閑話 その頃、彼女は———
本日二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
そして予告通り、別視点、獅子原千里の閑話となります。
有原海虎。
彼は、ちょっと顔を合わせるだけのクラスメートであった。
私自身、元よりあまり男子とは話さないこともあって、彼のことはよく知らない。
分かることと言えば、いつもクラスの男子、2、3、人ほどで固まって談笑しているのを見かけたくらいだ。
いや、動物に極端に好かれないって話は聞いたことあるかな?
初めてそれを耳にしたときは「不便だなぁ」とか「大変だなぁ」って他人事のように思っていたけども、実際、本人的にはどうなんだろ?
正直、今はそんなことを考えている場合じゃないのは分かる。
なにせ、私は彼とははぐれてしまったのだから。
転移魔法陣。
ファンタジーなどでよく見かける魔法陣にどこかしらに転移されている最中、有原君が魔法陣から弾き飛ばされてしまった。
光に呑まれていく彼を見ていることしかできなかった私は、気づいたらどこぞと知れない広間の真ん中でしりもちをついていた。
『突然、申し訳ない。ここはフィルゲン王国、王城の広間だ。唐突だが、おぬしは勇者の素質を持つ者として選ばれた』
なんともまあ、それっぽい王様が呆然としている私にそんなことを言ってきた。
続いて、どこの人間だ? と聞かれたので、自分の住んでいる国―――日本と答えると、王様は不思議そうに首を傾げた。
『……はて、我が国にそのような場所があったか? 召喚陣は、王国内とその周辺にしか適用されないはずだが……。そこがどのような場所か教えてもらっても構わないだろうか?』
何やら周りがざわざわとしてくるのを感じながら、日本のことについて説明すると、王様を含めたその場にいる全員が顔を青ざめさせた。
この時点でなんとなくこの人たちが故意に異世界にいる自分を呼び出したわけじゃないと察したけど、まさか全力で謝罪されるとは思ってもいなかった。
『すまない……! 本来、我が王国の者から選出されるはずが、我々の不手際で異世界からおぬしを召喚してしまったようだ……』
王様の側近の方が言うには、私と有原くんの足元に出てきた魔法陣は『勇者召喚魔法陣』というものらしい。
その魔法陣は本来、その王様が治める領域のみに限定されているらしく、勇者の素質を持つ者を設置した魔法陣に呼び寄せるという単純なものだった。
なので、王様としては自国の民から勇者の素質のあるものを選出し、かつそれを事前に民に知らせることでいざこざが起きないように配慮していた……はずなんだけど、そこで異世界にいる私が召喚されてしまったことで、問題が生じた。
勇者召喚魔法陣が、王の治める地に勇者の素質をもつ者はいないと判断したのか、それとも魔法陣そのものに重大な欠陥があり私が召喚されてしまったことかは定かではないけれど、これは王様達にとっても私にとっても大きな問題となった。
『あああ、まさかこのようなことが起きるなんて……こういう事態を避けるために、民に事前に知らせておいたはずなのに……』
物凄い罪悪感にかられている王様を見て、なぜか私まで申し訳なくなってしまった。
そこで、ようやくなぜ自分が召喚された理由を明かされたが、それは魔王という魔を司る王が新たに誕生したかららしい。
新たに誕生する、と聞いて疑問に思ったけれど、魔王という存在は固有のものではなく、強大な力を持った魔の王ということらしい。
実際に、過去にも何人か現れて国やら人類やらを危機に陥れてきた傍迷惑な存在とのこと。
それに立ち向かうために、大陸に存在する各王国で『勇者召喚魔法陣』を発動させ、民から勇者を選出し、力を合わせて魔王とそれに従う者達と相対する―――というのが、勇者に選ばれてしまった私の使命らしい。
『それじゃあ、もう一度召喚すればいいんじゃないですか? あと、私は帰れるんですか?』
物凄く落ち込みながらそう説明してくれる王様達に、そう訊くと返ってきた答えは無理とのこと。
元より『勇者召喚魔法陣』は決まりにより各王国に一つしか保有は許されていないらしく、それを破れば、その制裁として他国からの繋がりを断ち切られてしまう。
そもそもの話、勇者召喚魔法陣はその作成に気が遠くなるほどの時間を要するらしい。
私が帰れるか、についてだが、元より自分の国の民を召喚するだけの魔法陣に普通に帰らせるだけの機能を作る意味があるはずがないとのことで、現状では無理と言われた。
とどのつまり、私は今は帰れず、どこにもいくことができず、ついでに言うなら孤立無援のボッチということになる。
「どうしよっか……」
ここまで考えをまとめて、改めて周りを見る。
正直な気持ちとしては、王様が普通に傍若無人な人だったら、このままぶん殴って窓パリーン! して、逃げ出せるんだけど——ここにいる人たちの絶望した顔を見せられると、なんだか放っておけなくなってしまう。
「……有原君」
有原海虎君。
ここに召喚される寸前、少しだけ話したクラスメート。
私が彼を巻き込んでしまった。
きっと、彼は勇者召喚とは関係なかったはずなんだ。だから魔法陣に弾かれてしまったし、今ここにはいない。
……彼を見つけなきゃ。
「あの、勇者としての使命……受けます」
「……むっ!? いやしかし、おぬしは異世界の……我らのために危険に身を晒す必要はないのだぞ!?」
「いえ、私にもこの世界でやることができました」
「それは……」
広間にいる人々が私の声にざわつく。
それに構わず、私は続けて言葉を発する。
「私、有原君を……一緒にここに飛ばされた人を探します」
有原君、その名前を聞いて王様は首を傾げた。
「ふ、ふむ? その、アリハラクンとは何者だ?」
「私と一緒に来てた人。有原海虎くんです」
「それは……君と同じ、勇者……ということか?」
「いえ、巻き込まれた普通の人です。召喚されるとき、魔法陣から弾かれちゃったんです」
「……え、弾かれちゃったって……召喚されてる時?」
「はい。確実にここに飛ばされてると思います」
「……」
「……」
静寂。
王様を含めた誰もが口を閉ざす。
数秒ほどして、ようやく事態を受け入れた王様は顔を真っ青にさせたまま、部下らしき人へと振り向いた。
「い、今すぐ、アリハラ・カイトなる人物の捜索を開始させるのだァー!!」
「は、はい! ただちに!!」
静寂から一転、ばたばたと騒がしさに包まれる広間。
その真ん中で私は、密かに覚悟を決める。
元の世界に帰れる可能性はほぼ無に等しい。
未練はある。とても、とってもたくさんある。
「……」
今更、それを自覚し視界が滲んだが、誰にも気づかれないように目元を拭う。
本当は目の前の人達を責めるべきなんだろうけど、彼らが私を召喚したのはわざとじゃない。
責めるべきは誰もいない。
強いて言うなら魔王というはた迷惑な奴のせいなので、もし出会ったら一発ぶん殴らなきゃ気がすまない。
「でも、その前に……」
この世界を生き抜くために強くなって、有原くんを見つける。
会って、謝ろう。
まずはそれから……それから、あとのことは考えよう。
勇者召喚の設定と、大まかな敵となる魔王の存在について情報を開示した感じですね。
次回からは再び、カイトの視点に戻ります。




