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勇者になれなかった凡骨ナイトの報われない冒険!  作者: 白希熊
凡骨ナイトの始まり
4/20

ep4 - エリザ・ライトリアという美しき小柄な天使!

 あれから数時間後。


 奇跡的にバグの大群から生き延びた俺とギタノは地上へ戻っていた。

 もちろん、俺達二人を助けた小柄な天使も一緒だ。

 今のところは……。


 綺麗で滑らかなブラウンロングヘア―。黄色の潤んだ瞳は宝石に似た美しさを纏っている。童顔で容姿も小柄なロリっ娘だけど、それがいっそう聖女な雰囲気を醸し出しているのだ。


 今は全員が浴場で汗を流してちゃんと体を洗って清潔な状態だ。

 彼女は黄色の装飾がある白いローブを身に着けていて、頭には額まで守るティアラを被っている。


 そして、彼女は大笑いをしていた。


「かっははっはははっ!いやぁ面白かったー!こんなにウケたのは久し振りだよー!」


 ナイト用の宿に向かいながら、一緒について来ている小柄な天使は大笑いをした。

 彼女はついさっきの出来事を思い出す度に大笑いをしてしまう。


 数時間前、神聖的な光が収まり、目を開けてみたら、周囲にはもう何もなかった。

 俺達三人以外は……。


 バグを全滅させると、彼女は俺とギタノを見つめて急に笑い出した。

 大笑いをし出したのだ。

 腹を抱えて、

 だめっ笑うとお腹が痛い……私を笑い殺すつもりなのっ?

 とか言いながら笑いを堪えようともせずに笑っていた。


 酷い話だ。


 助けてやったというのに、笑われるなんて……。

 まぁ、あっちも俺達を助けてくれたからチャラなんだけどね。


「何が面白いのか、さっぱりわかんないんだけど……」

「俺もだ……」


 俺とギタノはお互いに見つめ合って、大笑いする彼女を不思議に思う。


「いやいやいや!だってさぁー!あっははは……バグに殺されそうになるなんてありえないわよ!」


 彼女は目もとに溜まった涙を指で拭い、笑いを堪えながらも続けて喋る。


「いくら向こうから来た駈け出しの者でも、バグにはやられないよー!バグはね、この世で一番弱なモンスターよ!それなのに君たち……ぶっはははは……無様なまでに追い詰められて殺されそうになっていたなんて……っはははは」


 全く。

 酷い話だ。


「俺達だって一匹や二匹にはやられねぇぞ!でも、お前だって見ただろう?あんな大群を相手に出来るか!」


 本当は二匹でもきつくて相手に出来るかはわからないけど、彼女の意見に抗議せずにはいられない。これじゃまるで、俺らがどうしようもない情けなすぎるへぼナイトじゃないか。


 うわっ、自分で思いながらなんかへこんでしまった……。


「こっちの地方の誰でもバグの大群にやられないわよ!バグはね、見た目はきもいけどね、頭部を叩きつけるだけで倒せるのよ!それを……君たちは……あっははははは!」


 笑いすぎてわずかに染まった頬で、彼女は冷静さを保とうとしながら説明する。それでも語尾にまた吹き出した。


「なるほど。勉強になる」


 ギタノは顎に手を当て深く頷く。

 俺もなるほどとは思うけど今は納得するな!

 この女……聖女な容姿をしながらとんでもないからかい女だ……。


 あ、そういえば……。


「そういえば、あたしたちまだ自己紹介してないわね。あたしはエリザ。エリザ・ライトリアよ!エリザと呼んでいいわ、よろしくね!」


 俺の考えを読んだかのように、エリザと名乗った小柄な天使は、俺が気付いたと同時に自己紹介をした。


「俺はダグザ・リアガードだ。なんかもう色々と感謝の気持ちが消え失せてしまったけど、礼を言うよ。助けてくれてありがとう」

「俺はギタノ・ユキヒコだ。俺も感謝する。ありがとう」


 ギタノが俺に続いて自己紹介と礼の言葉を言うと、エリザは冷静になって首を振った。


「いやいやいや。先に命を助けてもらったのは君たちだし、あたしこそ感謝するわ!ありがとうね!」


 そして俺ら二人を見つめて神聖な微笑みを向けてくる。

 やっぱり黙っていれば天使だ。

 性格にはやや問題があるようだけど、悪い人じゃなさそうだ。


 あれから俺達のためにバグの牙を集めてくれて、彼女に使ったポーションよりも多く買ってくれた。もちろん、ボロボロだった自分をきちんと治療してからだ。それに、後でこの地方のことを色々と教えてくれたり、街を案内してもらったりもしてくれた。


 ここはリーカンという国らしい。


 向こうの地方で“導きの儀式”を受けた全員がこの国に送られてくるため、駆け出しが多いことで駆け出しの国とも呼ばれている。

 街中の雰囲気は俺とギタノがいた向こう側とはあまり変わらない。違うとすれば国の大きさと人の多さだ。

 色んな商店や飲食店が多く、向こうにはなかった立派な建物も良く見かけるし、街中には大勢の人で溢れている。俺とギタノのようにマントを身に着けた駈け出しの者も多いけど、町を通る立派な鎧を身に着けた上級者もいて、馬だけじゃなくて見たことのないモンスターに乗って移動している者達もいる。

 どうやったら早くああいう立派な鎧を身に着けられるのだろうか……、っていうか俺も乗れるモンスターが欲しんだけど。


 日はすっかり暮れて、俺達は今ナイト用の宿に向かい、石で構築された住宅が立ち並んでいる石床の道路を歩いていた。


「お前は……エリザはなんであんな所で大怪我をしていたんだ?まさか、バグにでもやられたのか!?」

「違うわよ!!バカなの!?」


 小柄なエリザは両拳を強く握り、必死に身を乗り出して完全に否定してきた。

 なんだ、違うのか……。

 笑ってやろうと思っていたのに。


「酷い怪我だったな。一時は死んだのかと思ったほどだ」


 ギタノの言葉に同意して、俺は未だに身を乗り出しているエリザにうんうんと頷いた。

 ポーションを無駄に使ってしまったとも思いもしたよ。


「あたしは……悪い連中にやられてしまったの……」


 俺とギタノを笑いまくっていたさっきまでの緩い表情はなく、エリザは微かに顔を失せて真剣な面持ちになっていた。


 悪い連中にやられた?


「連中ってモンスターの事か?どんなモンスターなんだ?」

「違う。連中とは人の連中よ。あたしを殺そうとしている連中がいるの」


 人が人を殺す?

 どういうことだ?

 この地方は大悪の何とかラスとやらを討伐するために、みんなが力を合わせているんじゃなかったのか?


「向こうでは考えられないことだろうけど、こっちではアイテムや装備を奪うために人を襲う連中がいるのよ。みんながみんな、大悪の魔法使い――フェルンブラスを討伐したいわけじゃないの」


 ああ、確かに師匠からもそんなことを聞いたことがあった。

 酷い所だ。


「俺達も気を付けないとな」

「何言ってるの?君たちみたいな駈け出しを襲う者なんかいないわよ……」


 エリザは哀れむような苦笑を浮かべた。


「もしかしたら同じ駆け出しの者が襲ってくるかもしれないだろう?」

「ないない」

 即答された。

 うぅ……。


「じゃあ、お前はなんで狙われたんだよ?」

「あ、あたしは……か、可愛いからよ……!」


 ただのロリコン連中じゃねぇか!!

 と思ったけどさすがに口にはしなかった。


「…………」

「…………」

「ちょ、ちょっと!二人共なんでここで黙るの!?何か言いなさいよ!」

「いや、こればかりは、ね……」

「ああ、何も言えない」


 俺とギタノはエリザから視線を逸らさずに、うんうん深々と頷いた。


「なんでよ!これだとあたしが立派なナルシストみたいじゃない!」


 小柄なエリザがまた必死に身を乗り出してくると、俺とギタノはそれを見て笑いだした。


「笑うなー!」

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