ep2 - ダグザ・リアガードという凡骨ナイトの誕生!
気が付けば視界が真っ暗になり、徐々に少しずつ照らされていく。酸素が少なかったのか最初は息しづらかったけど、すぐに息が出来るようになった。
転送される前にいた薄暗い空間と違って、ここでは暖かく湿った空気が漂っている。温もりのある空間だ。
「畜生……。あの超うざくて残酷な石像にあばよが言えなかった」
あんなに企んでいたのに。
途中からどのようにして言ってやるのをずっと考えたというのに、最後になって勇者になれなかったショックで結局言えなかった。
畜生……。
もっと精神を鍛えなければならない。
いや、精神も何も。俺はこれから壁になり切らないといけない。
ナイトか……。
騎士ね……。
ギタノはどのクラスに判断されたのだろうな……?
まさか、勇者だったりして……。
ショックだ。
「まぁ、とりあえずこの茶番を終わらせよう」
まだ“旅立ちの儀式”が終わっていないはずだ。師匠の説明が正しければこれから判断されたクラスの神と面会して、正式に判定されたクラスに任命される。
最も、“導きの女神”と一人であの薄暗い空間で面会することは聞いてなかったけどな。
ナイトクラスの神ね。
もうはっきりと見えるようになった視界で周囲を見渡した。
真っ先に見えたのが天井まで高く伸びるいくつもの太い柱だ。
なるほど、ここはナイトの神殿か。
俺は広くて四角いフロアの中心に立っていて、床には灰色で魔法陣が刻まれている。どこから明かりが入っているのかはわからないけど、ここは薄暗いという感じじゃなくて、程よい明るさがある。
周囲を見渡し限りじゃ通路は目の前に続く一本道しかない。
微かな不安と緊張を抱えながらも魔法陣の中から出てその通路を進む。
驚くことに通路の両側には様々なバリエーションの装備や鎧が並べられている。
おお!
カッコいい!
色んなのがあるな。
これ程立派な鎧は始めて目にする。
ナイトクラス加入特典でこれらの中から装備が選べられたりするのかな?
俺ならこれが良いな!
これだよ、これ!
この派手のが良い!
竜の鱗で鍛造されたような艶々に輝く赤い鎧。
滅茶苦茶カッコいい。
おお!これもいいな!
この金色に輝く最高に派手な分厚い鎧!
これがあれば最強だ。
どんなモンスターさえもブロックできる自信がある。この鎧があれば喜んで壁になってやろうじゃないか。
うん……思っていた程ナイトは悪くないかも。
この地方にこれらの鎧を身に着けている者はいるのだろうか?
なんかわくわくしてきたぞ。
良し、さっさとナイトになって特典として鎧を手に入れようじゃないか。
完全に向上した気分でそのまま通路をわくわくしながら進んだ。
両側に並ぶ色んな装備や鎧が終わり、前には段差があった。その向こうには神殿を支える柱と同じ高さの門が聳え立っていた。段差を上がって門の前に立つと、地面に引きずられるような鋭い音と共に門が自動に開いた。
門の向こう側はさっき俺がいたフロアとほぼ変わらないフロアが広がっていた。
自動に門が開くとか、なんか王様な気分だな。
悪い気はしない。
わくわく感と緊張を抑えながら中に入った。
フロアの中央には、多数の武器が集合して形成された黒くて立派な王座が置かれている。
それ以外には何もない。
何もなければ、俺以外にも誰もいない。
おかしいな……。
ここにナイトクラスの神がいるはずなんだけど……。
用事でどこかに出かけたりでもしたのか?
まさか。
ナイトクラスの王が俺だったりして……。
この王座は俺のための物か……。
座っても良いかな?
誰もいないし座ってもいいだろう。
そう思って王座に近づこうとした瞬間。
「おい!どこを見ておる!ここじゃここを見ろ!」
あれ?
どこだ?
確かに良く透き通る子供の様な声が聞こえたはずだけど、フロア内に響いてどこから発せれられたか特定できなかった。
周囲を見渡しても、やっぱりカッコいい王座があるだけだ。後は俺もいる。居なければおかしい。
「おい!若きして方向音痴なのか!ここじゃここ!前じゃ!前を見やがれ!」
周囲をきょろきょろ見渡していたら、また子供の甲高い声がフロア内に響いた。
いやいや、前を見てもカッコいい王座しか見えねぇんだけど。
どうなっているんだ?
透明?
インビジブルってやつ?
「だからここじゃ!声で見極めれないのか!ブロッカーの役割を請け負うナイトにとって、潜んでいる敵の位置をいち早く特定するのは命取りになるのじゃぞ!」
またまた甲高い声が少しイラっとした感じでどこからか発せられた。
「前に誰もいないじゃないか!俺をからかっているのか?」
「おい!下じゃ下じゃよ!耳が腐ってんのか!?下を見やがれ!」
言われた通りに咄嗟に下を向いた。
「あっ」
それでやっと声がどこからと誰から発せられていたのかを特定出来た。丁度俺の目の下の場所で、二角の角を生えた兜を被っている子供が見上げていた。
「ちっちゃ」
「おい!失礼な!我こそがナイトの神じゃ!跪くがいい!」
両手を組んで見下ろしている俺を見上げたままでいる。そのまま少しの間お互い見つめ合い続けた。
「さっさと跪かんかい!」
「グァっ!?」
咄嗟にお腹のドン真ん中にドロップキックを入れられた。
「グッゥゥ……」
痛さのあまり両手でお腹を抱えて跪いた。昼に食べた豪華な焼き鳥を吐きそうになって必死に堪えた。堪えていなかったら神殿のフロアが咀嚼された焼き鳥で汚れていただろう。お蔭で気分も悪くなったけど、せっかく食べた豪華な焼き鳥を吐いてたまるか!
向こうの地方に行ったらいつまた豪華な料理が食べられるのかわからないのだ。もしかしたら一生食べられないかもしれない。
「おい!顔を上げて見ろ!若きニュービーが!」
痛さと気持ち悪さに耐えながらもなんとか顔を上げて、ナイトクラスの神様とやらを窺った。
子供だと思っていたけど子供じゃないようだ。
小さすぎる。
小人か……?
跪いている俺よりも遥かに小さい。
1メートル以下だろう。
丸っこくてかわいらしい顔にツンと尖った鼻立ち。瞳は引き込まれるような金色をしていて、眉毛と兜からはみ出ている髪の毛はグレーだ。
兜だけじゃなく、ちゃんとした装備を身に着けている。小柄な体に身に着けている鎧は、見ただけですごい鎧だとわかるレベルに立派だ。
「それでよい。それがあるべき形じゃ」
彼はくるりと俺から背を向けると、三歩進んでから、びょんびょんとフロアの中央にある王座まで跳んでいった。そこでぽちっと座る。
本当に、こいつがナイトの神なのか?
こいつがさっき言ったばかりだ。
ナイトの役割はブロッカーだ。襲ってくる敵やモンスターをブロックしてパーティを守る役割だ。
その小さな体で何をブロックするというのだ。
アリとかか?
それとも神だからそんなの関係ないのか?
おかしいぞ。
「お前が……ナイトクラスの神なのか?」
「神様と呼べ。我こそがナイトクラスの神――アルム・ヴィクトルだ」
「はぁ……」
「おい!信じていない表情じゃな?ここまで来い!」
半信半疑に一応命令された通りアルム・ヴィクトルと名乗ったナイトクラスの神に近づいた。蹴られたお腹はまだ痛いけど、立って歩けない程じゃない。彼に近づいて王座の前に立った。
「おい、跪かんかい!神である我を見下ろすのではない!」
「えーまた跪くの?お腹超痛いんだけどー」
「また蹴られたいようじゃな」
「すみません!今すぐ跪きます」
命令された通りにまた跪いた。
あの蹴りをもう一度食らったら死にそうだ。マジで……。
両足を着いて跪くと、王座にぽちっと座っている小柄の神と目がギリギリ合わせられる高さになった。
「キサマは“導きの女神”により、ナイトクラスへ導かれた。これからキサマにナイトのクラスを与える」
やばそうなおじさんっぽい雰囲気のある言い方だけど、目の前のちびっこ神様は子供より小柄で、声も子供の様な声音がある。だから、申し訳ないけど、どんなに頑張ってもあまり本気に受けいられない。
「導かれたというよりは無理矢理転送されたんだけどね……」
「なんじゃ、ナイトになることに不満があるようじゃな」
「そりゃぁ、ただのブロッカーだからな。後荷物運びもするんでしょう?ロマンがねぇわ」
「そうじゃな。その代わり体力豊富で非常に死ににくいクラスじゃ。装備もかなり魅力的であるぞ」
ちびっこ神様は王座から立ち上がって自分の鎧を見せつけた。
うん、立派な鎧だ。
「それには俺も同意しなければならない。装備が並べられている後ろの通路を通った時は心が躍ったよ。カッコいい装備ばかりだったよ。特にあの艶々の赤い鱗の鎧には興奮したね」
「ほほう。気が合うみたいじゃな、若きニュービーよ。あの鎧はデーモンドラゴンというとんでもない悪魔の素材から鍛造された極めて激レアな鎧だ。そして、ナイトクラスの者しか身に付けられない代物じゃ」
デーモンドラゴン……。
素材の元である悪魔の名前もカッコいい。
ナイトしか着られない……。
よし。
「俺はここに導かれたダグザ・リアガード!喜んでナイトになり騎士道を歩んで見せます!」
それであの鎧を身に着けやる!
「その意気じゃ、若きニュービーよ!このナイト神――アルム・ヴィクトルが騎士道へ歓迎しよう。ダグザ・リアガード、これからキサマは正式なナイトじゃ」
ナイト神様は腰の剣を抜いた。抜かれた剣は神様同様に小型だけど、黒い刃は不思議なひかりを放ち、ただの剣じゃないことを告げている。
神様はその剣を、跪いている俺の右肩と左肩にトントンっと軽く叩くと、鞘に納めた。
「お、おおっ、おおおっ!感じるぞ!これが、これが、ナイトのポテンシアルか……!」
俺の体は淡い灰色の光に包まれ、自然に力が漲ってくる。まるで、疲労している時に強力なエナジードリンクを飲んだ時の様な……。
なんでも達成させて見せるという感情が湧いてくるほどだ。
「そうじゃ。ナイトクラスの神である我から祝福を受けた効果として、これからは力、体力、忍耐力が鍛えやすくなっている。もちろん、以前の状態よりそれらのステータスが上がっているはずだ」
よーし。
これならいけるぞ!
勇者として大悪の魔法使い――何とかラスを討伐するのはもういい。その展開は当たり前すぎて前から面白くないと思っていたもんね。これからはナイトとして、騎士道を歩む者として、何とかラスをブロックしてやるぜ。
勇者が大悪の魔法使いを倒す?
それがどうした!?
ナイトは大悪の魔法使いをブロックするんだぜ?
これ以上の勇敢な役割があるもんか。
もちろん、その先にあのカッコいい装備を身に着けなければならない。
あれがないとシャレにならない。
ないと、ナイト……。
あはははは……。
俺にしてはいいジョークじゃないか。
「後は装備だけだな……。ここに来てからずっと迷って考えていたけど、やっぱり俺に最も合う装備はあの……」
「ほれ。これが初期装備じゃ」
一体どこから取り出したのか、神様は自分よりも大きな巾着袋を投げてきた。喋っていた所を遮られたから、突然の出来事についていけなくて、つい巾着袋を落としそうになった。
ん?
初期装備?
何のこと?
手で受け取った大きな巾着袋を……というよりはバッグの口を開けた。紐で閉じられているだけなので、紐を引っ張るだけで口が大きく開けられる。
混乱状態でその中を覗いた。
何やらマントやら剣やらが入っているみたいだ。暗いし、中もぐちゃぐちゃだから良くわからないので、中から取り出した。
何だこれは……。
灰色のマントが出てきた。
鎧が汚れないために上から着る用なのか……?
恐らく笑える程の間抜けな顔をしているだろう俺を見て、神様が腕を組んで説明した。
「それは“旅立ちの儀式”を受けた全員の者に配っている初期装備じゃ。旅に役立つ道具が色々と入っておるぞ。そのマントもクラスにより色が違うから着るがよい」
「このマントは、鎧の上に着るものだろうか?」
神様に説明されても全く意味が理解できない。色々と旅に役立つ道具は理解できるけど、このマントは何のためだ?
俺のクラスがナイトだということを示すためなのか?
「鎧?ふむ、鎧が手に入れれば好きな様に上から着ても構わんが……大抵の者はそんなもん捨てておる」
手を顎に当てて、神様は考える仕草をする。
「え?手に入れたら?好きな鎧をあげてくれないの?」
「何を言っておる?」
「…………」
あれ?
あれれ?
まさか、あのカッコいい鎧もらえないの?
そんな……。
そんな……。
そんな……。
そんな馬鹿な……。
これだとナイトになった意味がないじゃないか。
がっかりし過ぎて思わず両膝と肘を突いてしまった。
「どうすればそんな勘違いが出来るか理解できんが、何を勘違いしたかは理解した。しかし、並べられているあの鎧はあげられん。お前みたいなニュービーが身に着けた所で、一歩も身動きができん」
こんなことがあるのだろうか……。
こんなことが……。
世界は、残酷だ……。
まぎれもなく、残酷だ。
俺に鎧すら与えてくれない。
「あの鎧が欲しければ死ぬ気で鍛えて、悪魔から素材を集めて、鍛造を頼めばいいだけじゃ」
鍛造……。
デーモンドラゴン。
そうか。
そうだ。
その手があったのか。
貰えないのなら自分で作ればいい。
簡単じゃないか。
この俺に出来ないことはない。
「覚悟が決めたようじゃな。それじゃ向こうへ送るぞ。お前が頼もしきナイトになり、この世を“真なる平和”に導くことを応援しておる。行くのじゃ!若きニュービーよ!」
これが、勇者になれなかった落ちこぼれ凡骨ナイトの……全く恵まれない冒険の始まりだった。