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勇者になれなかった凡骨ナイトの報われない冒険!  作者: 白希熊
凡骨ナイトの始まり
9/20

ep9 - エリザ対ダグロの闇パーティ!

「ディバイン・ブラスター!」

「フレイム・ブラスター!」


 エリザとダグロが同時に魔法を繰り出した。


 エリザのロッドからは光り輝く眩しい光線が発射されて、ダグロのワンドからは赤い炎が発射された。

 お互いの魔法は途中で激突し、広場で大きな爆発を生んだ。

 その隙に、狙っていたかのようにエリザは咄嗟に走り出した。ダグロ達に向けてじゃなく、噴水を右回りに進む方向で、ものすごいスピードで駈け出している。


「デイン・メテオ!」


 ローザと呼ばれたダグロのパーティの女性は、いつの間にか両手で紫色の水晶玉を浮かせていた。彼女が魔法を唱えると、走っているエリザを追う形で真上にいくつもの魔法陣が生成されて、そこから黒く燃える大きな玉がどんどん落ちてくる。


 エリザは頭上から落ちてくる黒玉から逃げながら噴水の周りを走っている。


「さっきの怪我を仕返ししてやるぜっ!」


 黒い衣装に身を包まれたロイは、彼を目がけて駈け出すエリザに向かって、赤い光を放ついくつもの手裏剣を投げつけた。いくつもの赤い手裏剣は空中にばらまいてエリザを狙う。

 彼女はロッドで一個の手裏剣を跳ね返し、後から飛んできた手裏剣を次々と目にも止まらない速度で避けた。


「オール・フレイム・アロー!」

「ディバイン・アンカー!」


 ダグロは無数の炎の矢を放つ魔法を繰り出して、それをエリザが大きな光り輝く十字架を生成して塞いだ。


「デイン・シークル!」

「これでも食らえ!オレは止まらねえぞい!」

「オール・ディバイン・アンカー!」


 ローザが持っている水晶玉から紫色の玉が次々とエリザを狙って飛び出し、ロイは止まらずに手裏剣を狂ったように投げつけている。


 うっざー。

 あのロイというヤツ、マジうざいんだけど……。


 それらの攻撃をロッドで弾き、空中で回転や思いもよらぬ素早い動きで避けながら、エリザも魔法で攻撃を仕掛けている。


 すごい、すごすぎる……。魔法だけじゃない。エリザはずばぬけた身体能力も備わっている。あんなアクロバティックな身動き、俺でも出来ねぇぞ……。


「オール・シールド!」


 しかし、彼女の魔法はナイトのジンクによってブロックされている。ジンクは構えている盾を大きく振り上げると、無数の透明な盾がダグロ達を囲んで守ってくれている。


「サンダー・ワイプ!」

「あっきゃっ!?」


 突然、凄まじい速さで動くエリザの右頭に、鞭の様な形をした細い雷が当てられた。その衝撃で彼女は飛ばされて勢いよく地面に転がる。


「エリザ……!」


 背後で唇を浅く噛みしめながら必死で叫びを殺したようにギタノが声を上げた。


「デイン・スフィア!」


 ローザが両手で浮かせている水晶玉から数多くの黒く燃える火玉が出て、転んで立ち上がろうとしているエリザを囲んだ。


「オレは止まらねえぜい!オレの手裏剣は無限大だ!食らえ食らえ食らえええ!!」


 ロイは悪質な笑みを浮かべながら未だに手裏剣を投げつけている。


 おい、ロイ……うざいな、お前。

 超うざいな、お前。

 ちょっと、駄目っとけ……。

 初対面でここまでに人を嫌った覚えがないね。

 この裏路地の隙間から出て、あいつのむかつく顔に一発かましてやりたいくらいだ。

 ただ、残念ながらその勇気は、俺にはない……。

 この圧倒的な戦いを見て、足がぶるぶる震えている。

 こ、怖くなんかないけどな……?


「ディバイン・プロテクト!」


 エリザは痛そうにしながらロッドで力強く地面を叩くと、彼女の体周りが黄色い光で包まれた。それと同時にローザの黒い火玉とロイの手裏剣が襲い掛かった。

 エリザの体を包まれた光のおかげなのか、ローザとロイの攻撃は弾き飛ばされて失敗に終わる。


「ちくしょうおおおっ!仕返しができねえええ!」

「ちっ、あの魔法は厄介だ」

「俺が行く……」


 くそむかつくロイが叫ぶ中に、ダグロが苛立った風に呟くと、さっきから突っ立ったままだけでいたナイトのジンクが掛け出した。


「ディバイン……っ!?」


 盾を前に突きだしながら自分を目がけて駈け出すジンクに気づき、魔法を繰り出そうとしていた彼女は何故かやめて、うろたえながら何歩か後ずさった。


「スペル・ヴォイド」

「え?うぁっ!」


 ジンクの突き出した盾が輝くと、波動の様なものが勢いよくエリザを襲い、体を包んでいた光が解き消された。彼女はその波動の影響で態勢を崩されてしまった。そして、もう目の前には盾を突く出したジンクが迫ってきている。


 やばい、避けられないぞ……!


「ジン……やめ……うぎゃぁっ!?」


『エリザ……!!』


 俺とギタノが同時に一緒に叫んだ。


 エリザはジンクの盾と猛烈に激突し、そのままどこかの店の壁にぶつかるまで、凄まじい勢いで地面に何度も激しく転がり続けた。


「うっぅぅぅ……あっ……」


 彼女は転び止まって倒れたまま動かずに、そこで腹を抱えて悲鳴を上げた。


 すげぇ、まじすげぇ、あのナイトすげぇぞ。

 ナイトはただのブロッカーだと思っていたけど、強かったら普通に戦えるじゃないか。

 ジンクと言ったか?

 俺を弟子入りしてくんないかな……。

 マジリスペクトするわ。


「ダグザ……!口に出していたぞ。お前はどっちの見方だ……?いくらお前でも許さないぞ」


 背後に居るギタノが俺を見下ろして睨みつけている。


「わ、わりぃ……。つい、張り切ってしまった。で、でもあのナイト、本当に強いぜ」

「ああ……!悔しい……!」


 ギタノを見上げて謝ると、彼は同意するとともに心底悔しそうな表情を浮かべて、両拳を強く握った。


 でも、さっきなんか違和感があったな。何だろう……エリザがジンクというあのナイトと戦うのを抵抗していたようだった……。


「ざまああみろおお!!良くやったぞ、ジンク!見惚れたぜい!てめえはやれば出来る男だな!信じてたぜい!ぐはははははっ!」


 いきなりロイが大笑いしながらガッツポーズをして喜んだ。

 いや、マジで……ごめんよ、エリザ。

 お前を助けよりもそいつに一発殴りたい気持ちが上かも知れない……。


「デイン・トラス」


 全員が倒れ込んでいるエリザの所まで近寄っていくと、ローザが捕獲魔法を繰り出した。


「うっあっぁぁ……!?」


 水晶玉からいくつもの気味の悪い紫の縄が飛び出て、エリザの体に厳しく巻き付き、彼女を二メートルほど浮かばせた。


 くそっ……!

 やっぱり、勝てなかったのか……。

 どうする?

 どうしよう?

 どうしたらいい?

 このままだとやばいぞ……!

 でもここから出たら確実に殺される。


「もう我慢ならんぞ、ダグザ……!俺は行く……!今が最後のチャンスだ!」

「いやいやいや、待ってくれ!気持ちはわかる。気持ちはすごくわかるよ!でも、助け出そうとしたら絶対に殺される。俺達が敵う相手じゃない。少し冷静に考えよう……。俺達が死んで、エリザが喜ぶと思うのか?きっと俺達に生きて欲しいに違いない」


 なんとか踏ん張って、俺より一回り大きいギタノを両手で押さえる。


「でも……俺の誇りはこれ以上許さん!どうしたのだ、ダグザ?普段のお前なら……やってやる!とか言いながら助けに行くはずだ。エリザが死ぬかも知れないのだぞ!?」


 ああ、そう言いながら行動して毎回後で痛い目を見ているんだよ、俺は……!


 それに、ダグロ達は女の子を探しているとエリザに言っていた。そして、エリザはその子の居場所を知っている様子だった。

 そもそもエリザがその子の居場所を教えれば、生かしてくれる可能性があるじゃないか。なぜ、彼女はそこまで居場所を守ろうとする?


「最後の機会だ。教えろ。そうすれば命までは取らない」


 パーティメンバー全員と一緒に、エリザが縛られているところまで近づいたダグロは何かを話しかけている。

 正直に言おう、ここからだと何を話しているのかはっきりとは聞こえない。

 遠すぎる。

 噴水の向こう側の方に居るので、噴水の騒音もあるし、具体的に何を話しているのかまでは聞こえないけど、話しているのは確かだ。

 恐らく、もう一度女の子とやらの居場所を聞き出そうとしているのだろうか。

 教えろよ。

 早く教えてやれ。


 俺の目の前に死ぬんじゃねぇよ!


「あ、はははは……。諦めて。死んでも教えない」

「では、死ね」

「うぅっあっぁぁぁぁっ!?」


 エリザを縛っている気味悪い縄はさらに激しく縛り出した。彼女は押し殺したような悲鳴を上げている様子。


 エリザ……!


「おし、える……。お、しえる、から……」

「いいや、君は教えない。時間を稼ごうとしているだけだ。彼らが助けに来るのを期待している。そうだろう?しかしながら、彼らは来ないさ。愛しいエリザよ。君はここで一人で死ぬのだよ」


 ダグロは握っていたワンドの上部をエリザの胸に当てた。

 こ、殺されてしまう……!


「大切な人が死ぬ姿を見るより一緒に死んだ方がマシだ!行きたくないのであればダグザ一人で生き残ってくれ!俺はエリザを助け出す!!」


 そう叫びながらギタノは俺を壁に押し倒して、広場へと駈け出した。

 ああ!もう!


「どうにでもなれっ!!」


 相棒であるギタノを見捨てるわけにもいかないので、俺も覚悟を決意して後に続いた。それに、エリザを目の前に死なせてたまるもんか。


 俺達の小柄な天使だ。


「あら、勇敢な駆け出し坊やたちね……。エリザちゃんの友達?おっと、そちらは今ちょっぴり危険だから、向かうのはお勧めしないね」


 えっ……。


「誰だ!?」

「うっぐぅっ!?お、おい、ギタノ!急に止まるなよって……?」


 は……?

 なんだ……?

 いつからそこに……?


 飛び出したギタノの後を追いかけようとして走り出した俺は、早くも唐突に足を止めた彼の背中に思い切り顔面をぶつけて転んでしまった。

 衝突で痛んだ鼻を抑えながら顔を上げたら、教えてくれなくてもその理由がわかった。


 いつからそこにいたのか。

 前からいたのか。

 最初からいたのか。

 さっきからいたのか。

 それとも。

 丁度今現れたばかりなのか。

 わからない。

 わかるはずなのにわからない。


 わからないけど……彼女は全く違和感のない形でそこに立っていた。


 ずーっとそこにいたかのように、ずーっとそこにいなかったかのような、周囲に溶け込んでいるとしか言えない程に、何の違和感もなく壁に背を持たれて立っていた。

 濃い青色のローブで体を包まれていて、その下には鎧を身に着けているのが見える。女性にしては背が高く、見た限りではスリムな体型をしている。髪型は首周りに留めているボブヘアーで、血で染められたと思わせるくらいに真っ赤だ。

 彼女は壁に背を持たれたまま細長いランスを前に突き出して、広場へ続く裏路地の隙間を封じていた。


 鼻が痛い……。

 鼻血出てないかな?

 指で鼻回り優しく撫でながら確認する。

 血は出ていないようだ。

 良かった……。


「ダグロ達の仲間か?」


 自分の背中に思い切り顔面をぶつけた俺を気に掛けることなく、ギタノは目の前の女性を睨みながら訪ねた。


「いいや……私はエリザちゃんの味方かな」


 彼女は、ランスを突き出したまま、全てを見通しているという表情と落ち着いた声音で答えると、ギタノに微笑みかけた。


「それなら早く助けてやらないと!エリザが、エリザが殺されてしまう!」


 エリザが殺されそうになっていて焦っているギタノが完全に取り乱し、無理矢理にでも広場へと突き進もうとした。

 しかし、壁に背を持たれていた女性はランスの先をギタノに向けて、瞬時に彼を遮った。ランスの刃先は太くて鋭い透明な石英の様で、赤い輝きを放っている。


「まぁまぁまぁ……。焦っちゃだめだよ、焦っちゃ。焦って良いことが起こった例はないね。見てなよ。君たちが行ってもどうにもならないからね」


 彼女はランスの刃先を向けているけど特に怒った様子もなく、落ち着いたままで淡々と喋る。


「あいつ、マジで殺されるぞ!お前、本当に仲間なのか!?」


 裏路地の隙間から噴水の向こう側を窺った俺は、ダグロのワンドが黒く輝きだしたのを見て、ギタノ同様に焦ってしまった。


「だから、見てなよ、ね……?」


 彼女は、俺達から目を逸らさずに、突き出していたランスをポイっと高く後ろへ放った。抛られたランスは回転しながら高く宙を舞い、噴水を越えて……


「うそ……そんなことが……」


 噴水を越えて、ランスは丁度、本当に丁度エリザとダグロ達の間の所で突き刺さった。


 ダグロ達は驚いていっぺんに後ずさった。


 彼女は余裕な笑みを浮かべながら振り向かずに俺とギタノを見つめたまま。

 俺とギタノは言葉を口にできない程に呆気に取られながら向こう側を見つめたまま。

 そして、エリザとダグロ達の間の所で突き刺さったランスは、激しいエネルギーを放ちだした。


「これは、ランサーのスペルブロッカーか……」

「ダグロ!空だ!上を見ろ!」


 ダグロが驚いて素早く周囲を見渡すと、ローザが空を指さした。

 それとほぼ同時に、突如にして空から人が降ってきた。


 そう、俺の見間違いなんかじゃない。


 何を隠そう、確かにここからだと非常に見えづらい。見えづらいけど、本当に空から人が降ってきたのだ。


 その人物はエリザを縛りから解放してくれて、彼女を抱きかかえた。


「大丈夫だよ。女性だ」


 前にいるギタノがそれを見て唸った気がしたから、慰めてあげた。

 降ってきたのは神聖的な装備を身に着けた女性騎士らしい。

 あのクラスは恐らく、パラディンか……。


「空にドラゴンがいる」


 ギタノが口にしたその言葉で、俺は咄嗟にもっと高く空を見上げた。

 そして、そこに浮いていたのはまぎれもなく伝説の魔物、ドラゴンだった。


 だけど、それは……。


「ドラゴンナイトなのか……?」


 ドラゴンに乗って戦う騎士。


 だけど……。


「ドラゴンナイトにはブリーダーが必然だ。しかしドラゴンを育つブリーダーはもう存在しないはずだ」


 ギタノは俺が丁度今考えていたことを口にした。

 ドラゴンナイトは、乗れるドラゴンがいればどのナイトにもなれる。しかし、ドラゴンを育つためと、操るためにはドラゴン専用のブリーダーが必要だと師匠に教えてもらった。そして、そのドラゴンブリーダーはもう存在しないことも教えられた。


「まぁ、ね。それには教えられない秘密があるんだよ。いつか君たちにも知る日が来ると良いね」


 さっきまで俺とギタノを見つめていた女性は、広場の方へと向きながらそんな謎めいたことを言った。


 空高く広場の上に浮いていたドラゴンからは、まだ次から次へと者達が降りていく。最初に降りたパラディンと合わせたら合計四人の者達がドラゴンから既に降りている。


 それに、驚くことに……全員が女性だ。

 ただの女性じゃない。美女だけだ。

 超美女だらけだ。

 何を言おう、俺は誰も騙さない。

 正直者だ。

 ここからだと確かに見えづらい。非常に見えづらいよ。

 でも……申し訳ないけどこればかりはよく見える。

 はっきりと見える。

 見えてしまうのだ

 俺の目は節穴じゃない。

 秘密にしていたけど、美女を覗く時、俺はユニークスキルを発動してまうのだ。

 その名も、鷹の目……。


「聖女騎士団……っ!」


 エリザ達からもう数メートル程離れているダグロからは、あの余裕の態度はもう完全に消えていて、今はどこか悔しそうに唇を噛みしめていた。


「お、おお、お、おいおいおい、どうなってんだ!?こいつらホルルス迷宮で閉じ込められていたはずじゃねえのか、おい!?」


 ロイは思いもよらない展開で困惑しながら頭を抱えていた。


「三日足らずで抜け出せたっていうの……?」


 ローザも空から降ってきた女性軍を見つめて強張っている様子だ。

 ダグロ達の反応を窺う限り、ドラゴンから降りてきたあの美女達は結構やばそうだ。

 まぁ、それも、そうか。

 一人一人がエリザ並みか、それ以上に強かったら、それは本当にやばい……。

 彼女達はエリザを庇う形で周囲を囲み、中には早くもヒールを唱えている女性がいた。


「違うな。外からの助けがあったはずだ」


 ジンクだけは他のみんなとは違い、何故だか変わらずに落ち着いているままだ。

 その時、一つの影が一直線に落下するかのように素早く宙を降った。


 あれで終わったのかと思っていたら、もう一人、後から遅れて降りてきた者がいた。


 残念だけど、何故だか女性じゃない。

 嘘は言わない。

 ユニークスキル――鷹の目発動状態の俺が間違うわけがない。

 俺は誰も裏切らない。

 最後に遅れて降りてきた者は、男だった。


 いや、待てよ……!

 あ、あれは……っ!

 ま、間違いない……!

 ゆ、ゆ、ゆゆ、ゆ……勇者だ!

 英雄とも、

 ヒーローとも呼ばれる。


 唯一フェルンブラスを倒すことが出来ると崇められている最上級のトップに立つクラス。


 俺がなり損ね……なりかね……なれな……なりたくなかったクラス。

 勇者だ。


 あの野郎……。

 勇者に導かれたっていうのか……。

 俺は導かれなかったというのに……。

 ああいうのが導かれるんだな……。

 いや、別に嫉妬しているとかじゃないよ?

 純粋に悔しいだけだよ?

 あいつが俺より遥かに美貌で、イケメンで、男前で、カッコよくて、背が高くて、強そうで、美形で、意味わからないオーラを出していて、頼れそうで、モテそうで、ザ・勇者だから嫉妬しているとかじゃないよ?

 別に落ち込んでもいないよ?

 なりたくなかったし。

 ナイト最強だし。

 さっきのジンクも見ただろう?

 最強だし……。

 ナイト……万……歳……。

 …………。

 …………。


「大丈夫だ。ダグザの方が面白い顔をしている」


 励ましになってねぇよ!!


「それではね。私の名はレナ。また機会あればぜひ会おうね。勇敢な駆け出し坊やたち」


 レナと名乗った、特徴的な赤いボブヘアーのランサーは、俺達から背を向けたまま手を振りながら広場へと向かっていった。


 …………。


「ギタノ、助けに行かないのか?」

「いや、もう完全に出遅れた。それに、居場所もなさそうだ……」

「そうだな……。このままここで見守っていよう……」

「ああ、そうしよう……」


 俺とギタノは同時にうんと頷き、裏路地の隙間から広場を覗き続けた。

 もはや、ストーカスキルをマスターしてもおかしくないレベルだ。

 はん……自慢する気じゃないけど、ストーカに対しては、恐らくあの勇者より俺が遥かに上だろうな。


 勇者は前に踏み出て、ダグロ達へ強い足取りで歩み寄っていくと、彼らは逆に後ろへと引いていく。


 勇者からは、完全に他の者達とは違うオーラが漂っている。


 この者なら出来る、この男ならなんでも遂げてみせる。そういう全能的なオーラだ。

 短く尖った金髪と、見つめたら吸い込まれそうな碧眼が一層そのオーラを増している。

 装備自体は立派で派手じゃないけど、右肩にしか装着していない防具に微かに輝く恐竜のシンボルが刻まれている。

 恐竜は勇者のシンボルだ。

 そのシンボルを掲げられるのは勇者にしか認められない。

 それが勇者である証だ。

 肩防具から赤いマントを羽織っていて、そのマントにも大きな恐竜のシンボルが刻まれている。


 なぜ恐竜なのかって?


 そのシンボルを認識した敵は、誰でも恐怖で震えるからだ。


 か、カッコい……ごほんっ……ダサいな……。

 うん、あまりのダサさに震えそうだ……。


「勇者……っ!なぜここに……?」


 ダグロは苦笑を浮かべながら困惑気味に尋ねる。


「テオゼニール」


 その隣で今も冷静を保っているジンクが呟く。


「仲間が危険だと連絡が届いたのでな」


 勇者は広場に響き良く透き通る声で答えた。

 何だよ、声までも完璧かよ……。


「アハハハッ!一人の仲間のために、何万人の命が掛っている西の戦いを放ったらかしたっていうのか!?勇者失格だな!おい!」


 ロイが震える声で無理矢理悪質な笑みを浮かべて見せて大声で言う。

 強がっているな、あいつ……。

 俺でもわかるわ……。


「西はヒロに任せてある。お前如きに勇者の資格を問われる筋合いはない。仲間でも一般人でも、全員を救う。それが勇者だ」


 か、カッコいい……!

 ち、畜生……!

 認めざるおえない。


「大丈夫だ。ダグザの方が性格悪い」


 だから、励ましになってねぇよ!!


「どうするね、テオ?こいつらぶっ殺すかね?」


 俺とギタノを残して、広場の方へ向かったランサーのレナがたどり着いたらしく、勇者と肩を並べていた。


「二回も酷い目に遭ったエリザを復讐したい気持ちは強いが、一人の女の子を四人で襲う臆病者だ、どうせテレポートで逃げられてしまうよ」


 勇者は肩をすくめながらため息を吐くと、心底残念そうに答えた。


「これはサバイバルだ。公平な戦争なんてない。有利に戦えるならそうするに決まっているのよ」


 ダグロは自分の懐から黒いクリスタルの様な細長い道具を取り出した。


「それなら、どうだ?お前ら四人を俺が一人相手してやる」


 勇者がそう提案してまた一歩前へ踏み出した。


「いや、まだ我々があなたと争う時ではない」


 ダグロは勇者の提案を断りながらも一歩後ろへ引く。


「臆病者め……。消える前に一つだけ忠告をしておこう。エリザに手を出すな。ソフィアは俺の元に居る。欲しければ西のレジスタンスに攻めてくるがいい」

「フフフ……そう怒らないでおくれ。その情報はデマだな。勇者のくせに君にはその勇気がない。何しろそれは我々が決めることだよ。それでは……」


 ダグロは取り出した黒いクリスタルの道具を発動させて、黒い霧に包まれながら発現すると、広場からパーティと共に消え去っていった。


「なんなんだ、あれは?」

「テレポートらしかったな」


 俺とギタノは顔を見合わせて不思議そうに首を傾げた。


「テオゼニール様。東門と西門の方に暴れていた魔物達は、この町の者達が退治されました。これ以外の問題はないようです。恐らく、ダグロ組の仕業だった模様です」


 広場へ走って現れた一人の女性が勇者の前に立ち、かしこまった様子で報告を伝えた。


 なるほど、この広場にエリザ一人だけ残っていたのは、やっぱりそういうことだったのか……。


 これで、問題は治まったみたいだ……。


 特に何もしていないけど、なぜかすごい疲れた気分だ。

 見守るのも大変な役割だなと、新しく発見してしまった。

 まぁ、窺う限り、俺とギタノの居場所はなさそうだから、このまま宿に帰って休もうかな……。


 うん……。

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