第六十話
第六十話です。
馬車での旅は、以前のグリフォン退治の時の遠征とはまた違ったものであった。
うまく言い表せないけど、前はゆったりとした旅だったけれど、今回は馬車という固有の空間でのものなのでどことない優雅っぽさを満喫できる感じだ。
元の世界でいうバスと新幹線に近いかもしれない。
「今回の任務についてですが、ジェフさんはどのように聞いているのですか?」
夜、道の端に馬車を止めた僕達は、その近くで夜営を行うことになった。
焚火をし、そこを囲むように休息を取った僕は、見張りを行ってくださっているジェフさんに気になったことを質問してみた。
彼は僕の質問に少し思い悩む様子を見せながら答えてくれる。
「勇者様と貴方を無事にフィルゲン王国に護衛することが、私達にとっての最優先の任務となりますね」
「その後は?」
「形式としては、あちらの者に引き継ぎ私達は待機となります。それから先については、カイト殿がご存知かと思われます」
僕達は、最初に訪れるのはフィルゲン王国のギルドだ。
名目としては隣国から依頼でやってきた冒険者という肩書らしいので、現在僕達と同じようにギルドに入ったという獅子原さんと、あちらのギルド長と合流するとのこと。
それから、特別に用意された場での実力の把握。そして互いに付き従う従者の確認―――は、獅子原さんは従者を連れていないのでなしになったんだな。
あとは、あちら側の国王様への謁見と、他にやることがたくさんあるとのこと。
「正直、リーファにできるか不安です」
「ちょっとどういうこと」
傍らでくつろいでたリーファが抗議の声を上げる。
「いや、君、基本面倒くさがりで、奔放なところもあるし、食いしん坊だし」
「か、カイトだって動物バカだし、テイマーなのに殴りかかるし、夜な夜な変な声して外で暴れてるくせに……」
「おいちょっと待て、その言い方は誤解を招くぞ」
「事実だもん」
サッと周りを見れば、コソコソと話している騎士さんが僕から視線を逸らす。
い、いかん、このままでは僕が夜な夜な何かやらかしている変態みたいな扱いに……!?
「ハッハッハ、お二人とも随分と仲が良いご様子で。さすがはコンビを組まれるだけはあります」
なんとか、リーファに訓練だっていうことを訂正させるように頑張っていると、にこやかに笑ったジェフさんがそんなことを言ってくる。
「いやいや、もう子供みたいなところが沢山あるので、苦労しっぱなしですよ」
「うむ、こやつの私生活はだらしないぞ。あまり勇者に夢を見るべきではない」
「フンッ!」
「痛い!?」
座った体勢のままリーファが器用に繰り出したキックを食らう。
やったな、と思った僕は振り返ると同時に、リーファの両頬を摘まむ。
「こらっ! 暴力はいけないって言ったでしょ!」
「むぐぐぐ、いひゃだ~」
「カイト、電撃! 電撃付与流すか!?」
「キュ! キュー!」
さすがにそれはかわいそうだからやらなくてもいいよ!?
シフと、なぜか身体をぐねぐねと変形させているライムを鎮めながら手を離すと彼女は頬を手で押さえる。
そんな僕達の様子を見ていたジェフさんは、堪えきれなかったようで笑みを零していた。
「———失礼。なんというべきか、貴方様の年相応なところを見られて少しばかり安心しました」
「年相応?」
「ええ、勇者としての使命は誉れあるものではありますが、若くしてそれを背負うにはあまりにも重すぎる。正直、リーファ様お一人では、不安の声も上がっておりましたが……カイト殿が従者としていてくださるのならば、その心配も杞憂に終わりそうです」
「……」
リーファ、すげぇ心配されてたんだな……。
まあ、召喚された当時のリーファはまだ才能を開花させておらず、今以上に暴走する可能性を秘めた危ないやつだったからな。
そういう意味で、純魔の魔力によりある程度抑えがきける僕の存在は彼女にとってプラスになったのかもしれない。
「……そろそろ私共も周囲の警戒へと移ります。お二人はゆっくりとお身体を休めてください」
「あ、はい。分かりました」
見回りへ向かっていくジェフさんと二人の部下さん達を見送った僕は、今一度その場に腰を下ろす。
すると、先ほどからずっとしかめっ面を浮かべたリーファは、焚火の前で膝をかかえると、静かに口を開いた。
「……カイト、あっちの勇者って、どんな人なの?」
「獅子原さんのこと?」
「うん。そのシシハラ」
どんな人かぁ。
正直、クラスでもあまり話したことないから、大雑把な特徴しか言えないんだよね。
まあ、リーファにとっては獅子原さんのこと自体全く知らないだろうから、僕の知っていることはちゃんと教えておこう。
「そうだね。……本が大好きで、のんびりした人だよ? リーファとちょっと似てるかもね」
「……」
「なんでそこでムッとした顔になるのが分からないんだけど」
「ムッ」
「しかも声に出したぞ……」
どういう感情の顔なのそれ?
ムッとしたような、不安そうな、それでいて何かしら気に入らなそうなそんな顔をしているリーファに首を傾げる。
「私と似てる。つまりはライバル」
「……どういう理論だと思う? シフ」
「うぅぬ、私にも分からん」
「負けられない……!」
ぐっと握りこぶしを作るリーファ。
とりあえず、獅子原さんに対抗意識のようなものを抱いているようだ。
悪い人じゃないから、心配なんてしなくてもいいんだけどなあ。
「とりあえず、変につっかかるのだけはやめてくれよ」
「……そこまで失礼じゃない」
「そりゃ分かってるけどさ。一応ね」
あちらの勇者である獅子原さんと、こちらの勇者であるリーファとの間に問題が生じれば、色々と面倒なことになりかねない。
いわば、今回の催しは勇者間での連携と、活発に動き出そうとしている魔王軍への対策を講じることを目的としている。
勇者がいない手薄な王国を狙われたらどうするって考えもあったらしいけれど、その部分についてはジェシカ様は、どこか自信に満ち溢れた様子で「この王国は絶対に安全だから心配しないで」と言ってくれていたので、それほど気にしなくてもいいらしい。
「でも、どんな魔法を使うかは気になる」
「それはたしかに。歴代でも見ないくらいの魔法の才能に溢れているらしいからなぁ」
「……それに比べて私の魔法は……」
もしかすると、ニーア以上の魔法をぽんぽん放ってくるとかだったら、本当に凄い。
そう考えていると、僕と同じようなことを考えていたリーファが項垂れながらため息を吐く。
「リーファ、君の魔法には君だけの強さがあるんだ。たしかに君の魔法は地味で、その戦い方もどちらかというと悪役に近い、えげつないものばっかりだ」
「ねぇ、それ褒めてるの? 褒めてるつもりあるの?」
おかしい、ちゃんとフォローしようとしているつもりが、なぜか彼女の魔法を下げることになってしまった。
「単純な力技ではなく、その応用性こそが君の魔法の真の長所だと僕は考えている」
「……ありがとね、カイト」
「どういたしまして」
お礼を言ってくれたリーファに頷き返しながら、僕は改めて焚火の光をジッと見つめる。
これから訪れるは、僕にとっての未開の土地、フィルゲン王国。
なにやら湖や川の多い国だとは聞いているけど、実際はどうなんだろうな。
また新しい景色を見ることができるかもしれないので、ちょっと楽しみにしている。
次回より、フィルゲン王国編の開始となります。




