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勇者になれなかった凡骨ナイトの報われない冒険!  作者: 白希熊
凡骨ナイトの始まり
10/20

ep10 - 凡骨ナイトは小柄な天使から依頼を受ける!

 俺とギタノはあのまま誰とも話さずに宿へ戻り、翌日まで眠ってしまった。


 一日中エリザに罵倒され続けながらトロールと戦って、街に戻ったと思ったらあの騒ぎが起きたから疲れ果てていた状態だった。


 宿のおじ……ケイロンに、


「なんだてめぇら、生きてたのか……戻ってこねぇからてっきり死んだのかと思ったぜ!アッハハハハハハッ!でもよかった、良かった!」


 とか言われてものすごく腹が立ったけど、揉め合う気力もなかったし……そもそもそんな気力があっても喧嘩したら一撃で殺されそうだし、俺とギタノは無視して俺達の部屋である倉庫へと向かった。


 そして、今朝。


 宿の前にあるバー&レストランに足を運んでいた。

 バー&レストラン。

 その名もバーレス。

 その名の通り、食事を提供しているバーだ。

 結構賑やかで、一日中人で賑わっている店だ。ナイト用の宿の前にあるので、ナイトクラスの者が多いみたいだけど、集合場所としても有名みたいで、パーティ全員で来ている者達もいる。


 店内は大まかに二か所に分かられている。

 店に入ってすぐ前にはカウンターがあり、その左側にはテーブルがずらりと並んでいる。そこは、狩りの後やクエスト完了後に盛り上がって賑わいたい者達が集まる場所だ。みんなが大声で喋ったりはしゃいだり、意味わからないけど肩を組んで踊ったり、図々しくてやかましい賑やかな場所だ。


 そして、右側の方は左側と同じくテーブルがずらりと並んでいるけど、そこは邪魔されずに飲食したい者達向けだ。他のパーティと関わりたくない者達とか、酔っ払いの騒ぎが嫌いな者達が安心して食事がとれる場所だ。

 まぁ、左側の騒ぎが大きい過ぎて店内全体に響くので、右側の方に居ても普通にうるさいけどな。邪魔されないだけで静かじゃない。


 今現在の俺達は、右側の方のテーブルに座っている。


 俺と、俺の隣にはギタノ。

 そして、俺達の差し向かいの席には……エリザが座っている。

 気まずい……。

 めっちゃ気まずい……。

 いつも通りに振舞えばいいだけだというのに、そうそう中々簡単にはいかない。

 昨日のことがあったから、まさかこんなに早くに会えるとは思っていなかったので、心の準備が出来ていなかった。

 ギタノも俺と同じかそれ以上に悪く思っているみたいで、エリザと会ってからはまだ一言も喋っていない。


 今朝、気持ちよく寝ていたのにいきなりケイロンの甲高い怒声に起こされてしまった。起きてみると、エントランスで誰かが待っていると聞かされた。


「早くしやがれ!女性を待たせるんじゃねえぞ!!」


 と、怒鳴っては去っていった。

 起きたばかりのぼんやりした思考で、誰だろう?っと考えてみて、どうしてか自分でもわからないけど、思い付いた女性はランサーのレナだけだった。


 ケイロンが怖いから素早く支度を終えて、エントランスに向かったら、思いのほかエリザがいたのだった。

 彼女はいつも通りの清潔感が溢れる白いローブを身に着けていて、昨日戦ってやられたとは思えない程にピンピンしていた。


 それは、そうだ。


 強力なヒール魔法で回復されたら、どんな怪我でも数分で治療される。

 エリザは、


「大事な話があるから聞いてくれない?朝食おごってやるで、あの店にでも行こう」


 と、言ってきたから俺とギタノはそのまま付いていった。

 付いていくしかなかった。


「そ、それで……そ、その子は……一体……?」


 俺は、頼んだバター焼きのパンとコーヒーを飲食し、今朝から気になっていたことを恐る恐るエリザに尋ねた。

 今朝から……エリザと会った時からここまで、ずーっと彼女から離れないで付いて来ている女の子がいる。


 エリザより微かに背が低くて小柄の銀髪な女の子。

 まだ一度も表情を変えずに真顔のままで、ギタノ同様に一言も話していない。

 地味な灰色のローブで身を包まっていて、フードをきっちり奥まで被っている。フードからはみ出ている銀髪は滑らかで、恐らく長い。

 エリザ同様に大きな瞳は黄金に輝き、顔はまるで紙の様に薄っぺらくって、作り物じゃないかと思わせる。鼻も唇も小さく、眉毛は細くて長い。


 なんか、こう……完璧に描かれた立体感のある写実の絵がそのまま紙から出た感じだ。うーん……簡単に説明すると、人形の様だ。

 完璧に作られた人形の様に見える。

 エリザが小柄な天使ならば、この子は小柄な人形だろう。

 エリザは天然的な美しさで、この子は人工的な美しさだ。


 まぁ、俺が言いたいことはな……この子かわいいけどなんか怖い……。


「そ、そう、この子よ……。あたしが話したいのはこの子の事なのよ……」


 俺が聞いてから、やや間が経ってからエリザがどこか気まずそうに答えた。


 うん?


 何かがおかしいな。

 気まずいのはこっちの方であって、エリザは何も気まずくする理由がないじゃないか……。

 ちなみに俺とギタノが気まずさを抱いでいるのは昨日の出来事に対してだ。彼女が一人で四人を相手にして、危険な状態でやられていたのにも関わらず、見ているだけで何も出来なかったことが情けなくて気まずい。

 エリザのことが好きらしいギタノは、尚更気まずくて顔も会わせられない状態だろうな……。


「あー……その子……誰?」


 俺は気まずそうな気持を抑えながら、困ったようにぎこちなく尋ねた。


「あー!そうよね!そうだったわ!まだ紹介してなかったわね!」


 エリザは今思い出したという風に驚きの表情を浮かべて、両手を隣に座っている女の子に向けた。


「この子は、ソフィア。ソフィア・ホーリーアルケンよ!」


 そして、これからよろしくね!と言わないばかりの笑顔で愛想よく紹介した。

 ソフィア……。

 どこかで聞いた覚えが……。

 昔……?

 どこだったっけ?

 確か……。

 必死に脳裏を探って、もう少しで思いだそうとしていた所で、横から突き刺すような視線に遮られた。

 俺はゆっくりと、冷や汗をかきながら、ギタノの方に向いた。

 ギタノは力強く頷き、俺から目を逸らさずにエリザを顎で示した。


「お、おう……。わ、わわ、わかってるって……」


 怖い……。

 なんでだ。

 確かにエリザを助けようとしたギタノを制止したのは俺だけど……何回も止めたのは俺だけど……。

 相棒であるギタノを想ってのことだよ……?

 そんな目で俺を見ないでね……?

 それに、どうしてかわからないけど……さっきからソフィアというらしい小柄な人形が俺を直視している。

 怖い……。

 超怖いんだけど。

 何……?

 そんなに見ないで欲しんだけど。

 俺プレッシャーに弱いんだけど。

 実は結構繊細な男なんだ……。


 はぁ、仕方ない。


 このままだと我が相棒であるギタノに殴られかねない。

 ここは心にもない罪悪感を抱いて、責任を取らなければならない。

 生きてる限りこういう場面に出くわしてしまう。

 その場面が来る前に死ぬか、それともそれまで生き延びて、周囲のために自分に嘘を付かなければならない。


 そう、男ならいつしかは誰にも……。


 俺は一度深呼吸をすると、出来る限りの真剣な表情を浮かべてエリザを見つめた。


「あ、あのさ……エリザ……」


 いきなりそんな表情で見つめられるとは思っていなかったエリザは、きょとんとした顔で自分自身を指さした。


「な、なに……!?」

「あの、えっと……この前……っていうか昨日さ、俺とギタノ……俺達……」

「え?なに?昨日の事?あー、何だ、それで二人共様子がおかしかったのね……。別に気にしなくてもいいわよ?君たちが何か出来るレベルの問題じゃなかったし、あたしを助けようとしていたら必ず殺されていたと思うわ」


 きっぱり言って謝るつもりだったけど、いざ言い始めたら段々情けなくなって結局エリザから視線を逸らし、もごもごすることしか出来なかった。それを見ていた彼女は手を振りながら俺を遮った。


「えっ?それって……俺達が戦いを覗いていたって知っているの?」


 何気なく言ったエリザに対して、俺は驚きながら少し身を乗り出して聞いた。ギタノも目を見開いて驚いているらしい。


「知っているも何も普通に戦闘中に気付いていたわよ?店と店の間の裏路地に隠れていたんでしょ?ダグロたちも気づいていたはずよ」


 えっ……。

 そんな……。

 まさか……。

 最初から気付かれていたのか?


「ど、どど、どうしてわかったんだ?」

「あんなに取り乱して感情的になっていたら感知スキルで誰だって気付くわよ。潜伏したいのならまずは落ち着いて出来るだけ感情を無にしないとだめだよ」


 はぁ~……。


 エリザが人差し指を立てて得意げに説明すると、俺は長いため息を吐いてテーブルに突っ伏した。

 くそ、ストーカスキルがまだまだ甘かったか……もっと鍛えなえれば……。


「すまない……」


 今まで黙っていたギタノは、俺とは逆にきちんと頭を下げながら申し訳なさそうに謝った。


「良いの良いの!そんなに思いつめないで!この通りあたしは無事だから平気よ。な~んだ、それで二人共おかしかったんだ。これでもう元通りにしていいからね?なんかあたしまで居心地悪くておかしくなってたわよ」


 なるほど、俺達の様子がおかしかったからエリザも居心地悪くて気まずそうにしていたのか……。


「それに……ギタノならともなく、ダグザが気まずそうにするのって正直に言ってキモイ」

「お、おいっ!なんでだよ……!?」


 続いて余計なことを足したエリザに、俺は勢い良く頭を起こして突っ込んだ。


「だってダグザはそんなこと気にしないタイプでしょう?あたしがやられてボロボロになっても、『ハッハハハハ!ぶざまだな、おい!ざまぁみろ!』とかいうクズタイプでしょう?」

「ちげぇよ!言わねぇよ!それまんまロイじゃねぇか!あんな奴と一緒にするな!」


 確かに……全く気にしないし心底では少し笑うかもしれないけど、そこまでは言わないよ?


「あはははっ!冗談だよ!ごめんごめん!」


 いや、子供の前でそういう冗談はやめてくれ……。

 なんか、未だに俺を直視しているソフィアがすごく引いた感じで痛い目で見つめてきている。


「それでエリザ……その子に対しての話はなんだ?」


 やっと元通りになったギタノが、いつも通りの真剣さで改める形で重要な話を戻した。


「あっ、そうそう!ごほん……」


 エリザは思いだした風にパッと表情を変えて、準備するためなのか咳払いをしてから話をつづけた。


「単刀直入に説明すると、無理を通して君たちにこの子の保護を頼みたいの」


 ソフィアと紹介された人形の様な子を手で示しながら気楽な笑顔でそう言われた。


「い、いや……ちょっと待った。単刀直入に言われても……説明してもらえないと……」

「引き受けよう」

「本当!?やったー!!」

「えっ!?ちょっギタノ?説明を聞かずに受けるのか!?」


 ロクな説明も聞かずに急に引き受けるなんて思っていなかったので、俺は慌てながらギタノの方を見た。


「ダグザ……何か問題でもあるか?」


 ギタノは、いつも以上に真剣な顔つきと怒りのこもった視線で俺を横目で見た。


「い、いや……何もないです。……ぜひ引き受けましょう!」


 俺も恐怖でパッと表情を変えて、出来るだけの笑顔を浮かべながらエリザに向き直った。


「流石は後先考えないで行動する二人!話が早い!」


 褒めてるつもりだろうけど全然嬉しくねぇぞ……!

 そもそもこの展開間違ってるよ!超間違ってるよ!!

 後先考えないで行動するのは俺であって、ギタノじゃないじゃないか!

 最初から丸ごとおかしいじゃないか。

 絶対に良くないことが待っている……!

 もう、終わりだ。

 この先が真っ黒だ……。

 きちんとした説明を聞いてないから詳しい情報は知らないけど、自分達の命もロクに守れない俺達二人だ。子供の命を保護できるわけねぇだろう!


「それに、君たちにも悪い話ではないと思うわ。彼女は結構腕の立つアーチャーだから、後衛の遠距離攻撃担当であるシューターがない君たちのパーティにはうってつけだと思うよ!」


 そう指摘されて、俺はソフィアを見つめた。


 アーチャーね……。


 え……ってことはこの小娘も“導きの女神”からクラスを導かれたのか?十六歳以上ってことか?

 えぇ……小柄な十六歳がいたもんだ。

 エリザも小柄だけど、ソフィアと名乗れたこの小娘は頭一つ分小さい。


 うーん……確かに後衛から攻撃を仕掛けるシューター抜きで、前衛クラスのナイト二人だけで狩りをするのはきつい。やっぱりパーティにはシューターが必要だ。

 でも、ね……。


「もちろん、ただとは言わないわよ!出来る限りのサポートはきっちりしてあげるし、莫大な報酬もちゃんと用意する!」


 何だって!?

 莫大な報酬だって!?

 まずは詳しく話を聞かないとな……。


「その話、詳しく聞こうじゃないか……」


 姿勢を正して聞く態勢を整えた。

 隣と正面から半端ない冷たい視線を感じるけど、気にせずに聞く姿勢を保ったままでエリザに詳しい説明を促した。

 彼女は俺が乗り気になっているのを見て、満足そうに身を乗り出しながら説明を始めた。


「この子……ソフィアは大悪の魔法使い――フェルンブラスに狙われているの。今まではあたしが保護してきたんだけど、もう限界でこれ以上は隠しきれないの……だから、信頼が出来て、尚且つフェルンブラスの手下に見当がつかない者達を探していたのよ」

「なんでまた、あいつに狙われているんだ?」


 世界を支配しようとしている者が、こんな小娘に時間を取っていられるのか……。

 それとも、ソフィアにはあいつが欲しい何かがあるとか……?

 それとも、ただの……。


「なんでって……えっとー、それはね……」

「まさか、フェルンブラス……ロリコンだったのか……!」

「そう!そうなの!あの野郎、ソフィアに一目ぼれをしてしまって、手に入れようとしているド変態野郎なの!」

「何ということだ!あいつもロリコンだったとは……」

「ん?あいつもって……?」

「あ、いや、何でもないです、ごめんなさい」


 隣から思わぬ殺気を感知したので、何のこと?という風に首を傾げて聞き返してきたエリザを誤魔化した。

 なぜか、俺の差し向かいに座っているソフィアが、今度は小さく唸りながら俺を睨んでいる。

 あれ?

 どうしてかな……?

 俺、何もしてないよ?

 怖い……。


「それで、本当に引き受けてくれるの?君たちになら任せられるわ!」

「ああ、もちろんだ。心配しなくてもエリザの頼みであれば何でもと引き受けよう!」

「ギタノ、ありがとー!なんか超嬉しい!」


 ギタノのその答えに、エリザは本当に心底嬉しそうに手を合わせて目を輝かせながら微笑んでいる。

 この反応を見る限り、よっぽど困っていたらしい。

 しかし……ギタノはともかく、俺はまだ引き受けるか決断していないぞ。何が何であろうと、引き受けるか受けないかは、やっぱりすべてがあれ次第だ。


「いいや、少し待ってくれ。色々と簡単に説明してもらったけど、まだ一番重要な話を説明してもらってないぞ?」

「うーん……全部説明したつもりだけど……あっ!」

「そうだ。報酬だ!嫌な奴だと思わせたくないけど、それなりのサポートと報酬がなければ引き受けることは出来ないな」

「おい、ダグザ!これはせめてのお詫びの気持ちで……」

「いいや!お前の気持ちと申し分は理解しているつもりだ。しかし、これだけは後先考えずに引き受けることは出来ない。ギタノ、良く考えて見ろ。いくらソフィアが俺達によって保護されていることが敵に見当がつかなくても、駆け出しの俺達にとっては非常に危険度が高い頼み事だ。この地方を支配しているフェルンブラスの手下どもに狙われるんだぞ?俺達より遥かに強い、昨日のダグロみたいなやつらに狙われるっていうことなんだ」

「しかし……」


 ギタノは俺の話を聞くと、顎に手をやってしばしば深く考え始めた。


「それは問題ないわ。確かにダグザが並べたそれらの危険性はあるわよ。しかし、派手なことをしでかさない限り、バレてしまう可能性は低いと思う。ダグロたちもこの街にはもう来ないだろうし……。それに、もしものことがあれば、あたしやギルドのみんながすぐに対応して助けてくれる。……あと、最初にも言ったはずだけど、莫大な報酬を支払うつもりよ。金貨おおよそ一億リア!」


 い、い、一億リアだとぉおお!?


「前払いか!?」

「もちろんっ!」

「問題ない。その頼み正式に引き受けた。さっそく準備に取り組もう!」


 ギタノとソフィアまでもが唖然としながら俺を冷たく見つめていたけど、俺は構わず不敵に微笑むエリザと交渉成立の握手を交わした。

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