第四十八話
要望がありましたので、章をつけさせていただきました。
第四十八話です。
ライラを通じて、彼女の冒険者パーティのメンバーであるフランさんに弓を教わることになった。
事前にライラから「お願いしておいたよー」という軽いノリで約束を取り付けてもらった僕は、シフとライム、そして暇をしていたリーファと共に、彼女が訓練場所として指定したギルドの訓練場へと移動していた。
その場には、軽く談笑しているライラ、フランさん、キールさんがおり、僕達の姿に気付くと手を振って迎えてくれた。
「じゃ、私達は上から見てるから」
「いや、君もやらないの?」
「うん、どこ飛ぶか分からないから」
自覚があるだけマシなのか、直そうとしないのがまずいのか分からないな。
ライラもキールさんも、上で見ているそうで、リーファと共に訓練場に備え付けてある観覧席にまで行ってしまった。
その場に残された僕は、背中にかけていた弓を確認しながらフランさんへ頭を下げる。
「今日はありがとうございます」
「ライラの頼みだしね。その代わり、けっこー厳しくやるから覚悟しておいてね」
「そこは望むところです」
「おっ! 男の子だね。そういうの嫌いじゃないよ。じゃっ、早速やろうか」
そう言って僕のとは比べ物にならないくらい高そうな弓を手に持つフランさん。
やや緊張しながら同じように僕も弓を取り出す。
シフは、僕の傍らにちょこんと座り、ライムはいつものように水筒に収まっている。
「弓を扱う上で大事なことはいくつかあって、まずは姿勢だね。背筋を伸ばして、目標をしっかりと見据えることが大事なの」
「はい」
「あとは腕の角度とか、矢の落ちる角度とかを覚えて、距離に応じて力加減を変えて―――」
腰のベルトに取り付けられた矢筒から矢を取り出し、弓へと番える。
静かに、音もなく弦を指で引いた彼女が、視線の先にある的を見て―――指を離す。
弓から離れ、真っすぐに飛んでいく矢。
それは寸分も狂いもなく、的のど真ん中に命中し、ビィィンという音を響かせた。
「こんな感じに放つの」
「……」
む、難しそうだ。
内心が顔に出ていたのか、僕の顔を見たフランさんはくすりと笑みを浮かべる。
「慣れていけば感覚で掴めるわよ。大丈夫、私がちゃんと見てあげるから頑張りましょう」
「はい!」
とりあえずは数をこなす。
勉強も訓練も近道はない。
フランさんの言葉に頷いた僕は、弓矢の扱い方を身に着けるべく目の前の訓練に取り掛かるのであった。
訓練から二時間。
その間、休憩を挟みつつ矢を射続けていたが、感覚を掴むまでかなり時間がかかった。
弦の引きすぎで指が痛くなってきたが、十回に二、三回は的に当たるようになったし、進歩があったと思う。
「フゥ――――、シッ!」
今日何度も繰り返した動作と共に矢を放つ。
それは山なりの軌道を描きながら一直線に、的へと飛んでいき――真ん中からやや逸れた位置に命中する。
「思ったよりも呑み込みが早いわね」
「結構時間がかかっちゃったと思うんですけど……」
「弓を触ったのはつい最近なんでしょ? 子供の頃から狩りとかしていたなら別だけど、ほぼ初めてにしては上手い方よ」
そ、そうなの……かな?
いや、基準が全く分からないから、現実味がないけどそれでも照れるものは照れる。
でもフランさんの話によれば、冒険者として活動するには棒立ちで矢を放っているだけじゃ駄目らしい。不安定な体勢から、時には動きながら正確な矢を放ち、トリッキーな戦いを繰り広げることが弓使いにとって重要とのこと。
「切っ掛けさえ掴んだら、次は感覚を覚えることね。それは訓練と実践を繰り返していけばおのずと身につけられるものよ」
「練習あるのみってことですね」
「そういうこと」
———あ、そうだ。
今の感覚を忘れないように、ライムの弓モードの方をやっておくか。
僕は水筒の中にいるライムに手を差し出す。
「ライム、弓の姿になってくれないか?」
「キュー」
「シフもこっちに来てくれ」
「うむ」
水筒から掌に乗ったライムの姿が細長く変化し、銀色の弓へと姿を変える。
それを右手から左手に持ち替えた僕は、黒猫から帽子に変身したシフを被る。
「ミスリルスライムってそういう姿にもなれるのね……」
「この姿だと、普通の力じゃ弦は引けませんから、シフに肉体強化を施してもらうんです」
「へぇ、ちょっと引いてみてもいい?」
「ライム、いいよね?」
「キュ!」
興味深そうにしているフランさんに、弓に変形しているライムを渡す。
「ミスリル製の弓とか普通は考えられないけど……うわ、本当に弦が硬い。私の力じゃ引けないわね」
「うむ、正真正銘、カイト専用といったところだな」
「まさにそれね。試しに放ってもらってもいいかしら?」
「もちろんです」
フランさんにライムを戻してもらい、10メートルほど離れた的の前に立つ。
ゆっくりと呼吸を整え、的のある場所の奥側にも、周りにも人がいないことを確認した僕は、シフが両腕の肉体強化施してくれたのと同時に、矢を番え、弦を引き絞る。
その硬さ故、弦からギリギリとした音が鳴り響く。
「———!」
「すごい音ね……」
気づけば、別の場所で訓練を行っていた冒険者たちと、観覧席にいるリーファ達の視線も集めていたが、今だけはそれを無視して、呼吸を止める。
しっかりと、目標を中央に収めた僕は静かに指を離す。
「シッ!」
放たれた矢は、練習のおかげか真っすぐと的へと突き進む。
やった! と思ったのも束の間、的へと直撃した矢は———木製のそれを木っ端みじんに砕き、貫通しながらも後ろの白い壁へと突き刺さった。
「あっ……」
「「「……」」」
瞬間、あれだけ喧噪に満ちた訓練場に静寂が支配した。
威力があるのは分かってたけど、これは生身の魔物に直撃したら大きさによっては木っ端みじんになるやつなのでは?
改めて、ライムの変形した弓の強さを再認識し頬を引き攣らせると、僕と同じような表情のフランさんが遠慮気味に声をかけてきた。
「カイト。君、本当にテイマー?」
「そのはずです」
「本当に末恐ろしい子が後輩になったわね。将来が楽しみではあるけど、ちょっと怖いかも」
「とりあえず、その弓は危ないからここでは使用禁止」と言われてしまったので、この場でライムの弓バージョンは封印となった。
確かにいちいち的を壊すわけにもいかないから、使わない方がいいだろう。
「ま、まあ、弓の感覚は大体つかめてきたでしょうし、次は魔法を合わせた応用をしてみましょうか」
「魔法を合わせた……応用?」
「説明するより、見たほうが早いわね」
そう言ってフランさんが弓矢を構える。
すると弦を引く彼女の手から、電撃のようなものが発せられる。
それは矢全体を包み込まれると同時に、彼女はそれを放つ。
「———ま、眩しっ」
すると、放たれた矢は強烈な光と電撃を放ちながら的へと直撃。
雷のような稲光を発しながら、的を焼き焦がしてしまった。
なんとかそれを見届けた僕は、その威力に驚愕する。
「これは、矢に魔法を纏わせたのだな? フラン殿」
「そう。ちょっと扱いが難しいけど、こうすることによって遠距離での魔法攻撃が可能になるってわけ」
帽子のシフの言葉に頷きながら、僕に矢を射るように促してくるフランさん。
矢に魔法を纏わせる。
僕の場合は、魔力を纏わせるに近いか。
「やってみる……か」
弓を構え、さっきのフランさんと同じように矢を純魔の魔力で覆う。
金色の魔力が矢を覆ったのを確認した僕は、それを構え―――放つ。
先ほどと同じように真っすぐに飛んで行った弓は的へと当たると、小さな花火のような金色の光をまき散らし、そのまま消えてしまう。
……これだけ?
「え、地味っ」
もっとこう、フランさんみたいなバチバチッとした感じに光り輝かないものなの?
フランさんも微妙な顔をしているし、普通にへこむ。
「か、カイト! 落ち込むことはない! 能力も使いようだ!! 純魔の魔力ならば、モンスターをおびき出す餌にもできるぞ!!」
「あ、ありがとう。シフ」
「それに、おぬしには私とハクロがいる。属性ならば常人の三倍あるといってもいい!!」
確かに、それもそうだ。
僕一人ではデコイにしかならない純魔の魔力だけど、テイマーとしての僕ならばシフ達の力を合わせることで、どこまでも強くなることができる。
それを改めて認識した僕は、折れかけた心を持ち直しながら続けて練習するべく、矢筒から矢を引き抜く。
「あ、ついでに近接用戦い方もやる? こう、矢を握ってヒュンヒュン、グサッ! って」
「い、いえ、遠慮しておきます」
「そう? なーんで誰もやりたがらないのかしら……便利なのに」
くるくると矢を指で回しながら、ぶんぶんと腕を振るうフランさん。
この人もこの人で、色々変わっているなぁ、と密かに思ってしまうのであった。
純魔アロー!(魔物が自分から当たりにくるかもしれない)
実際、純魔の魔力はテイマーじゃなければ、ただの魔力タンクでしかないのが……。
いや、今でも魔力タンクみたいなものですけども。




