的柔らかに御者に声をかけているようだ。


ほどなくして皇宮の門が開く。そういえば、皇宮を訪れるというのに顔も洗っていないし服も適当だ。


アイラッド皇太子に見られてしまったら少し恥ずかしいな…と考え、それから彼が自分の投げたボールに当たって臥せっていることを思い出す。


どうしてこんなことになってしまったのだろう。


(わたくしがノーコンだから…?)


もちろんそれもある。だが、そもそも自分が婚約破棄を望まなかったら…あの時ボールを投げるのを拒んでいたら。


考えれば考えるほど分からなくなる。一体どうすればよかったのだろう。


馬車を降りたカナリアを出迎えたのは、アイラッドの従者であった。


「カナリア様!目を覚まされたのですね。早速皇太子殿下のお見舞いに来てくださって感謝いたします」


カナリアははっとした。姫が処刑されると聞いて衝撃を受け、正常な思考ができていなかった。


確かに、普通に考えたら意識を失っている皇太子の婚約者が皇宮に来る目的なんて一つだ。


一刻も早く姫の元に行きどうしてこんなことになっているのかを確かめたかったが、ここで皇太子を無視するのもおかしな話だ。


アイラッドの様子も確認したかったし、一度皇太子の元を訪れることに決めた。



アイラッドは思っていたよりもずっと穏やかに眠っていた。


「もうほとんどダメージもありませんし、いつ目を覚ましてもおかしくはないはずなのですが」


医者は不思議そうに言う。


カナリアは自分が倒れたときのことを思い出していた。


彼も前世の記憶を夢でみているのだろうか。


もし彼が観月藍良の記憶を取り戻したら、道野龍であるカナリアとの結婚を嫌がるのだろうか。


全て自分が蒔いた種とはいえ、カナリアは少しだけ悲しくなった。



本来の目的である姫の元へ行こうと席を立つと、皇帝の従者らしい人物がカナリアを訪ねてきて声をかける。


「カナリア様、皇帝陛下がお呼びです。急ではございますが、陛下の執務室までお越しいただけますでしょうか」


「え…陛下が?」


カナリアはどきりとした。多忙な皇帝がカナリアを呼ぶなんて、相当の用事である可能性が高いからだ。


しかもカナリアには、皇帝に呼び出される心当たりがある。


(わたくしがアイラッド殿下にボールをぶつけたとお気づきなのだわ…!)


ある意味ピンチではあるが、シャーロット姫が犯人だという誤解を解くチャンスでもある。


それに、姫の処刑を止められるのは皇帝陛下くらいだ。


カナリアは意を決して従者の後をついていった。



皇帝・ルーナはカナリアの姿を認めると、ペンを置いて優しく微笑んだ。


「いらっしゃい、レディ・カナリア。倒れたと聞いて心配していたけれど、元気そうで何よりだよ」


部屋の中心にある応接用テーブルの前のイスにカナリアを座らせ、皇帝も執務用机の前からカナリアの正面に移動した。


「ありがとうございます。ですが…その、皇太子殿下は…」


「眠ってるようなもんさ。まあ、たまにはゆっくり休ませないとね」


皇帝の呑気な様子に、カナリアは唖然とする。仮にも皇太子が意識不明の重体(?)なのに。


運ばれてきた紅茶を一口飲んだ皇帝は、いつも通りの柔らかな態度で…しかし入念に人払いをして、カナリアに話を切り出した。


「アイラが倒れた原因を作ったのは、レディ・カナリア。君だろう?」


皇帝の言葉に、カナリアの喉がひゅっと音を立てた。


心臓が破裂しそうなほど早鐘をうつ。


答えるべき言葉が見つからずに固まるカナリアに、皇帝は金色の瞳を細めて言う。


「大丈夫だよ、レディ・カナリア。私は最初から知っていた。でも、君を罰する気はない」


知っていた?それではどうして、姫が…。


カナリアが皇帝の顔を見ると、彼はアイラッドによく似た顔で微笑んでいた。


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