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第九十話

第九十話です。

 身体が重い。

 全身が痛い。

 正直、もうこんな強くて怖い人と戦いたくない。

 帰ってシフ達とのんびりゆっくりと過ごして気ままな時間を過ごしたい。


「ははは、粘るなぁ、おい!」


 第三の砦を突破された後も、僕はデウスとの戦いを続けていた。

 上半身を後ろに逸らし、首元に迫った斧を避け、そのまま後転しながらデウスの顎を蹴り上げる。


「ぬぉっ!?」


 先ほどまでの僕は肉体強化に任せてのゴリ押しでの戦いを行っていた。

 でも今は身体に負担をかけないために、戦い方も、右手に握っているライムの形状すらも変えて、回避に主眼を置くことを意識する。


「この感覚、スノウさんとの訓練を思い出す……!」


 意識の明滅の狭間。

 微睡みと現実をいったりきたりしながら、感覚に任せて身体を動かす。

 しかし、先ほどの杭を躱した際に左腕に負ってしまった傷がやばい。血も出ているし、なにより上がらなくなってきている。


「カイト、大丈夫か!?」

「視界が霞んでるし、左腕が上がらなくなってきたけど、ほぼほぼ大丈夫!!」

「それは大丈夫ではなぁい!?」


 ライムを変形させた小剣を右手に持ち、縦横無尽に振るわれる斧を弾き、避ける。

 次に直撃を受ければ確実に致命傷を負ってしまうだろうけど、デウスの攻撃速度自体はスノウさんとリックさんよりも遥かに遅い。


「ハッ、ぴょんぴょん跳ねまわりやがって! 曲芸師かよ!!」

「ただのテイマーッ、だよ!」

「お前のようなテイマーがいてたまるか! だが、その体でいつまで逃げられるかなァ?」


 確かにこのままではジリ貧だろう。

 いつかは僕に攻撃が直撃し、終わる。

 だけど、その前に僕が止めればいい話だ。


「シッ」


 僕を両断しようと振るわれる斧を一旦、変形した盾で受け止め、受け流す。

 いくらか衝撃を受けてしまい支えにした左腕から軋んだ音が響くが、それにも構わずデウスの懐に入る。


「ショックチョップ!」

「うぐぉ!?」


 すれ違いざまに電撃を纏わせた手刀を叩きつける!

 一瞬だけ動きを封じた後に跳躍、そのままデウスの首に足を挟むように飛び乗りながら、斧を持っている丸太のように太い右腕を自身の腕で抱える。


「こっからッ!」


 重心を思いっきりデウスの前方向へと移動させる。

 電撃で一時的に体の自由を封じられたデウスはそのまま、前転するように仰向けにベヒモスの背に叩きつけられたところで———右腕と両足で抱えた右腕をしっかりと極め、腕拉ぎ十字固めを完了させる。


「ライム、僕の左腕とデウスの右腕を固定しろ!」

「きゅっ!」


 ライムが傷を負って動かなくなってきている左腕と、デウスの右腕を縛り付けるように変形する。


「さあ、我慢比べといこうじゃないか……!」

「て、てめっ、だがこの体格差なら……!」


 当然の如く、無理やり身体を動かして僕を持ち上げようとするデウス。

 だが、僕もそこまで考えていなかったわけじゃない。


「シフ、電撃!!」

「……ッ、ああ!!」


 手元の手袋を通じて、シフの電撃付与がデウスと僕自身を痺れさせる。

 し、痺れるけど―――耐えられないほどじゃない!!


「言っただろ! 我慢比べだってな!!」

「ッ、お前も巻き添えだぞ!」

「こちとら痛みには慣れてるんだよ!」


 デウスがもう一度抵抗しようと腕に力をいれるが、もう一度シフの電撃が入る。

 歯を食いしばりながら、それに耐える。


「ぐぉぉぉ!?」

「ぬ、ぐぐぐ!」


 右腕からあふれ出す黒煙もハクロがなんとかしてくれる!

 しかし、これでは本当にどっちかが意識を失うまで続けなくてはならない。

 意地でも気絶する気はないけれど、この状況をどうにかしなくては……!


「———お前らァ! 俺を助けろォ!」

「なに!?」


 苦し紛れにデウスが叫んだ声。

 その次の瞬間にデウスを拘束している僕目掛けて、グリフォンに乗った魔王軍兵士が迫ってくる。


「ハッ、悪いがここで終わりだな! 今右腕を解放すれば命だけは助けてやるぜ?」

「危なくなったらすぐに仲間呼ぶとか恥ずかしくないのか、貴様……!」

「お前が下手にしぶといのが悪いんだよ!!」


 どんな理論だこの野郎。

 どうせ命だけは助けてやるってのも嘘だろう。

 どちらにしろ、終わりだってんなら、最後の悪あがきを見せてやるわ……!


「せめて……!」

「お、なんだ? 聞いてやるぞ、ハッハッハ」

「せめて、この右腕をへし折ってやる……!」

「おい待て! っあだだだだ!?」


 なけなしの肉体強化を発動してもらい、極めた右腕を思いっきり締め上げる。

 空からグリフォンが間近にまで迫り、僕の命運も尽きる―――そう思ったその時、大量の水しぶきと共に、僕達が戦っているベヒモスに衝撃が走った。


「うぉ!?」


 あまりの衝撃にベヒモスが暴れ、極めていたデウスの右腕から手を離してしまう。

 咄嗟に周囲を見れば、なぜか背の高いベヒモスの背が濡れており、僕へ襲い掛かろうとしていた魔王軍のグリフォンが、光線のように放たれた水に撃ち落されているのが見えた。

 僕から少し離れた場所には、右腕を押さえたまま立ち上がろうとしているデウスがいる。


「痛つつ……、おいおい、なんだありゃぁ」


 奴が僕の背後を見て、驚愕の表情を浮かべる。

 目の前の奴に警戒しながら背後を振り向くと―――そこには、驚きの光景が映っていた。


「え、なんだ、あれ?」

「み、水でできた巨人? いや待て、あの中にチサトとリーファがいるぞ!」


 帽子から猫に変身したシフが尻尾で水でできた巨人を指し示す。

 目を凝らすと、確かに巨人の胸当たりに二人の姿が見える。


「は、はは、二人がきてくれたんだ……。ッ、うぉ!?」


 安堵のあまりその場に座り込んでしまうが、僕の足元にいるベヒモスが暴れながら水の巨人へと向かっていく。

 すぐにデウスへと振り向けば、奴は腰にあった不気味に光る魔具を握りしめていた。


「デウス、何を……!」

「あんなもん出されちゃ、計画に支障が出るからなァ! ベヒモスを暴れさせて排除させてやるよ!」


 恐慌状態に陥ったベヒモスが水の巨人の間近へと迫る。

 鮮明になったリーファとチサトの姿を見て、咄嗟に叫んでしまうも、当の二人は怯えるどころか、ムッとした顔になり―――おもむろに巨人の右腕を振りかぶらせた。


「え?」


 振りかぶった右腕にリーファの影が集まりメリケンサックのような形状になる。

 え、ちょっと待って、まだ僕がベヒモスの上に―――、


『カイト君、今助けるからね!』


 巨人は迷いもなく、突撃をしようとしたベヒモスの顔面にその拳を叩き込んだ。

 横っ面を殴られたベヒモスが大きく呻き、水を弾けさせながら拳を振り切った巨人は、次に左腕を掲げる。

 その被害を最も近い場所で受けた僕達は、いつの間にか身体を影で絡めとられながら巨人の右腕の中で―――、


「ごぼごぼごぼ!?」

「が、ヴぁいとぉ……!?」

「きゅぷぅ!?」


 普通に溺れかけていた。

 助けてくれたのはいいけど、まずは助けて!?

なぜか敵の幹部と我慢比べをしだす主人公。

邪魔が入らなければ根性勝ちしていたかもしれませんね。


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