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第八話 

第八話です。



本日二話目の更新です。

前話を見ていない方はまずはそちらをー。


 目が覚めた翌日、僕は診療所を出ることとなった。

 大事をとって一日ほど休ませてもらいはしたが、ずっとお世話になるわけにはいかないと思ったからだ。

 この世界に来た時に着ていた制服はボロボロになってしまったらしく、今着ているのは、診療所であらかじめ用意してくれていた、黒のズボンと灰色のシャツだけだ。


「困ったときは、尋ねてくれ……か」


 お金を受け取ったあと、少し話したがベルセさんには本当にお世話になってしまった。

 ほぼ初対面の僕にそれだけ良くしてくれたのは、少し不気味に思えたけど……多分、悪意はないのだろう。

 それよりも、まずは診療所を出てどうするかだ。


「さて、まずは……どうしよっか」

「きゅー」


 帽子に変身したシフを頭に、元の姿のままのライムの声を聞き、診療所の入り口から周囲を見渡す。

 窓からも外の景色はみていたけど、なんだか元居た世界とは全然違うな。

 人通りも多いし、着ている服も全く異なっている。

 僕の世界では機械とかが溢れていたけれど、この世界はレンガ造りや木造の建物が目立っている。しかし、それで僕の世界より発展していないというわけではなく、街のいたるところに機械に似た道具? のようなものが設置されている。


「あれは……」

「魔具、と呼ばれるものだな。カイトは見るのは初めてか?」

「あ、ああ……」

「おぬしにはこの場所のなにもかもが見慣れないものだが、いずれは馴染んでいくだろうさ。まずは一つずつ順応していこう」


 シフの言葉に頷く。

 まだ慣れはしないが、彼の言う通り少しずつ順応していけばいい。

 小さく深呼吸をして、自分がこれからしようと考えていることを口にする。


「最初は……僕を助けてくれた冒険者さんにお礼を言いに行かないとな。今日泊まる宿は、その後にしよう」

「うむ、そういうことなら早速ギルドに向かおうか」

「たしか、ギルドは診療所の向かいにあるって聞いたから……」


 そう呟き、診療所の向かいを見回すと一際大きな建物を見つける。

 やや幅広い入り口には、軽装の鎧を纏ったいかにも冒険者っぽい人たちが入っていくのが見えたことから、多分あそこがギルドという場所だろう。


「とりあえず行ってみよう」

「うむ」

「きゅっ」


 肩にライムを乗せているからか、道行く人の視線を集めながら通りを横切り、ギルドと思われる建物の前に立つ。


「近くにくると大きいなぁ……」

「ここに立っていると迷惑になる。はやく入ろう」

「あ、そうだね」


 シフに注意されながらもギルドへ足を踏み入れると、そこはちょっとした別世界であった。

 入ってすぐ視界に入ったのは、横に広がる形で作られた窓口と、そこで受付をしているギルドの職員たち。

 そして、そこに並んでいるのが武器と防具を装備している冒険者であり、彼らは屋内にあるテーブルと椅子に腰かけ談笑したり、壁に張り出された紙のようなものを眺めたりしている。

 形は違えど“職場!”といった雰囲気を感じさせる空間に、僕は思わず息を呑んでしまった。


「もしかして、はじめて来た人かな?」

「はえ!?」


 無茶苦茶緊張したまま入り口で固まっている僕に、ギルドの職員らしき女性が話しかけてきた。

 元居た世界では考えられない薄いピンク色の髪の女性は、にこやかな笑顔のまま応対してくれる。


「はじめまして! 私は当ギルドの案内を任されているマイっていいます!!」


 初対面だがすごく元気な人だ。

 その勢いに慄いている僕に、マイさんは続けて話しかけてくる。


「なにか御用かな? あ、もしかして依頼をしたいのかな?」

「いえ、人を探しているのですが……」

「人探しの依頼?」

「依頼ではなく、冒険者の方に危ないところを助けていただいたので、そのお礼を言いたくて……」

「うーん、貴方を助けた冒険者の方の名前はご存知ですか?」


 名前はあらかじめギルド長から聞いてある。

 僕を助けたのは、パーティを組んでいた冒険者の一団でそのリーダーの名前は——、


「ライラさんという方がリーダーをしているパーティの方々なんでですが……」

「ライラさん? 彼女たちが助けたというと……」


 顎に手を当て、一歩だけ下がって僕の全身を見たマイさんは驚きの表情を浮かべた。


「もしかして、喋るミミックの子!? よく見ると、肩に綺麗なスライムのせてるし!!」


 もしかして、ギルドの間でも僕のことは知られてしまっているのか?

 あのオロチとかいう魔物は、僕が想像していた以上にとんでもない存在だったのかもしれないな。

 しかし、喋るミミックってのは一体……。


「カイト、私達シェイプシフターはミミックとも呼ばれているらしいな。私自身、知らなかったことだ」

「ミミックって、魔物のミミックのことか」


 宝箱に化けるモンスターってイメージがあるけど、僕にとってはこっちの方が聞き慣れているな。


「わっ! 帽子が喋った!? もしかして、その子がミミック!?」

「あの……マイさん?」

「あっ、そうですね! さきほど、ライラさん達を見かけたのですぐに呼んできます!!」


 こちらの席に座っていてください!! と僕を空いている席に座るように促してくれると、彼女は物凄い早足でどこかへと行ってしまう。

 未だに視線を集めたままで、少し居心地が悪い。

 すると、シフが僕の頭に被っている帽子から、黒猫に変身しながらテーブルに降り立った。


「隠す必要がないのなら、帽子に化けることもないな」

「だ、大胆だな。君は」

「できることなら、私は目を見て話したいからな。頭の上からではできん」


 そう口にすると、僕達を伺っていた冒険者たちはざわつく。

 変なところで真面目だなぁ。

 肩から手元にまで降りてきたライムを撫でながら、ギルドにきた所感を訪ねてみる。


「君にはどう見える? ギルドは」

「……魔物から見れば、化物の巣窟。私個人から見れば、精鋭揃いの人間が集まる場所という感じだ」

「やっぱり、すごい人が多いの?」


 その言葉にシフは強く頷く。


「ここはおぬしにとって最高の修練の場となる。親交を深めれば、強き者に教えを乞うこともできるし、手合わせすることもできるからな。冒険者として依頼を受けていれば、自然と仲間にできる魔物とも遭遇できることから、そういう意味でも最高の場所だ」

「……」


 ここに入れば僕の力を高められる、か。

 正直な話、僕はこれからどうするべきかは全く分かってない。

 現状、元の世界に帰ることもできないし、目標もない。

 強いて言えば、頼れる人も、お金を稼ぐ手段のないこの状況をなんとかしなきゃならないけど、社会経験もしていない高校生の僕に、まともにそれができるのかも怪しい。

 無言のまま思い悩む僕を見て、シフは僕の手の上に前足を置く。


「カイト。おぬしにその気がなければそれでいい。私としては、おぬしの使い魔でいることが重要なのだからな」

「……ありがとな、シフ」

「フフ、礼には及ばな……っ」

「?」


 僕の後ろを見たシフが、警戒しながら立ち上がる。

 その反応に、僕も後ろへ振り向けば、すぐ後ろにローブを纏った何者かが、すっぽりと被ったフードからじっとこちらを見ていた。

 驚きに声も出せない僕に、謎のくろづくめはボソリと何かを口にした。


「……まえ」

「えっ!?」

「貴方の、名前」


 じ、自己紹介を要求されている……!?

 断ったら、あとが怖いことから、まともな判断ができなかった僕は咄嗟に適当な名前を口にする。


「ジェイコブ……デス」

「ジェイコブ? 本当?」

「僕は、ジェイコブ・ライジングです」


 嘘だろ僕。

 偽名にしろ、もっと賢い名前があっただろ。

 しかし、謎のくろづくめはそれで納得したのか、肩を落とすとそのまま僕から離れていく。

 安堵のままシフの方へ、振り向こうとした時———黒づくめは小さな声で――、


『アリハラ……カイトじゃなかった……』

「!!?」


 そう、僕の名前を呟いた。

 もう一度振り向いたときには既に遅く、そこには黒づくめの人はいなくなっていた。


「獅子原さん……!?」


 もしかして、さっきのは彼女……なのか?

 僕の名前を知っている人なんて、彼女以外に考えられない。

 いや! そもそも聞き間違えなのか? 幻聴かもしれない。


「なんだったのだ。先ほどの黒づくめは。女だってのは分かったが、どうにも得体が知れんな」

「そ、そうだね」

「しかし、偽名を使うのはいい手だったぞ。ああいう輩に名を知られると、面倒なことになりかねないからな。……ん? カイト、大丈夫か?」

「キュー」

「あ、ああ、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしちゃってね」


 早鐘をうつ心臓の音がやけにうるさく感じながら、心配してくれるシフとライムに笑みを返す。

 ようやく動悸が収まってきたところで一安心していると、今度はギルドの奥からばたばたと誰かが駆ける音が聞こえた。

 なんだろう、と首を傾げながら音のする方を見ると、なにやら綺麗な青髪の女性が僕達のいる方にまっすぐと駆けてくるのが見える。

 ついでに、彼女の背後から二人の男女と「ギルド内で走らないでくださ~いっ」と声を発しているマイさんの姿見える。


「お、いた!」


 青髪の女性は僕とシフを見つけると、そのままテーブルの手前で止まる。

 よく見ると、癖ッ毛のある髪を肩ほどにまで伸ばした女性は、快活かつ嬉しそうな笑顔を見せた。


「よかった! 無事だったんだね! 一生懸命担いだ甲斐があったよ!!」


 担いだ? え? 僕を? この人が?

 華奢な見た目だが、目視できそうなほどのパワフルなオーラを感じ取った僕は、満面の笑みの彼女を前にして、笑みを引き攣らせるしかなかった。


ジ ェ イ コ ブ ・ ラ イ ジ ン グ。


偽名は直感で決めました。

そして、ヒロイン登場回でした。


もう少しの間、一日二回更新のまま進めていきます。

その際に、更新時間を変えてみます。


明日は、午前の10時に第9話更新、少しだけ間を空けてから16時に第10話を更新いたします。


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[一言] ジェイコブ・ライジング 強そう((KONAMI感))
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