第六十七話
第六十七話
セルジ様との謁見を経た僕達は、王城に備えている来客用の部屋にまで案内されることになった。
城に勤めているメイドさん達に荷物を運ばれ、案内された先は異様に広い豪華なつくりの部屋。
それを目にして思わず圧巻されてしまったけれど、一つ疑問に思うところがあった。
『こちらがお二人の部屋となります』
『……オフタリ?』
『ええ、お二人のです』
ウフフ、と「なに言っているのかしら、このお方」と言いたげな上品な笑みを零したメイドさんに僕は思わず白目を剥いた。
まるで観光先の宿にやってきた子供のようにベッドに飛び込んでいるリーファに注意する余裕がないほどに慌てた僕はすぐさまもう一つ部屋を用意してもらうように頼んだ。
結果的に、相手側のミスだったのですぐに部屋を用意してもらえたけど、心臓に悪いわ。
「ふぅ、ようやく落ち着けるな……」
今度は一人用の部屋なのか、さきほどより広さはない。
何かなくなっているものがないか、荷物を確認し終えた僕は一息つきながらベッドに腰かけた。
先ほどより広くないというだけで、普通と比べれば見て分かるほどに豪華な部屋だ。
「なんだかドッと疲れた」
「カイト、分かっていると思うが寝てはだめだぞ」
「分かってるよ」
この後、夕食の時間だ。
お腹は減っているし、このまま寝過ごして夕食を抜くのはきつい。
しかし、僕としてはこの場で寝てしまう心配より、別の心配があった。
「リーファ、君はどうしてこっちにいるのかな?」
「———む?」
僕が荷物を確認している間も、勝手に部屋でくつろいでいる相棒をジト目で睨む。
「暇だから? あと、部屋が広いと落ち着かない事実に気付いた」
「影の中に籠ればいいじゃん」
分からなくもないけどさ。
表情を顰める僕に、リーファはしゅんと落ち込むように肩を落とした。
「……カイトがいなくて寂しかった」
「はいはい」
「ちっ」
演技を見抜いた僕にリーファが舌打ちをする。
ものすごく棒読みだったぞ。
「それで、今のところどう? 勇者としての仕事とか、チサトに会った感想は」
「仕事に関しては大丈夫だと思う。チサトは……悪い人じゃないのは分かる。むしろ、とってもいい人」
僕から見てもチサトは悪い人じゃない。
むしろ良い人だ。
しかし、それから続きがあるのかリーファが続けて言葉を口にする。
「でも、私はここの勇者に負けていられない」
「負けられないって……。なにか気に入らないところでもあったの?」
「ううん。そうじゃないの」
妙な沈黙が場を支配する。
リーファは、ややぎこちない様子で視線を逸らす。
すると、僕達の会話を見守っていたシフが口を開く。
「カイトよ。恐らくリーファは、同じ勇者として負けられないと言いたいのではないか?」
「そうなの?」
「うん……? うん、その通りだよ」
違うっぽいなぁ。
なんとなく、反応で分かる。
やはり彼女自身、チサトと実際に会ってみて思うところでもあったのだろう。
あまり追求しないでおこう。
「さてと、夕食までにまだ時間があるし、本でも読むか」
カバンを漁り、その中から二冊ほど本を取り出す。
「? いつの間に本なんか持ってきたの?」
「僕の勉強を兼ねて、丁度いいと思ってね。本は以前セラさんからいただいたんだ」
本の内容は、かつての魔王と人間との戦いを小説としてまとめたような内容のものだ。
少しずつ文字の練習をしてきて、結構スムーズに読めるようにはなったが、この世界で生きていく基準には達してはいない。
「リーファも読む?」
「枕にしていい?」
「駄目」
「じゃあ、代わりのちょうだい」
「図々しいな、おい。はぁ……ハクロ」
ハクロを呼び出し、ベッドに横になってもらうようにお願いする。
すると、ハクロの半透明の毛並みにリーファがよりかかった。
「モフモフ、満足」
「全く、君というやつは……」
お気に召してくれてなによりだよ……。
困惑した様子で僕をチラチラと見るハクロの頭を撫でた僕は、膝に飛び乗ってきたシフとライムと共に開いた本を読む。
ライムは文字は読めないけど、シフはしっかりと読めるので彼に注釈とか、読めないところを教えてもらいながらゆっくりと文字を目で追っていく。
「私達の実力を見せるって話だけどさ」
「んー?」
静かな時間が過ぎていく中、ハクロの身体に手を添えながらジッと天井を見つめていたリーファが話しかけてくる。
本から視線を外さずに返事を返すと、彼女は続けて言葉を発する。
「チサトに負けないくらいの力で、全力でいく」
「まあ、そうだね。やっぱり勇者って立場で比べられるかもしれないから、気合をいれなきゃならないだろうし」
ぶっちゃけ、セルジ様も口には出していないが、無意識にチサトとリーファを比べているように思えた。
チサトが歴代でも類まれな才覚を有しているから、そういう目で見てしまうのも当然かもしれないが、僕にとってもあまり気分のいいものではない。
そういう意味では、リーファが全力で臨むのを止めはしない。
「カイトも全力」
「え、なんで?」
僕はリーファの従者という立場でここにいるわけだし、そこまではりきらなくてもいいのでは?
あくまで僕がどれだけ戦えるかどうかを証明すればいいだけだし。
「本気出さないで嘗められるのは嫌。カイトは私の従者だもん」
「私もカイトが弱く見られるのは嫌だぞ」
「キュ!」
「ワォン」
「わ、分かったよ」
さすがにシフ達にまで言われると頷くしかない。
実力を見せるっつったって、誰かと戦うわけじゃないだろうし、実戦ではあまり使えないような大ぶりな技を見せるのもアリだな。
「……よし、あれでいくか」
あれなら派手だし、インパクトもある。
頭の中でどのような技を出すか考えた僕は、今一度本に意識を戻そうとする。
しかし、その前に僕のいる扉がノックされる。
「カイト様、夕食の準備が整いました」
「どうぞー」
「? 失礼します。……リーファ様もいらっしゃったのですか?」
なぜか部屋の主の僕よりも先に返事をするリーファ。
怪訝な様子で静かに扉を開いたメイドさんは、驚きの表情を浮かべながら本を閉じた僕を見る。
「勝手にきちゃったんです。勘違いしないでいただけるとありがたいです」
「私を迷い込んだ人みたいな扱いしないで」
「この大型犬が勝手にきちゃったんです」
「人扱いを不満に思ったわけじゃないからね?」
だって、普段の君を見ているとぶっちゃけ大型犬みたいだし……。
食いしん坊だし、自由に行動してくつろいでいるし。
野生を忘れたシベリアンハスキーかよ。
「フフ、とても仲がよろしいようですね」
そのうち変な噂とか立ちそうで怖い。
この城のメイドたちだけでもかなりの人がいそうだし、既に色々話が出回ってそうではある。
まあ、さすがに外に漏れることはないだろうけど、そう考えるとちょっとげんなりしてしまう。
「勇者様にも貴方様のような従者の方がいればよかったのですが……」
「そういえば、チサト……こちらの勇者には従者の方はいないんですよね?」
「はい。あの方は頑なに正式な従者を選ぶことをしませんでした。今、彼女に付き従っているメルは、あくまで仮の従者でしかありません」
純粋に勇者としての力についてこれるような人がいないか、そもそも従者を必要としていないか。
いや、でも彼女の戦闘を考えるなら、前衛は必要なはずだ。
「お話はここまでにして、リーファ様、カイト様、夕食のご用意ができましたので、ご案内いたします」
「カイト、何してるの? 早く行くよ」
「君という奴は本当に……」
やけに機敏な動きを見せるリーファの言葉に苦笑した僕は椅子から立ち上がり、脱いでいたジャケットに袖を通す。
フィルゲン王国の料理。
うん、楽しみだな。
次回の更新は、月曜からとなります。
土日はお休みとなりますので、よろしくお願いします。




