第四十九話
第四十九話。
先輩テイマー、現る。
フランさんによる弓講座は、僕にとってかなり有益な時間であった。
弓を扱うことに不安はあったけれど、彼女の教え通りに弓を練習したことで、相手に矢を当てることくらいならできるくらいには成長できた。
正直、リーファとの連携はまだ危ないからできないけど、それはこれから練習して実現していけばいいだけの話だ。
「カイト、今日はなんの依頼を受ける?」
僕達の日常は基本的に訓練による自己研鑽と、ギルドの依頼を受けることになっている。
今日もリーファと共にギルドで依頼を受けるべく、ギルドの酒場のテーブルで飲み物を飲みながら受付のマイさんからもらった依頼書の写しを見ていた。
「僕としては手早くこなせる依頼が受けれたらいいんだけど」
「ならこれは? 果物農園に迷惑をかける鳥型モンスターの排除。これは、ついさっき出た依頼みたい」
リーファが差し出してきた依頼書を手に取りそれに目を通す。
依頼『果物を食い荒らす鳥公をなんとかしておくれ!!』
内容としては、名前通りに果物を食い荒らす鳥型モンスターの排除。
毎度思うけれど、この依頼書の名前とかどういう基準で決められているのだろうか。緊迫感とか、必死さが伝わるけど、それが目的なのだろうか?
「それじゃ、果物農園の方の依頼を受けてみる?」
「うん」
「カイト、依頼が決まったか? ならば、行こう」
「キュ!」
シフとライムにも急かされてしまったので、一人席を立った僕はすぐさま受付にいるマイさんへと持っていく。
依頼書の写しと、受けようと考えている依頼書を渡すと、途端にマイさんが申し訳なさそうな顔をする。
「あ、ごめんね。その依頼、ついさっき別の人が受けちゃったの」
「え、そうなんですか?」
まあ、依頼は基本早い勝ち者みたいなところがあるからしょうがない。
そう思い、別の依頼を探そうとリーファに相談するべく彼女達のいるテーブルへと戻ろうとすると―――、
「ちょっといいかな?」
「え? 僕ですか?」
「そう、そこの君だ」
誰かに声をかけられる。
振り向くと、そこには赤色の髪の女性がいた。
右腕には鉄製の籠手、革製の胸当てをつけたその人は、気安げな笑みを浮かべながら僕へと近づいてきた。
「先ほどの依頼、受けたのは私なんだ」
「……あっ、いえ、別に不満に思っているわけではないので、気にしなくてもいいですよ」
「ふふ、そういうことじゃなくてね。君達をこの依頼に誘おうと思ってさ」
……どういうことだ?
全く意図が分からない。
「ああ、すまない。先に名乗るべきだったね。私はセラ・ノーグルス。君と同じテイマーさ」
「あっ、これはご丁寧に。僕はアリハラ・カイトと申します」
この人もテイマーなのかぁ。
なんだか親近感湧くけど、この人と僕ではテイマーの意味合いが違っているんだろうなぁ。
ぼんやりとそんなことを思っていると、胸に手を当てたままドヤ顔を浮かべていたセラさんの表情が引き攣った。
「……エッ、もしかしてリックから私のこと聞いてない?」
「リックさんのお知り合いですか?」
「……あ、ああああ、あの適当野郎……! グリフォン退治に行く前に、名前教えとけって言ったじゃん……!! 絶対、忘れてたなぁ……!!」
口元を手で押さえ、なにやらブツブツと呟き始めるセラさん。
一方で僕はリックさんの知り合いと聞いて、頭の中である考えが浮かんでいた。
「もしかして、リックさんのお知り合いのテイマーの方でしたか!? ゴールドランクの!?」
「そ、そうなんだ。……あ、いや、別に君達の依頼と被っちゃったのは偶然で、ちょうどいい機会だから話しておこうと思いまして……」
なんだか、すごい情緒の激しい人だな。
ゴールドランクの方と会うのは二人目だけど、色々な意味でキャラの強い人の枠組みなのだろうか。
しかし、あちらから誘ってくれたのなら厚意に甘えるべきだ。
「依頼、同行させていただいてもいいのでしょうか?」
「もちろんさ。同じテイマーとして、君達のことは気になっていたからね」
そしたら次にリーファ達へ相談しなくちゃな。
僕はセラさんを連れながら、リーファ達の元へと移動する。
僕と同じテイマー、それに加えてランク・ゴールドにまで上り詰めるほどの実力者だ。
そんな人が、どんな使い魔と共に戦っているのか、それを密かに楽しみにするのであった。
●
リーファ達の同意を得て、果物農園を襲うモンスター討伐の依頼へと向かうことになった僕達。
そこにランク・ゴールドのテイマー、セラさんが加わることになったのは予想外だった。
「まさか、依頼を受ける最中にこのような実力者と接触するとはな。運がいいな、カイトよ」
「キュー」
「そこまで言われるほどかな……」
運がいい……のか?
足元を歩くシフの言葉に苦笑していると、少し前を歩いているセラさんがこちらへと振り向いた。
「君達がカイト君の使い魔たちでいいんだね?」
「うん。そう」
なぜかここでリーファが頷く。
おい、そこで頷くと、君が僕の使い魔みたいな扱いになるだろうが。
案の定セラさんが、リーファを見て勘違いをする。
「えっ!? 君も!?」
「君は違うだろ」
「カイトの魔力で強くなる。実質、使い魔同然」
なぜにドヤ顔? それでいいのか君は。
おかしいよね? そこで自信満々になる理由が全く分からないんですけど。
「現在、僕の使い魔は三体ですね。シェイプシフターのシフと、ミスリルスライムのライム、そして風の魔物のハクロがいます」
そう口にしながら、ハクロを呼び出し傍へ控えさせる。
ハクロの姿を見たセラさんは、目を見開き驚きを露わにさせる。
「カイト君、その子は……」
「少し事情があって、この子を預けられました」
「そう、か、ならなにも聞かないよ。でも、噂通りだね」
「噂通り……?」
噂とは?
僕のあずかり知らぬところで、また別の騒動が……?
「ここでも有名になっているよ? 喋る黒猫を連れたテイマー、スライムで殴るテイマー、異世界疑惑の男、遺跡壊し……色々あるね」
「まあ、大体合って……って、遺跡壊し!?」
なにその要注意人物認定されそうな噂!?
まさか、オロチの遺跡を崩壊させたから、そう呼ばれているの!?
てか、地味に異世界疑惑の男ってまずくない!?
「オロチの遺跡を崩壊させながら脱出したのは、私達の間でも有名になっているからね」
「そんなにですか……」
「奴は、魔物にとっても人間にとっても脅威だ」
「オロチは見境がないからな。目に映るもの全てが捕食対象でしかない」
実感の籠ったようにそう呟くシフ。
心なしか、腰の水筒にいるライムも怯えているように見える。
そんなライムを撫でていると、何を思ったのかリーファがセラさんへと話しかける。
「ねぇねぇ、私は? 私のはある?」
「……え、えーと……」
「……」
困ったように視線を逸らすセラさんに、真顔になるリーファ。
おい、そんな恨みがましい目で僕を見るな。
僕のせいじゃないからね?
「セラさんの使い魔ってどのような魔物なんでしょうか?」
「そういえば、連れている様子もないな。今回の依頼には連れてきてはいないのか?」
「連れてきているよ。一体だけだけどね」
そう言って、鉄製の籠手の嵌められた腕を掲げると、上空から風切り音と共に何かが降り立ってくる。
セラさんの腕に降り立ったのは、黒い罅だらけの鳥―――翼をはためかす度に火の粉が舞い、罅割れた隙間からはマグマのような橙色の光が漏れ出している。
幻想的とさえ思える姿をしている鳥は、僕をジッと見つめる。
「私の相棒、フレイムバードのフィードだよ」
「クォーン!」
フレイムバード。
炎の鳥、まさしく姿通りの名前だけれど、その体から伝わる力強さは並みのものではない。
「この子は私にとっての最初の使い魔でね。ずっと付き合ってきた友だ―――」
「クォ!」
「げはぁ!?」
「せ、セラさぁぁん!?」
笑顔のまま翼で頬を叩かれるセラさん。
噴き出す彼女を無視したフレイムバードのフィードは、僕を品定めするように見下ろしている。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫大丈夫、これ、この子の愛情表現だから。ウ、ウフフ」
「クォ!」
「カイト、こやつ、嘘かと思うかもしれないがセラ殿に全幅の信頼を寄せているぞ」
信頼しているが故のツッコミ、というやつなのだろうか?
でも、この人やべー人なんじゃないのだろうか?
なぜか恍惚の表情で、頬を押さえて座り込んでいるセラさんにドン引きする。
「カイト君、あとで君達の使い魔を見せて……いいや、触らせてもらっても、いいかな……ッ!」
「ヒッ!?」
「キュ!?」
俯きながら、なぜか力強い声でそう訊いてきたセラさんに、シフとライムが小さな体を震わせた。
「だ、駄目だぞ! あやつは存在が邪だ!」
「キュ、キュー!」
「そんなことないよ! 愛だよ!!」
素直にドン引きです。
普通そうに見えたけど、使い魔とか魔物のことになると途端に変になったな……。
ひたすらにセラさんに引いていると、僕を見下ろしていたフィードが、こちらに近づいてきた。
「クォー」
「え? え? は、はい……」
なんともなしに、腕を掲げてみると、ばさりと僕の腕へと降り立ってくる。
満足そうにもう一度鳴いたフィードは、その翼を僕の頬へと擦り付けてくる。
「クォーン」
「く、くすぐったいな……」
「フィ、フィード!?」
セラさんの慌てる声が聞こえる。
鳥とか吠えられたりフンを落とされたりとかしてなかったけど、近くで見ると可愛いんだな。
見た目はワシみたいだけど、意外と軽い。
「……」
……しかし、虚ろな目で僕を見てくるセラさんには、何か言った方がいいのだろうか?
というより、怖くて後ろを振り向けないんだけど、この場合どうしたらいいのだろうか?
魔物大好きテイマーのセラさんでした。
キャラ設定にかけた時間、約五秒。




